野沢93番地十二町
ぴんころ地蔵通側
~柳田二助商店~
℡0267-62-0220
『創業120年祝』
【コラム:】
「使い込んでさ、使い勝手が判った
時分になると、あきてポイなんだから、
どういう気、してんだか」
<隣りの女>向田邦子
女が二人、真剣な表情で話しこんで
いる昼さがりの喫茶店。
「最近亭主に失望してるのよ、あたし」
「うちなんか失望通り超して、絶望よ」
「週に一回くらいは、なんとかして
もらいたいと思うじゃない? それが
せいぜいよくて月に二度よ」
「あら、それならまだいいわ、うち
なんてもう四か月もごぶさたよ」
「それじゃ部品が錆びついてしまうわね」
「えっ?部品?あっ部品ね、いやだわ、
ウフフフ」
「前なんて手入れもよくしてくれたん
だけど」
「ご主人が?」
「ボディ洗うの趣味なの」
「ん、まあ、うらやましいわ」
「石鹸ぬたくって、スミズミまでそれは
ていねいに洗うのよ。あらどうしたの?
あなた、身もだえしたりして?」
「だってうらやましいんだもの」
「でも頭にくるものよ、さんざんいじくり
まわして、乗り回して、使いこんでさ、
使い勝手が良くなってきたかなって
頃になると、あきて、ポイなんだから」
「まさか。ポイだなんて」
「本当よ。それが本気なの」
「冗談でしょ」
「それであなた、納得したの?」
「するもんですか。反対したわよ」
「そりゃそうよね」
「下取りなんて二束三文ですもの」
「断固、抵抗すべきよ、人権蹂躙じゅうりんだわ」
「えっ、人権蹂躙って?」
「えっ、えっ、何の話」
「たとえ言葉のアヤだとしても、許せないわ」
「車を下取りに出すことが?」
「えっ、えええ?車の話なの!?」