空飛ぶ自由人・2

旅・映画・本 その他、人生を楽しくするもの、沢山

短編集『グリフィスの傷』

2024年10月02日 23時00分00秒 | 書籍関係

[書籍紹介]

「しろがねの葉」で直木賞を受賞した
千早茜 (ちはや・あかね) による短編集。
「傷」をめぐる10の物語で構成。
「すばる」に連載時の連載タイトルは「傷痕」だった。

「竜舌蘭」
ある日を境に、高校のクラスメイト全員から
無視されていた少女が、
自転車通学途中、多肉植物の棘がはねて、
太ももに切創を受ける。
それをきっかけにいじめが発覚し・・・

「結露」
職場の同僚と処女膜再生と背中の傷と
グラスに出来る結露の話。

「この世のすべての」
マンションに住む犬嫌いの老人と
輪姦されて男性恐怖症になった女性の話。
老人の犬嫌いは実は犬に顔を噛まれたための
犬恐怖症であることを女性は知っている。

「林檎のしるし」
同僚のオクモトさんは奥さんのことを「キズグチ」と呼ぶ。
そのオクモトさんと段々近くなっていく過程で、
オクモトさんが湯たんぽで低温熱傷になる。

「指の記憶」
学生の時、バイト先の金属加工工場でバンドソーで指を切断した。
飛び跳ねた指を懸命に拾ってくれたのが千田さんだった。
千田さんは、同僚に蜜柑を配る奇異な人。
その千田さんが孤独死し、訪れた主人公は、
その手に蜜柑の匂いを感ずる。

「グリフィスの傷」
公園で見かける女性が
唇の横のほくろで、
昔、推しのアイドルだったことを知る。
その手首には、無数のリストカットの傷があり・・・
グリフィスの傷とは、
ガラス細工についた目に見えない傷が原因で、
わずかな衝撃で粉々になってしまう現象のこと。

「からたちの」
傷痕ばかり描く画家と知り合いになった女性が、
自分の腹部と胸と背中の傷痕について語る。
夫の不倫相手の女性に刺されたのだ。
その傷痕を見せると、画家は「美しい」と言う。

「慈雨」
父から冷たくされていた女性が、
自分の額の傷を、人形の額に描いた事実から
父が冷たくしたわけを、母親から初めて聞く。

「あおたん」
全身刺青で覆われた男「あおたんのおっちゃん」と
訳も分からず親しくしていた美少女が
長じて整形手術で顔を醜く変身させる。
おっちゃんの死を知った女性が
おっちゃんと同棲していた女を訪ねると、
刺青の入った皮膚は
大学医学部の医師に高額で売ったことを知る。
この作品が一番良かった。
書下ろし。

「まぶたの光」
これも書き下ろし。
先天性眼瞼下垂という
まぶたが開かない状態で生まれた女性が
手術でまぶたが開くようになる。
手術をしてくれた「さやちゃん先生」に愛着を感じて・・・

どの短編も
人の体につけた傷痕が題材だから、
ずしりと重い
一つ読むごとに、
次の短編に取り掛かるのに時間が必要だった。


映画『本日公休』

2024年10月01日 23時00分00秒 | 映画関係

[映画紹介]

台湾の台中市にある、昔ながらの理髪店「家庭理髪」。


女店主アールイは40年にわたって店に立ち続け、
ハサミの音を響かせている。


引っ越した遠くの町から通い続けてくれる常連客もいるが、
その一人の歯科医が病に倒れたことを知ったアールイは、
「本日公休」の札を掲げ、
古びた理容道具を持ち、
愛車に乗って先生のもとへ向かう。
スマホを忘れて行ったため、
連絡が取れずに、子どもたちはやきもきする。

このアールイの車での旅と並行して、
子どもたちの状況が描かれる。

アールイの夫はすでに他界しており、
二人の娘と一人の息子をハサミ一つで育てた。
長女のシンはスタイリストとして、
CM撮影の現場などで働いており、
次女のリンは都会の美容院で働いている
長男のナンは変なビジネスに手を出しては、
無駄な時間を過ごしていた。
三人の子どもはあまり実家に寄り付かず、
近所で自動車修理店を営む次女の元夫チュアンが
優しくて善い男で、元義母を何かと気にかけてくれている。

こうした事柄が
過去と現在の時間軸を交差して描かれる。
町の片隅にある古い理髪店で
起こる平凡な出来事、
台湾の道路を走るアールイの車の周囲の田舎の光景。
家族の絆と、
客との交流。
心が暖かくなる映像ばかりだ。

アールイは、客の後頭部を見て、
その人生を思う。
常連客との会話は、
わずかな時間の人生の交流。
常連の髪型の好みはもちろん、
接客時の会話から相手の家族の事情まで把握しており、
頭の形を見ると似合う髪型がわかる、
頭の後ろ側にも“もう一つの顔”がある、と言う。

女性監督のフー・ティエンユーの母親が理容師で、
主人公アールイのモデルになった。
撮影に使ったのも実家の理髪店だ。
描かれるのは、
監督が日常的に触れた原風景。
アールイを演ずるのは、
24年ぶりにスクリーンに復帰した名優ルー・シャオフェン


2023年の台北電影奨で主演女優賞を獲得。

特に事件らしい事件は起こらないが、
何か大事なことを見せられた気がする。
人生経験が豊かな人ほど、
この映画に魅かれるだろう。

全国の床屋さん必見の映画。

主題歌『同款』が素敵。

5段階評価の「4.5」

シネスイッチ銀座で上映中。

 

私は、48年間、市内の同じ理髪店で髪を切ってもらっている。
前に住んでいたアパートの隣にあった理髪店だ。
市内の別の場所に引っ越してからも、
15分ほど自転車を走らせて通う。
最初にやってもらった時、
私の髪は剛毛だったそうだ。
今は、髪が細くなり、
地肌が見え、
すっかり白くなった。
この床屋さんは、私の人生を知っている。