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言論圧殺の風潮への歯止め──政党機関誌配布事件、一人無罪確定

2012-12-14 | 日々のニュース

 ビラを配っただけで逮捕! そんな事件がまたしても起きました(12月8日、東京都知事選の候補者宇都宮氏の支持者が法定ビラをポスティングしていた)。

 大阪市では公務員の政治活動を制限する条例が成立し、大阪府においても同種の条例案が上程されています。公務員に対する攻撃は公務員だけにとどまるものではなく、必ずや全ての市民に対する言論の圧殺につながります。

 そんなことがまかり通る昨今の風潮に歯止めをかける最高裁判決が出されました。

 2012年12月7日、休日に共産党機関紙「赤旗」を配ったとして、国家公務員法(政治的行為の制限)違反の罪に問われた2人の元国家公務員に対する上告審判決で、最高裁第2小法廷は、1人を無罪、1人を有罪としたそれぞれの二審判決を支持し、上告を棄却しました。これによってそれぞれの判決が確定しました。

 同小法廷は、国家公務員法の政治活動禁止の規定そのものについては合憲としながらも、刑罰を科す政治的行為を「政治的中立性を損なうおそれが実質的にある場合」に限定する初判断を示しました。(第762号が無罪判決、第957号が有罪判決)

平成22年(あ)第762号 国家公務員法違反被告事件 平成24年12月7日 第二小法廷判決

平成22年(あ)第957号 国家公務員法違反被告事件平成24年12月7日 第二小法廷判決

 

「国民は,憲法上,表現の自由(21条1項)としての政治活動の自由を保障されており,この精神的自由は立憲民主政の政治過程にとって不可欠の基本的人権であって,民主主義社会を基礎付ける重要な権利であることに鑑みると,上記の目的に基づく法令による公務員に対する政治的行為の禁止は,国民としての政治活動の自由に対する必要やむを得ない限度にその範囲が画されるべきものである。」

「同項(国家公務員法102条1項)にいう「政治的行為」とは,公務員の職務の遂行の政治的中立性を損なうおそれが,観念的なものにとどまらず,現実的に起こり得るものとして実質的に認められるものを指し,同項はそのような行為の類型の具体的な定めを人事院規則に委任したものと解するのが相当である。」

 政治活動で訴追された公務員の無罪が最高裁で確定するのは初めてで、これまで国家公務員の政治活動に関する事件の判例となっていた1974年の「猿払(さるふつ)事件」の最高裁判決を実質的に変更するものとなっています。(ただし、千葉勝美裁判官が補足意見として、猿払事件とは事例が異なるので、その判決とは矛盾・抵触するものではないとわざわざ述べていますが、それはこの判決の中途半端さを示すものです。)

*猿払事件についてはこの記事を参照
  憲法って、面白っ! 第31回「猿払(さるふつ)事件」――公務員に政治活動の自由は?

 政治的中立性を損なう恐れが実質的にあるかどうかの判断基準としては次の項目が列挙されました。
(1)指揮命令や指導監督等を通じて他の職員の職務の遂行に一定の影響を及ぼし得る地位(管理職的地位)にあるか
(2)職務内容や権限に裁量があるか
(3)勤務時間内に行われたか
(4)国や職場の施設を利用したか
(5)公務員の地位を利用したか
(6)公務員による団体活動として行ったか
(7)公務員による行為と直接認識されるか
(8)行政の中立的運営と直接相反するような目的があったか

 これらに照らし合わせると、当時社会保険庁職員であったAさんはこのどれにも当てはまらず無罪となり、一方当時厚生労働省の課長補佐であったBさんはその地位が(1)に該当するとして有罪となりました。

 この点に関して、裁判官4人の内須藤正彦裁判官は、一般職の国家公務員が勤務外で行った政治的行為は法で禁止されている政治行為には該当せず、二人とも無罪であるとする反対意見を述べました。
 「公務員が政党の党員となること自体では無論公務員の職務の遂行の政治的中立性が損なわれるとはいえない。」「公務員の政治的中立性を損なうおそれが生じるのは、公務員の政治的行為と職務の遂行との間で一定の結び付きがあるがゆえであり」、「公務員が,いわば一私人,一市民として行動しているとみられるような場合」は、「そこからうかがわれる公務員の政治的傾向が職務の遂行に反映される機序あるいは蓋然性について合理的に説明できる結び付きは認められないというべきである。」

 また、 この事件の弁護団事務局長は、「最高裁はこれまで同種事件をことごとく有罪としてきた。猿払判決の実質的変更だ」と評価する一方で、「それならば大法廷に回付して、今の時代に合った正しい憲法判断をしてほしかった」と述べ、その不十分性を指摘しています。
 
 この最高裁判決については各紙が社説で取り上げています。

 琉球新報は「機関紙配布事件 言論封殺への厳しい戒めだ」とする2012年12月11日の社説において次のように述べています。(大阪市における市職員の政治活動を規制する条例について言及したのは、私の知るところ、この琉球新報の社説だけです。)

機関紙配布事件 言論封殺への厳しい戒めだ」琉球新報社説(2012.12.11) 

国家公務員が休日に共産党機関紙「赤旗」を配布したことが罪に問えるかが争われた事件の上告審判決で、最高裁は公務員であっても一切の政治活動が許されないことはおかしいとの判断を示した。
 国家公務員法が禁じる「政治活動」の範囲について、「政治的中立性を損なう恐れが実質的に認められるものに限る」との新たな枠をはめた。憲法が保障する「表現の自由」を従来よりも幅広く解釈し、公務員の政治活動の範囲を広げた。
  この枠組みに基づき、旧社会保険庁職員は控訴審での無罪、多くの職員に影響を与える地位にあったとみなされた厚生労働省の元課長補佐は有罪が確定する。
  欧米主要国では、勤務時間外や勤務先以外の政治活動は原則自由だ。公私を問わず、国家公務員の政治活動を広く規制し、刑事罰まで科す国は日本だけとされる。
  過剰な規制を見直し、思想信条や表現の自由に配慮することに踏み込んだ判決をまず評価したい。
  判決は、間接的に言論封殺の危険性を帯びた、異常な捜査を厳しく戒めている。
  2004年の社保庁職員の逮捕時、警視庁は29日間も最大11人の捜査員に尾行させ、6台のビデオカメラを回した。こうした捜査は「狙い撃ち」にほかならない。
  当時は、自衛隊のイラク派遣「反対」のビラを配った市民団体のメンバーらが相次いで逮捕されていた。国連の自由権規約委員会が08年に「懸念」を表明し、日本政府に対して表現の自由への不合理な制限撤廃を求めていた。
  判決は、特定の政党などを支持する公務員を問答無用に摘発する警察の捜査に警鐘を鳴らしている。
  日本維新の会の橋下徹代表が市長を務める大阪市が7月、市職員の政治活動を一律規制する条例を成立させ、自民や維新を軸に衆院選でも公務員の政治活動に厳しくたがをはめる動きが顕在化している。判決はやみくもな規制強化にくぎを刺した。
  政治的行為の基準にあいまいさが残り、同じ行為で無罪と有罪に分かれたことに疑問は尽きない。
  反対意見を記した判事は「一市民としての行動」として二人とも「無罪」を主張した。欧米諸国に比べ、突出して厳しい規定を判決は合憲とした。本来なら小法廷ではなく、15人の裁判官が大法廷で合議し、合憲か違憲かを徹底的に論じ、結論を出すべきだった。

 毎日新聞も「公務員政治活動 過剰な摘発への警鐘だ」 (2012.12.8)とする社説を掲載していますが、琉球新報の社説に比べると一般的・抽象的な印象があります。

 東京新聞の社説  「政党紙配布判決 言論を封殺せぬように」 (2012.12.8)では、「多い時は十一人もの捜査員を繰り出し、四台の捜査車両を使い、六台のビデオカメラを回した」捜査の異様さを指摘し、「言論ビラの配布は、表現の自由の一手段だ。政府への批判は、民主主義の“栄養分”である。国の行方が見えぬ時代こそ、モノを言う自由を大事にしたい。」と結んでいます。

 産経新聞の主張「赤旗配布訴訟 最高裁判決は禍根を残す」(2012.12.8)は、上記の社説とは対照的に、「事実上判例を覆す判断とはならないのか」と述べた上で、「実質的に中立性を損なう恐れが認められなければ罰を科せないというのであれば、公務員の政治活動が大幅に認められ、捜査機関の手足を縛る恐れすらある」と最高裁判決を激しく非難しています。
 産経新聞の主張は、権力の公使によって言論の圧殺をはかろうとする意図を如実に示しています。産経新聞がこれほどまでにこの判決に敵意をむき出しにすることで、逆にこの判決の意義が明らかになっています。(鈴)      


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