前代未聞の政治活動処罰条例
6月20日、大阪市の橋下徹市長は、大阪市職員の政治活動を勤務時間内外を問わず規制強化する前代未聞の条例案を作り、提案しようとしています。政治活動の自由は、憲法で保障されている基本的人権であって、それを侵すことは許されません。これまでそのような条例案が存在しなかったのは、基本的人権を侵し、憲法違反となるからです。
当初橋下市長は市職員の政治活動に対し、2年以下の懲役や100万円以下の罰金などの刑事罰を課そうとしていました。
大阪市:政治活動、市職員に刑罰 条例提案へ
毎日新聞 2012年05月23日 大阪朝刊
ところが、6月19日に、政府はこの条例案について大阪市が罰則規定を設けることは「地方公務員法に違反する」との答弁書を閣議決定しました。
大阪市:地方公務員の政治活動に罰則「違法」 政府が見解
毎日新聞 2012年06月19日 大阪夕刊
当日、これを受けて橋下市長は記者団に「政治活動に関わる制約は基本的人権で一番尊重しないといけない表現の自由に関わること。閣議決定を踏み越えてまで条例化するのはやっちゃいけない。閣議決定に従う」と話したということでした。
橋下市長:「政治活動に罰則」断念 違法の指摘受け
毎日新聞 2012年06月20日 02時14分(最終更新 06月20日 08時35分)
橋下市長にしては殊勝なことを言うと思っていたら、なんのことはありません。その翌日20日になって、政治活動のをおこなった職員は懲戒免職にすると言い出したのです。
しかも閣議決定が、地方公務員法で罰則を設けない理由として「地位から排除すれば足りる」からとしたことを逆手にとって、懲戒免職をするのはいいと政府がお墨付きを与えたかのように言ってるのです。
「閣議決定が『地位から排除すれば足りる』というなら、忠実に従う。(政府は)バカですね。政治活動については原則、懲戒免職にして、ばんばん排除していく」(橋下市長)
橋下市長:政治活動の職員、懲戒免職に
毎日新聞 2012年06月20日 21時58分(最終更新 06月21日 08時54分)
「バカ」と口汚く閣議決定をした政府をののしるのは、政府の意図が「法律違反」を持ち出して条例案に歯止めをかけようとしたなら、むしろそれを利用させてもらい、「懲戒免職」を盛り込むことを正当化できたと自分の“知恵”を誇っているわけです。
しかし、これまで自治体が政治活動を理由に職員を懲戒免職にした例はほとんどなく、もしも処分をめぐって裁判になれば、このような条例は憲法違反であるとして無効を言い渡されることになるでしょう。(もちろん、裁判官が良心に従い憲法と法律にのみ拘束されるという前提での話ですが)
橋下市長は、国家公務員法に公務員の政治活動を禁じる条文があるということを口を酸っぱくして言っており、地方公務員もそれと同じ扱いで何が悪いと言わんばかりですが、実際にそれが適用された事例としての猿払事件(1967年起訴 1974年最高裁判決)については、また項をあらためて紹介したいと思います。(鈴)