をとなの映画桟敷席         ~ほぼ毎日が映画館

映画取材から編集裏話まで、るかのここだけの話を忘れた頃にアップします

PERFECT DAYS(映画)

2024年01月31日 | 映画
映画「PERFECT DAYS

いろんな方向から語ることのできる本作。
例えば、あの「ベルリン・天使の歌」や「パリ・テキサス」のヴィム・ベンダース監督作品、カンヌ国際映画祭で役所広司が主演男優賞受賞、公共トイレの掃除人が主人公、個性的な東京の公共トイレ、ルー・リードなどの音楽…。

一つ言えることは、良い映画だったということ。

淡々と語られる主人公の毎日。朝、1本のコーヒー缶を飲み、車中でカセットテープを流し、トイレ掃除を丹念に行い、昼は木漏れ日の中で写真を撮り、帰りに軽く飲んで、読書と盆栽、そして音楽が心を満たしてくれる。
彼とかかわりを持つ若者と恋人や、彼の姪、いきつけの小料理屋のママさんなど、いろいろな人が登場してくる。
後半、ググっと主人公自身の話が垣間見える短いシーンでの麻生祐未の表情が印象的だった。

そしてラスト、このときだけの役所と三浦友和とのシーンが、これもまた短いシーンだが深く胸に刻まれジーンときた。

変わらないようで日々、変わっていく。これが生きているということ。

自分で観て、確かめてほしい、そんな映画でした。


首(映画)

2023年12月22日 | 映画
映画「

言わずと知れた北野武監督の新作。
今回は黒澤監督ばりに時代劇に挑戦。
役者も当代切っての面々が顔を揃え、セットも衣装もすごいね。

作品としては「アウトレイジ」、古くは「ソナチネ」や「その男~」のハードさのある作風というより、「みーんなやってるか」の雰囲気を感じたのだがいかがだろうか。
笑い、そして「たけし」としての遊びがふんだんに盛り込まれていて、肩の力を抜いて楽しんでいる、そんな印象を受けた。

それから、少し北野監督の幼少時代の思い出が投影されているのかな、と思ったのが、桐谷健太が演じた服部半蔵である。
彼だけは、ギャグ一切なして終始カッコよくキリリとした決め顔で出番が終わる。昔の東映時代劇のスターたちを投影しているのかなと、想像が膨らんだ。

反対に、時期的にもったいなかったなと思ったのが大森南朋。同時期に終了したばかりのNHK大河ドラマ「どうする家康」でも、主人公の相談役という同じような役どころだったため、その印象が強く…。

西島秀俊は「ドライブ・マイ・カー」を経ての北野映画への凱旋参加。文楽から時代劇となったが、次は現代劇の北野映画でぜひ。

この西島演じる明智と「首」の男との関係をはじめ、男色が一つのカギになっているが、くしくもTVで映画「GONIN」が放映されていて、主人公たち(佐藤浩市と本木雅弘)だけでなく、ヒットマン役のたけしとそれこそ小姓のような相棒との関係も男色関係のシーンがあり、自身が演じた役柄も「首」には投影されているのではないだろうかと思った次第。

個人的には津田寛治は昔から応援している役者の一人だが、映画序盤で死んでしまいなーんだと思っていたら、その後も何度か出てきましたね。


ミワさんなりすます(ドラマ)

2023年12月07日 | ドラマ
ドラマ「ミワさんなりすます」(NHK)

映画好きの人がニヤリとするドラマ。
毎日15分という短時間での夜の帯ドラマでしたが、とても面白かった。

ストーリーは、映画オタクの主人公が、ひょんなことから憧れの世界的な実力派俳優の家に家政婦として働くことに。
俳優の作品の隅々まで知りつくした主人公が、身分がばれそうになりながらも、俳優の支えやヒントを与えたり、立場をきちんと保ちつつ交流を深めていくといった内容。
主人公に松本穂香さん、世界的俳優に堤真一さん。

小道具にも映画ファンが分かるような工夫が。
有名俳優はあの人がモデルかなと思ったり、映画関係者が集まるバーに、ジム・ジャームッシュ監督作品風のポスターが貼られていたり。

映画以外にも、家政婦の一人を演じる片桐はいりさんが面白く、でも出しゃばりすぎず、楽しめました。





屋根裏のラジャー(映画)

2023年12月05日 | 映画
映画「屋根裏のラジャー

スタジオジブリ出身の次世代の人々がスタジオポノックを作って制作した初のアニメ映画。
冒頭から場面場面が美しく、躍動感にあふれてとてもいい!
ストーリーも最近のジブリ作品のように立ち止まって考えさせてしまわず、めくるめく楽しさが用意されていて、どんな世代でもワクワクドキドキさせてくれる。また、躍動感あふれる主人公たちのほか、ジブリ作品で出てくる得体のしれない怖いものも、このポノック作品ではイッセー尾形の声と相まって存在感アリだ。

なんといっても、子供だけのストーリーではなく、昔、子どもだった大人たちへのメッセージが終盤の映像に盛り込まれていて、不覚にも涙がこぼれてしまった。
とてもよかった。
観て損はない、その言葉を、スタジオポノックの最初の船出に送りたい。



哀れなるものたち(映画)

2023年11月25日 | 映画
映画「哀れなるものたち」

よく、海外での受賞や豪華俳優陣、あるいは大作扱いした宣伝文句を鵜吞みにして期待して観に行くと、裏切られたり、まずいなこりゃというときがある。内容は必ずしも悪いということではないのだけれど、ミスマッチなバイアスがかかったまま観ない方が映画は楽しめるんじゃないかな。
ということでいわゆる感動的な名作と思って連れて行かないように(R15で子供は観られない)。大劇場で観るというよりも、昔で言ったらバウスシアターなどで観たよ、といった感じの作品。

俳優陣は粒ぞろい。「ラ・ラ・ランド」主演のエマ・ストーン、相手役にマーク・ラファロ、そして主人公の父で医師役は、今や大御所ウィレム・デフォーとくれば、観てみたい、どんなだろうと想像を掻きたてられる。
「フォックス・キャッチャー」の演技や最近はアベンジャーズで知られるマークさんは、「はじまりのうた」の演技が秀逸だったのでご贔屓なので、特に期待。

少々ストーリーに触れると、医師にはハイティーンの美しい娘がいるが、行動や言動がトンチンカン。それもそのはず。実は娘は自殺した女性の体に宿っていた胎児の脳を移植した、いわばフランケンシュタイン。ウィレムさんのマッドサイエンティストの切れ気味演技は健在ですが、途中から主人公は世界を見たくなり、マーク演じるいい男(少々無理があるが)と父の元を出奔。
いろいろ経験を重ねていくが、知らない人々にだまされてすってんてんになり…。
とにかく裸・絡みシーンが多く、辟易。マーク演じる同行者を捨て進む道が、宣伝にある「女の自立」とは到底思えないところに、この映画か原作かの穴がある。
女はたとえ幼くても、生理的にNOなものには敏感なのだ。
目的のために淡々と誰とでも興じるというストーリー展開に、共感できずついていけなくなった。

うーん、そうだ!これは女性の自立ではなく、AIの進化の物語ではないか、と、ここで見方を変えていくことにした。
人間なら踏み越えられない一線や躊躇があるが、彼女は欲望に真っすぐで、生理的嫌悪感を感じることがない。人間じゃなくAI知能のロボットなんだと思えば腑に落ちる。
シンギュラリティ、怖いね、というのはこういうことなのだろう。