空飛ぶ自由人・2

旅・映画・本 その他、人生を楽しくするもの、沢山

映画『アノーラ』

2025年03月09日 23時00分00秒 | 映画関係

[映画紹介]

ご存知、先のアカデミー賞
作品賞・監督賞・主演女優賞・オリジナル脚本賞・編集賞
主要5部門で受賞した「2024年度ベスト1の映画」。
カンヌ国際映画祭でもパルムドールを獲得。

ニューヨークでストリップダンサーをしている
“アニー”ことアノーラは、
客で来店した、同じロシア系の若者、イヴァンに気に入られる。
住いを訪ねてみると、
ものすごい豪邸。
実はロシアの財閥の御曹司だったのだ。
彼がロシアに帰るまでの7日間、
1万5千ドルで“契約彼女”になったアニーは、
パーティーにショッピング、贅沢三昧の日々を過ごすが、
休暇の締めくくりに行ったラスベガスの教会で
衝動的に結婚してしまう。


しかし、息子が“娼婦”と結婚したと噂を聞いたロシアの両親
結婚を無しにすべく、男たちを送り込んできた。
酔って所在不明のイヴァンを探し回る最中、
イヴァンの両親がロシアから到着。
結婚無効の手続きは、
結婚した現地、ラスベガスでしか出来ないため、
一堂、チャーター機でラスベガスに乗り込むが・・・

前半、アノーラとバカ息子・イヴァンのご乱行は、
金まみれ、セックスまみれで、
観ていて苦痛だった。
しかし、後半、ロシア人たちが乗り込んで来ると、
俄然面白くなる
屈強な男たちに対抗して闘うアノーラが
けなげで、可愛く見えるからだ。
若い薄幸な女性が、
自らの幸せを勝ち取ろうと
全力で奮闘する等身大の生き様は共感できる。
ラストはほろ苦く、余韻がある。
周囲のロシア人たちや
アノーラのストリッパー仲間も
よく描かれている。

とにかく、後半は面白くて、時間を忘れる。
波乱万丈ノンストップの勢いで、
その勢いのまま、
アカデミー賞では5冠を獲得。
最近のアカデミー賞は、
「パラサイト」「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」など、
勢いに乗ったものが勝ち、の傾向がある。
作品賞に必要な「品格」など、もはや誰も問題にしないらしい。
だから、これらの映画を作品賞に選んだ反省は
後からやって来るだろう。

アノーラを演ずるのは、映画の実績はそれほどない、
新人扱いのマイキー・マディソン


一生に一度巡って来るか分からない大役を見事に演じ切り、
アカデミー賞主演女優賞を勝ち取った。

監督のショーン・ベイカーは、一人で
オリジナル脚本賞・編集賞を含む4冠の離れ業。
つまり、この映画、
ショーン・ベイカーの才覚で成り立っている。
あの名作「フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法」(2017)の監督だから、
まぐれではないと分かる。

5段階評価の「4」

拡大上映中。

 


映画『リアル・ペイン~心の旅~』

2025年03月05日 23時00分00秒 | 映画関係

[映画紹介]

ニューヨークに住むユダヤ人のデヴィッドとベンジーは、
従兄弟同士。
兄弟同然に育った二人だが、
最近は、忙しくて疎遠になっていた。
しかし、亡くなった祖母の遺言で、
祖母の故郷・ポーランドへの旅行に参加する。
現地集合したツアーのメンバーは、
定年退職を迎えた夫婦、
最近離婚された女性、
ルワンダの虐殺を生き延びて、
ユダヤ教に改宗した黒人、
それに従兄二人。
全員ユダヤ人だ。


イギリス人のガイドと共に旅する7人は、
ナチスと戦った人々の記念碑を訪れ、
強制収容所を訪ね、
ホロコーストという現実に目を向けざるを得ない中、
次第に理解と共感を深めていく。
そして最後に二人はグループを離れ、
昔祖母が住んでいたという家を訪ねるが・・・

アメリカで生まれ育った青年にとっては、
ポーランドなど、関心がなかっただろうが、
現地では、ユダヤ人への迫害の歴史が迫って来る。
自分たちのルーツを辿る旅は、
“リアル・ペイン”(本当の痛み)を伴うものだった・・・

デヴィッドとベンジーは正反対な性格で、
思ったことをすぐ口に出し、
周囲を振り回すタイプのベンジーは、
生きづらさも抱え、マリファナを常用している。
デヴィッドも、精神安定剤を服用しながら生きている。
旅を巡り、それぞれの生きづらに向きあう力を見いだしていく。
デヴィッドとベンジーのやり取りは軽やかで時にユーモアがあり、
物語に親しみを感じさせてくれる。
ホロコーストの悲劇は直接描かず、
全体的にコメディタッチで描いている。

製作・監督・脚本・主演は
「ソーシャル・ネットワーク」(2010)でマーク・ザッカーバーグを演じた
ジェシー・アイゼンバーグ
ホロコーストにより迫害された叔母が住んでいた
小さな家を訪れた経験を映画の中に取り込んだ。
ショパン空港、ゲットーの英雄記念碑、
蜂起記念碑、ルブリン強制収容所などを巡り、
背後には、ショパンのピアノ曲が流れる。
ほぼポーランド人スタッフだけで製作が行われている。
強制収容所のスタッフは、
撮影不可能と思われていた状況を覆し、
現地での撮影に協力したという。

デヴィッドを演ずるのは、ジェシー・アイゼンバーグ。
従兄のベンジーはキーラン・カルキン。(マコーレー・カルキンの弟)。
先のゴールデングローブ賞とアカデミー賞で
助演男優賞を受賞。
アイゼンバーグ自身も脚本賞にノミネートされている。

空港で始まり、
空港で終わるカメラワークがセンスを見せる。

人生で、一度は、こういう旅が必要だろう。

原題「A Real Pain 」は、「本当の痛み」の他、
「面倒なやつ、困ったやつ」といった意味。

5段階評価の「4」

拡大上映中。


映画『愛を耕す人』

2025年02月21日 23時00分00秒 | 映画関係

[映画紹介]

かつて、「マット・デイモンにハズレなし」
我が家の家訓だった。
しかし、それも「グレートウォール」(2006)で、もろくも崩れた。
代わったのが、マッツ・ミケルセン


“北欧の至宝”マッツ・ミケルセン出演の映画にハズレはない
美男でもなんでもないのだが、
そのたたずまい、挙措に哀愁がにじみ出る。
アカデミー賞の国際長編映画賞受賞作の
「アナザーラウンド」(2020)など、


ラストの酩酊状態で踊る姿に、
どうして酔っ払いのダンスが胸を撃つのだろうと、
不思議に思ったものだった。

この映画もマッツだからこそ成り立った作品。
イダ・ジェッセンによる歴史小説「The Captain and Ann Barbara 」を
発売前に読んだニコライ・アーセル監督が感銘を受け、
マッツに声をかけたことで映画化が実現した。
ニコライ・アーセル監督といえば、
ベルリン国際映画祭で2つの銀熊賞(男優賞/脚本賞)に輝いた、
デンマークの宮廷を舞台に、
王と王妃、侍医の三角関係を描く傑作、
「ロイヤル・アフェア 愛と欲望の王宮」(2012)で、
マッツの才能を開花させた人。


その二度目のタッグ。
これは、観なければなるまい。

18世紀デンマーク。
広大な王室所有の荒れ野が放置されていた。
退役軍人のルドヴィ・ケーレン大尉が、
ひとり荒野の開拓に名乗りを上げる。
草木の生えない荒地に
じゃがいもを植えて、収穫を待つ。
しかし、地元領主のフレデリック・デ・シンケルが
自らの勢力が衰退することを恐れ、
様々な手段で妨害する。


集まった開拓民の中にも、
迷信と無知と人種差別が潜んでいる。
襲い掛かる寒冷地の自然の脅威
地元領主からの非道な仕打ちに抗いながら、
シンケルのもとから逃げ出した使用人の女性アン・バーバラや
家族に見捨てられた少女アンマイ・ムスと共に、
開拓を続けるが・・・

デンマーク開拓史の裏側に隠された、
実在の英雄とその疑似家族を辿る物語。
マッツ演じる主人公ケーレン大尉の、
無言の演技が画面を引き締め、
重厚な作品になった。

デンマーク・ドイツ・スウェーデン合作。

5段階評価の「4」

新宿ピカデリー他で上映中。

 


映画『ドライブ・イン・マンハッタン』

2025年02月18日 23時00分00秒 | 映画関係

[映画紹介]

夜のニューヨーク。
ジョン・F ・ケネディ空港から一人の女性が定額タクシーに乗り込む。


女性はプログラマーで、
オクラハマの故郷の姉を訪ねての帰り。
姉は11歳離れており、性格が悪いという。
母は娘たちを残して家を出、
6歳の時に父親とも別れた。
父との別れの日の記憶は姉と食い違っている。

運転手はタクシー歴20年の中年男性。
2回の離婚歴があり、
人生の辛酸を味わい尽くしており、
女性がスマホでやり取りしている相手が
既婚者だと見抜く。
こうして、二人は、それぞれの人生を語っていく。

運転手と客の交流を描くのは、
「パリ タクシー」 (2022)と同趣旨だが、


「パリ タクシー」は回想を交えての展開。
しかし、本作は、
マンハッタンの女性の自宅まで
渋滞に巻き込まれながらの100分間
徹頭徹尾、二人の会話だけで終始する。

脚本と監督は、劇作家でもある、
クリスティ・ホール
会話劇はお手の物だ。
最初は舞台劇を想定していたらしい。
優れた脚本が世界中から集まる
“脚本家専門サイト”「ブラックリスト」で
第3位にランクイン。
ダコタ・ジョンソンの製作会社「ティータイム」が獲得し、
脚本家を長編初監督にした。


会話は、シニカルなジョークを交えながら、
車内という閉ざされた空間で交わされる2人の会話は、
次第に本質に触れて来る。
二度と会うことのない関係だからこそ、
お互いの本音を打ち明けていく二人。
最初はバックミラー越しのやり取りで交わされた会話も、
渋滞に嵌った時、
運転手が仕切りの窓を開け、
乗客の方を向いて語り出す。

困難な恋愛を抱えている女性は
次第に心を開いていく。
最後に、女性は誰にも言わなかった
オクラホマでの人生の秘密を運転手に明かす。

ラスト、運転手との別れの際に差し出された手を握らず、
彼の頬に触れる。
父親との別れの際の記憶、
不倫相手に父性を求めていたことが分かる。

女性を演ずるのは、
「フィフティ・シェイズ」シリーズのダコタ・ジョンソン


美人。
製作も兼ねる。
運転手を演ずるのは、ショーン・ペン


「ミスティック・リバー」(2003)、「ミルク」(2008)で
アカデミー賞受賞歴2回の名優。
友人でもある二人が
完全二人芝居に挑戦。
冒頭、空港の配車係が行先を訪ねる以外は、
ずっと車内の会話に終始。
時間進行と映画時間が一致するワンシチュエーション劇。
その意欲と志を買う

ニューヨークの夜景が
ぼやけて窓の外に写り込むが、
観光的な描き方はしない。

5段階評価の「4」

シネスイッチ銀座他で上映中。

 


映画『6888郵便大隊』

2025年01月09日 23時00分00秒 | 映画関係

[映画紹介]

第二次大戦下、
兵士と家族の間の手紙を届けるのに尽力した陸軍婦人部隊の
実話に基づくヒューマン・ドラマ。
6888は、「シックス・トリプル・エイト」と読む。

合衆国東部の町で、母と伯母と暮らす学生のリナ。
黒人差別意識のない白人の恋人エイブラムとの仲も良好だった。
しかし、軍人として戦地に赴いたエイブラムは還らぬ人になってしまう。
悲しみに暮れるリナは決意する。
軍に入り、ヒトラーと戦う、と。

リナが配属されたのは“6888大隊”。
黒人や有色人種から成る婦人部隊だ。
やがて隊にある任務が下る。
それは、戦場の兵士と家族の間で交わされる手紙が
行方不明になっているのを解消する任務だった。

それは、一人の婦人が大統領夫人に直訴したことによる。
婦人は二人の息子を戦場に送ったが、
3年間音信不通。
それは、全国で起きており、
家族から戦場の息子たちに送った手紙が届かず、
返事ももらえず、
多くの国民は不安と不満を抱えていた。

調べてみると、軍隊には、届けられていない郵便物が
袋に詰められたまま、滞納されていた。
宛先不明だったり、
兵士が任地を移動して場所の特定が出来なかったり、
理由は様々だが、
軍上層部は、戦略物資を届けることを先にし、
手紙は優先順位が低いとみなし、
放置していたのだ。

6888大隊の女性たちは、
これらの滞貨の処理に当たる。
手紙などの郵便物を仕分け、届けるルートに乗せる。
言ってみれば、戦局に何の関係も影響も無いような雑用。
だが、本当にそうか?
戦地の兵士たちは家族や恋人からの手紙を心待ちにしている。
故郷の家族や恋人たちも、兵士からの手紙で無事を知る事が出来る。
兵士たちの士気や精神面を支える、これも重要な任務だ。

リナもエイブラムは手紙を出すと言っていたが、届かず、
待っている側の気持ちは痛いほど分かる。
だからこそ、届けたい。
細かな作業だが、重労働。
作業場は最悪の環境。
冬の時期、暖房も無い。

そして、軍内部で受ける差別偏見の数々。
女性、ましてや黒人、有色人種というだけで差別され、
功績も認められない。
差別偏見に満ちた周囲の醜悪な白人男ども。
軍の何処にも居場所は無く、味方もいない。
あからさまな嫌がらせ。
悪どい噂。
現代ならば何もかもがハラスメント。
しかし、屈しない。
差別や偏見、嫌がらせを言い訳にしない。
それを体現したのが、隊長のチャリティー・アダムズ大尉。
リーダーシップに溢れ、常に毅然とし、
視察に来た大将にも堂々と立ち向かう。
アダムズを演ずるケリー・ワシントンが熱演。

やがて、エイブラムが死の間際まで持っていた
リナへの手紙が発見され、
リナはエイブラムの墓前で読む。
リナの溢れる涙は胸を打つ。

最初は進まなかった郵便作業だが、
部下たちからの意見、各々の前職や特技を活かし、作業は進み、
たった90日間で、
滞っていた1700万の郵便物が
待っている大切な人の元へ届けられ、
兵士たちの士気と希望を大きく高めた。
手紙を受け取る兵士たちの
喜ぶ姿が感動的。

このような部隊がいたことをほとんどの人が知らなかった。
彼女たちの功績が知られたのは、つい最近の事だという。
リナは、実在の人物
エンドクレジットで、
100歳となった現在のリナがインタビューに応じる。


その他の隊員たちも実名で登場する。
ラスト、行進する隊員たちの姿に、
隊員全員の名前がクレジットされる。

監督はタイラー・ペリー。(脚本も)
風変りな黒人コメディばかりを撮っていた人だが、
こういう正統派の感動作も撮れるとは、驚き。
冒頭の戦闘シーンも迫力がある。

原作はケビン・M・ハイメル
スーザン・サランドン
ルーズベルト大統領夫人として出演している。

Netflix で12月20日から配信。