空飛ぶ自由人・2

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映画『PS-Ⅱ 大いなる船出』

2024年06月20日 23時00分00秒 | 映画関係

[映画紹介]

先月公開された「PS-Ⅰ 黄金の河」の続編
インドでは、前編は2022年、
後編は2023年に公開されたが、
日本では、5月6月と、1か月の間隔で、続けて公開

インドの伝説的な歴史小説
「ポンニ河の息子」(Ponniyin Selvan つまり、「PS」
を前後編で映画化。

10世紀、インド南部、タミル地方に実在した
チョーラ王朝の宮廷を舞台にした
愛憎と陰謀、国の存亡を懸けた戦いの物語。

前編のラストでは、弟のアルンモリ王子が海の藻屑と消え、
その訃報は、国全土に広まり、王国は悲しみに包まれた。
しかし、アルンモリは、何度も彼の窮地を救ってきた
謎の老婆に助けられ一命をとりとめていた。
そして、アルンモリと再会した長兄・アーディタと長女・クンダヴァイは、
密使の騎士デーヴァンにより、
王朝転覆の黒幕と計画の全貌を知る。


老王のもとに刺客が送られると共に、
アーディタは、計画を裏で操るナンディニの誘いに乗って、
その牙城に赴き、罠に自らかかり、
アルンモリにも刺客が放たれる。
王国に迫る最大の危機を三人の兄弟はどうやって乗り越えるか・・・

前編と違い、戦争シーンは最後だけで、
主に、愛憎渦巻く登場人物の数奇な運命を描く、
より重厚な人間ドラマが描かれる。
謎の老婆の正体、老王との過去だけでなく、
ナンディニの出生の秘密も明らかになる。
アーディタの苦悩はシェイクスピアのようであるし、
最後のくだりは、ギリシャ悲劇のよう。


登場人物の想いが伝わり、
胸が熱くなる人間ドラマだ。
俳優たちも難しい役どころを演じ切り、
インド映画陣の層の厚さに驚かされる。
しかし、相変わらず、顔の区別がつかないが。
また、映画における音楽の重要性も改めて知らしめてくれる。
(音楽はオスカー受賞者A・R・ラフマーン

監督・共同脚本・共同製作はインド映画の巨匠マニラトナム

5段階評価の「4」

新宿ピカデリー他で上映中。

私が観た市川妙典の映画館では、がら空きだった。
娯楽に徹した、こんなに面白い映画なのに。
しかし、10世紀といえば、
日本での平安時代に当たる。
さすがに関心がないか。

 


映画『ビューティフル・ゲーム』

2024年06月12日 23時00分00秒 | 映画関係

[映画紹介]

車上生活を送っていたヴィニーは、
子どもたちとサッカーに興じている姿を見かけた
コーチのマルに声をかけられて、
「ホームレス・ワールドカップ」に参加するため、
ロンドンからローマに向かう。

ホームレス・ワールドカップとは、
ホームレスによるサッカーの世界大会。
2003年から毎年開催され、
参加チームは全世界から70以上。

正規のサッカーグラウンドが
105m×68mに対し、
20分の1の22m×16mと、
フットサルより狭く、
バスケットボールのコートより、少し小さい。
コートはフェンスで囲まれ、ボールが場外に出ることはない。


選手はキーパーも含め1チーム各4人
試合時間は7分+7分。

選手資格は、16歳以上の男女で、
開催前年にどこかでホームレス生活をしていること。
主な収入の手段が路上での雑誌販売であること。
過去に行われたホームレス・ワールドカップへの出場経験がないこと。
つまり、連続出場は出来ない=選手は固定出来ない=職業化出来ない。
なのに、ブラジルとメキシコがやたらと強いのは何故?
(両国が3回ずつ優勝)

本作では、イギリスチームはもとより、
南アフリカ、アメリカ、イタリア、日本などのチームが描かれる。
クルド人問題や移民問題などが織り込まれ、
ダメチームが全員の努力で勝ち進む、
おなじみのストーリー。

最後の方でヴィニーの過去と
マルがヴィニーに声をかけた理由が明らかになる。
3位決定戦に参加できなかったヴィニーをどうするのかと思ったら、
ああいう形で締めくくるとは。
なるほど。

監督はテア・シャーロック
コーチ役はビル・ナイで、
ガッツポーズをする英国紳士・ビル・ナイの珍しい姿を見られる。

Netflix 3月29日から配信。

なお、同名のミュージカルがあり、
これは、「オペラ座の怪人」や「キャッツ」などで知られる作曲家、
アンドリュー・ロイド= ウェバーの作品。
1970年代のアイルランドを舞台に、
サッカーに青春をかける少年たちが、
カトリックとプロテスタントの熾烈な争いに巻き込まれていく姿を描く。


2000年から1年間、ロンドンで上演され、
日本でも昨年上演された。

ロイド= ウェバーが既に神通力を失ってからの作品なので、ヒットしなかった。


映画『グレート・スクープ』

2024年05月14日 23時00分00秒 | 映画関係

[映画紹介]

2019年、
イギリスのアンドリュー王子への
テレビのインタビューを巡る、
報道陣の動きを描く。

アンドリュー王子とは、
エリザベス女王の次男
つまり、チャールズ現国王の弟。
イギリス王室の成員・貴族・軍人で、
ヨーク公爵
その王子に、
アメリカの富豪ジェフリー・エプスタインとの交友関係に関する
スキャンダルが持ちあがる。

エプスタインは2006年に児童売春で有罪判決を受けて服役、
出所後、2019年に性的虐待の疑いで再逮捕。
後、拘置所内で自殺。
その際の裁判資料にアンドリュー王子や
クリントン元米大統領の名前が含まれていた上、
被害者の当時17歳の少女の1人が
アンドリュー王子と
複数回に渡り関係を持ったことを明かした。
世間の注目はアンドリュー王子に向けられた。

イギリスの放送局・BBCの
報道番組「ニュースナイト」のプロデューサーである
サム・マカリスターらは、


アンドリュー王子へのインタビューを
イギリス王室に打診する。
国民の疑問の高まりで、
番組への出演を決めたアンドリュー王子に、
司会のエミリー・メイトリス
事実を提示し
巧みに王子を追い詰めてるインタビューをする。


その放送に至るまでの舞台裏を、
無理だと思われていたことを成し遂げる勇気と信念を持ち、
決して諦めなかった女性たちの姿として、
余すことなく見せる。
王室広報官に対する緊迫した交渉、
王子を守ろうとする王室側と
真実を突き止めようとする報道側の攻防戦。
2019年11月14日
インタビュー当日の緊張感。
王室主導のインタビューには、
質問の内容も事前に王室がチェックしたものだけという
厳しい規制があったが、
それでもエミリーは公平を期した目線で
エプスタイン事件に切り込み、
アンドリュー王子の口から真実を引き出す。
収録後、王室からの介入はなかった。

インタビューは生放送ではなく、録画。
インタビュー場所はバッキンガム宮殿
終了後、アンドリュー王子自身は「上手くいった!」と思ったようだが、
インタビューは対象者の表情がものを言う。
原告女性と会った記憶はないと語ったが、
嘘をついているのが如実に伝わる。
映像の怖さだ。

なにしろ、当該少女と一緒に写っている写真↓があるのだ。

アンドリュー王子が少女の腰に手をまわしている。
「会ったことがない」という嘘は通じない。

インタビューはBBC史上最高視聴率を獲得し
多数の賞を受賞。
アンドリュー王子は放送後に、全ての公務から退き
王室メンバーとしての地位の全てを失った。
王族の敬称である「ロイヤルハイネス」(殿下)も使われなくなった。

その後、2022年に、少女とは和解
金額は明らかにされていないが、
1200万ポンド(18億7千万円)だと言われている。
ただ、和解文書では、性関係を持ったとは名言していない。

BBCといえば、
あのジャニーズ喜多川の性加害問題を取り上げたテレビ局。
長年、日本のメディアが沈黙を守っていた案件が
白日のもとにさらされ、
その後の展開はご存知のとおり。
真実を報道するという、
報道機関の使命の違いを如実に見せつけた。

映画の中で、
放送の後、プロデューサーは言う。
「これがニュースナイトの役割。
他の番組が取り上げない話に時間を割く。
国民にとって重要で語られるべき問題を。
権力者の責任を問い、
被害者の声をすくうのです」

サム・マカリスターがコーヒーショップで、
番組のことで声をかけられる。
「これ、観た?
撮影の現場にいたかったな」
すると、サムは誇らしげに言う。
「ええ、私はいたわ」

サム・マカリスターの自伝にもとづく。
登場人物は全員実名
俳優もよく似せている。
ジリアン・アンダーソン、ビリー・パイパー、
ルーファス・シーウェル、ロモーラ・ガライらが出演。
監督を手掛けるのはフィリップ・マーティン
脚本はピーター・モファットジェフ・ブッセティル。                  
みごたえるのある人間ドラマだった。

Netflix で4月5日から配信。
                                        


映画『エドガルド・モルターラ ある少年の数奇な運命』

2024年05月11日 23時00分00秒 | 映画関係

[映画紹介]

1858年、イタリアのボローニャの
ユダヤ人街に住むモルターラ家に
教皇から派遣された兵士たちが訪れ、
6歳になる息子エドガルドを連れ去ってしまう。
両親は息子を取り戻すために奔走するが、
神学校に入れられたエドガルドに会うことは出来ても、
家に連れ帰ることは叶わない。

教皇側の言い分は、こうだ。
エドガルドはある人物から洗礼を受けており、
キリスト教徒であるから、
ユダヤ人の家庭では育てることは出来ず、
敬虔なクリスチャンになるための教育をする
というのだ。

事件はおおやけとなり、
世論と国際的なユダヤ人社会に支えられて、
モルターラ夫妻の闘いは急速に政治的な局面を迎える。
当時は、イタリアの独立闘争の真っ只中であり、
自由主義運動が勃興し、
保守反動的なローマ・カトリック教会と
民衆が対立していた時代。
31年間という、歴代最長在位期間を誇る
時のローマ教皇ピウス9世は、
弱体化著しかった教会の権威回復と、
権力を強化するために、
かたくなになってしまう・・・

というわけで、一人の子供を巡っての
カトリック教会とユダヤ教との争奪戦を描く。

つくづく宗教はやっかいだと思う。
宗教の特性は、
自らの正当性無謬性だから、
妥協することがない。
大の大人が寄ってたかって、
幼い子供の脳みそに手を突っ込み、
自分の側に引き寄せようとする。
親子の情愛など、歯牙にもかけない。

途中で「洗礼」の真相が明らかになるが、
幼いエドガルドが病気の時に、
出入りしていた家政婦が救いを与えようと、
容器に入った水を頭に垂らしただけだと分かる。
本来、洗礼は聖職者がしなければ無効だが、
瀕死の瀬戸際には、聖職者以外の者が施すことが出来るのだという。
しかし、何も分からない赤子にほどこした
「洗礼もどき」のもの根拠に、
教皇庁が拉致するのだから、あきれる。

元々洗礼は、水の中に頭まで浸かって(浸礼)、
一度死んで蘇る、という意味があるのであって、
頭に水を垂らしてするのは、「滴礼」と言って簡易型のもの。
今でも、教派によっては、
浸礼しか認めないと、
礼拝堂の床に水槽を備えているところもある。
いずれにせよ、
キリストの時代とは、やり方が違う

成人したエドガルドの「粗相」を
ピウス9世がとがめて、
ある反省の行為をさせるが、
もしキリストが蘇ってその様を見たら、
「私はそんなことをしろとは言っていない」
と否定するだろう。
ついでに言うと、
今の日本の仏教がしている戒名や法事を
ブッダが見たら、
「こんな事を誰が定めたんだ」
と拒絶するだろう。

驚くような描写もある。
エドガルドが祭壇にある磔刑のキリスト像によじ登り、
手足に打たれた釘を抜いてやると、
キリストが解放されて、自由に歩み去るところ。
エドガルドの夢なのだが、
子供の純粋な目だとそう見えるのだ。
もう一か所、一緒に教育を受けていた子供が病死した際、
その葬儀の場で、子供同士が
「祈ったけど無駄だったね」
と言うところ。
これも子供の視点から真理を突いている。

約150年前の事件を描くが、
現代にも通じる多くの課題を突きつける。
宗教に根ざした戦争は今も続いている。
取り戻そうとする両親を拒む教会の姿に、
カルト教団に子供を奪われて闘う父母の姿や
北朝鮮に拉致された被害者を取り戻そうとする肉親の姿が重なる。

ローマの歴史的宗教建造物が沢山出て来るが、
カソリックの暗黒史に加えられそうな事件の内容で、
よく撮影許可が出たものだ。

二つ宗教に挟まれて呻吟する
子供の姿を描いて胸が痛かった。

近代史の出来事を積極的に描こうとする
スティーヴン・スピルバーグ(ユダヤ系)が映画化を目論み、
書籍の原作権を押さえたのだが、


結局、映画化を実現したのは
イタリアの巨匠マルコ・ベロッキオだった。

原題の「Rapito」は「誘拐」の意。

5 段階評価の「4」

ヒューマントラストシネマ有楽町他で上映中。

 


タイラー・レイク 命の奪還 1・2

2024年05月06日 23時00分00秒 | 映画関係

[映画紹介]

「マイティ・ソー」「アベンジャーズ」シリーズの
クリス・ヘムズワースが主演を務め、

「キャプテン・アメリカ」「アベンジャーズ」シリーズの監督
アンソニー&ジョー・ルッソ兄弟が製作、
「アベンジャーズ エンドゲーム」などで
スタントコーディネーターを務めた
サム・ハーグレイブが初メガホンをとった、
という、
マーヴェルファンには垂涎のNetflixオリジナル作品

ムンバイで、犯罪組織のボスの息子・14歳が誘拐される。
犯人は、ダッカのボス。
身代金が要求されるが、
父親は身代金を支払うよりも
傭兵に息子の救出を依頼する。
オーストラリアの傭兵タイラー・レイクは、
チームと共に、
バングラデシュの首都、ダッカに向かう。

敵のアジトに単身突入したタイラーは
少年の奪還に成功するが、
ダッカを牛耳るボス支配下にある
街中のギャングたちから猛追される。


最初の救出地点から変更した
街を流れる川の橋の東の地点へ到達できるか。
タイラーと少年の苛酷な旅が始まる・・・

やはりスタントマン出身の監督だけあって、
アクションシーンが卓抜
中でも、前半に出て来る逃走劇がすごい。
途中で、えっ、これ、もしかしてワンカット
と気づいて、少し巻き戻し、
おお、ここからワンカットが始まったか、
と確認して観る。


カーチェイスで、
タイラーの車を追走したカメラは、
窓から中に入り込み、
追って来る敵の車を写し、
大破する様を捕え、
いつの間にか車の外に出て、
追って来る車の間をかいくぐる。
下車したタイラーたちが
共同住宅に入り込み、
その中でのアクションを追う。
人が住んでいる部屋にずけずげと入り、
隣の建物にジャンプすると、
カメラごとついて行く。
更に、上階からカメラごと地上に落ちると、
そこでのナイフバトル。


盗んだトラックに少年を乗せて、
再びカーチェイス。
そして、二人が脱出した後、
トラックは炎上する。
ここまで11分29秒
いくつかのテイクをつなげて
ワンカットに見せかけているのだが、
(一説には、37テイクをつなげているという)
分かっていても、ワンカットの志が伝わって来る。

昔の仲間に匿ってもらった後、
最後の橋でのバトル。
ダッカの警察と軍隊を敵に回しての闘い。
そして、タイラーは銃で撃たれ、
橋から川に落ちてしまう・・・

多彩なアクション、
それを捕える見事なカメラワーク。
監督のセンスが光る。

堪能した。
2020年4月24日から配信したNetflixオリジナル作品。
劇場で上映しないのがもったいない

 


第1作が好評だったので、作られた「2」
前作同様、
アンソニー&ジョー・ルッソ兄弟が製作、
ジョー・ルッソが脚本を担当。
サム・ハーグレイブが監督。
主演は、もちろんクリス・ヘムズワース


Netflixで2023年6月16日から配信。

前作で死んだと思わたタイラー・レイクは
救出されて、生き延びる。
リハビリを受け、歩けるようになると、
山中にリタイア後の生活拠点を与えられるが、
そこに訪れる人物がいて、次の依頼をする。
刑務所に監禁されているジョージアの残忍なギャングの家族を
救出するという新たな任務に、
再び命をかけた危険な戦いに身を投じていく。
(実は、ギャングの妻は、タイラーの別れた妻の妹なのだ)

前作同様、ワンカットの長回しを期待したが、
やはり出て来た。


刑務所に潜入したタイラーは、
母親と息子娘を救出。
しかし、凶悪な囚人たちに襲われ、
更に刑務所内の暴動に巻き込まれ、
襲撃される。
囚人たちとのバトルがすさまじい。

ようやく刑務所を出たタイラーたちだが、
ここで、カーチェイス。
そして、列車に乗り込む。
ヘリコプターが追撃してきて、
ヘリコプターから兵士らが乗り込んで来る。
走る列車の上での格闘。

一体どうやって撮ったんだ、
と驚く映像が続く。
そして、最後はブレーキの効かなくなった列車は
脱線転覆、
列車内のカメラがグルグル回る。

計ってみたら、21分12秒
前作のワンカットの倍近くスケールアップ。
テイクをつながないと不可能だ。
それにしても、この一連の流れを
ワンカットでやろうとして、
計画し、実行する
その志が素晴らしい。

あとは、ウィーンに逃れたタイラーと母子を
犯罪組織が襲う。
高層ビルの上階でのアクション。


ずっとハラハラドキドキが続く。
息をつがせずの展開。
満腹。

タイラーの別れた奥さんも登場。

続編があることはありありの終わり方だ。
前にも書いたが、劇場で公開されないのがもったいない

Netflixは駄作も多いが、
こういう作品にぶち当たるから、やめられない。