空飛ぶ自由人・2

旅・映画・本 その他、人生を楽しくするもの、沢山

映画『ファーザー・スチュー』

2024年08月30日 23時00分00秒 | 映画関係

[映画紹介]

ボクサーから司祭になったスチュアート・ロング神父の実話。
スチューはスチュアートの愛称。

アマチュアボクサーのスチュアートは、
ドクターストップがかかり、断念。
俳優を目指してハリウッドに行くが、鳴かず飛ばず。
バイト先のスーパーで一目ぼれした女性・カルメンの歓心を買うために
洗礼を受けたが、告悔室でも問題発言。
そんないい加減な男だったが、
バイクの飲酒運転で交通事故に遭って、命拾いをした時、
自分の人生を見直し、
生かされた神の意思を感じて、
司祭となって、
人々が道を見いだす手助けをする運命にあると確信する。
司祭は一生独身
結婚できなくなるカルメンも
父母も必死で止めるが、
スチュアートの決心は固い。

離婚した父はトレーラー生活をしており、
妻と共に、子どもの頃、もう一人の息子を病気で失ったことが
心の傷として残っていた。


前歴が悪くて、神学校から入学を拒否されたが、
学長を説得して、潜り込む。
身を慎み、順調に司祭への道を歩むものの、
難病である筋萎縮症を発症。
やがて歩けなくなり、
最後は自分の身の始末も出来なくなると宣告される。                「なぜですか」と泣きながら神に問いかけるスチュアート。
卒業間近、身障者では、
教会の秘跡(聖餐式や洗礼など)を
ほどこすことが出来ないのではと
危惧した教会上層部は
スチュアートへの叙階(聖職者を任命すること)をしないことを決める。
しかし・・・

いい加減な男が心を入れ替えて聖職者を目指す。
という話の表現は難しいのだが、
マーク・ウォールバーグはその変化を見事に表情だけで表した。
やっぱり、マークは素晴らしい。

両親に扮するのは、メル・ギブスンジャッキー・ ウィーヴァー


子供を一人失い、
もう一人の子が身体の自由を奪われるのを見る辛い
父母の心情をよく演じた。
神学校の学長役のマルコム・マクダウェル
スチュアートの情熱と上層部との間で悩む聖職者をうまく演ずる。
アメリカの俳優の層の厚さその巧さがつくづく分かる。
終盤、スチュアートのライバルで仲が悪かった神学生の
告悔のシーンは胸がつまる。

よくこんなに宗教的な内容を
今のハリウッドで取り上げたものだと思うが
マーク・ウォールバーグが製作に名を連ねているから、
彼の熱意が作らせたのだろう。
マークも若い頃、不良で、逮捕者の常連だったが、
家が熱心なカソリック信者だったそうだ。
そういう背景も後押ししているのかもしれない。
役作りのための肉体改造がすさまじく、
引き締まったボクサー時代と
病魔を得て腹が出て、
顔つきにも障害の出た姿をさらす。
13㎏くらい増量したようだ。
熱演だが、オスカーには縁がなかった。
メル・ギフソンも助演賞ものの味のある演技。

エンドクレジットで、
スチュアート・ロング神父の実映像が流れる。
50歳で亡くなるまで、
地域の人々の魂の救済に励んだという。

日本未公開。
Netflixで配信。

期待しないで観たが、
意外な拾い物だった。

 


私のYouTube登録

2024年08月29日 23時00分00秒 | 様々な話題

パソコンで遊んでいる人にとっては、
YouTubeはなくてはならないソーシャルメディアだろう。
ソーシャルメディアとは、
誰もが参加できる情報発信技術を用いて、
社会的に広がっていくように設計されたメディアのこと。
Youは「あなた」、Tubeは「ブラウン管(テレビ)」という意味。
ユーザーが動画をアップロードすると、
無料で誰でも閲覧出来る。

YouTubeは、アメリカのカリフォルニア州
サンブルーノに本社を置く
オンライン動画共有プラットフォーム。
ソーシャルメディアとしては世界第2位。
(1位はFacebook、3位はInstagram。)

なにしろ、検索にかければ、どんなものでも出て来る。
あの曲を聴きたい、と調べれば、多数の音源が得られるし、
映画のワンシーン、中にはまるごと映画1本観られることもある。

出版社やテレビ局を介在させることなく、
一個人がカメラとパソコンさえあれば、
自宅にいたまま、世界に向けて発信出来る
これは世界の構造が変わるほどすごいことだ。

チャンネル登録数や再生回数の規定をクリアすると、
宣伝を載せることが出来、
その広告収入で生活が成り立つ。
内容がないと、登録数も再生回数も伸びないから、
それだけの努力と工夫は必要なのだが、
大体、1回の再生数で0.2円から0.6円の収入になるから、
再生回数50万回となると、うまくいけば25万円の収入になる。
アップ数が積み重なると、
そのコンテンツ自体が
一つの財産になって、
人気さえ出れば、
次々再生されて、
莫大な収入になる。
中には億単位の金を稼ぐ人もいるから、
小学生が憧れの職業としてユーチューバーを挙げるようになるわけだ。

視聴中に広告が入って来ると、
中断される上、スキップの手間が必要なのだが、
有料のYouTube Premium と契約すると、
広告なしに再生出来る。
試しに無料の1か月をやってみたら、
これは驚愕。
コマーシャルがないということが
こんなに快適になるとは。
何故もっと早くやらなかったのだろう。

チャンネル登録すると、
新たにアップされたものが自動的に上がって来るので、便利だ。
数あるコンテンツの中で、
私が登録しているものを紹介してみよう。
あまり数は多くないが、
                                        1. Kevin's English Room(ケビンズイングリッシュルーム)

主に英語やアメリカの文化を題材とした情報を提供。

大学時代からの友人であるケビン、かけ、やまの3人で結成。
3人は大学のアカペラサークルで出会い、
それぞれ別の業界に就職したものの
3年で退職し、
鎌倉で自営業としてデザートを扱うカフェを経営をしながら
コンテンツ配信を開始。
それがうまくいったので、カフェの店舗は後輩に譲渡した。

アメリカ生まれアメリカ育ちで
英語のネイティブスピーカー日本人であるケビンが、
日本での教育で扱われる英語と
ネイティブスピーカーによる英語の違いや、
日本とアメリカの文化風習の差異について教える。

たまにアメリカに出かけ、
現地のスーパーや日本人街を巡る。
入国審査でマネージャーが足止め食らった話など、笑える。

登録者数  225万人の人気コンテンツで、
総再生回数15億回を越える。
年収は7千万円超と推測される。

2. IKITERU (イキテル)

日本在住の韓国人俳優が
韓国から青年や女性、年配者を呼び寄せ、
日本の文化や食事を紹介、
驚く様を映像に記録して配信する。
反日の韓国から来た人が
日本文化をほめそやすのだから、
日本人が観て心地よいのが受けたのだろう。
日本の寿司や焼肉、うどんや和食に舌鼓を打つ様は、
確かに観ていて、誇らしい。
日本のコンビニやスーパーも驚きの対象らしい。
空港に着いた途端、
「空気がおいしい」「空がきれい」というのが、
逆に驚き。

チャンネル登録者数  52万人
動画投稿数  1209本
1動画あたりの再生回数  36万回
推定年収  2600万円ほどか。

3. しげ旅

旅行系YouTubeは数多いが、
チャンネル登録者数44万人越えの人気旅系youtuber。
この人の強味は、
元旅行会社勤務という経験を生かして、
旅行計画が綿密なことで、
南米に行った時など、
飛行機を乗り継いで、
2か月間も旅行を続けた。
その間、時々ホテルにこもって映像をアップする。
だから、バックパッカーの泊まるような安宿ではなく、
ちゃんとデスクがある水準以上のホテルに泊まる。

特筆すべきは、その訪問国の多さで、
30代が終わるまでに
世界195カ国を制覇する予定で、
只今ヨルダンで106カ国目
サンマリノやアンドラなど、
ヨーロッパの小国を訪問した記録は貴重。
既にヨーロッパは制覇し、
南米や中東など、
普通人が行く機会のない
諸国の映像は驚きの連続。
また、各地での食事は
グーグルマップで評価の高い店を選んでいるので、
旅行計画のある人には参考になるだろう。
健啖家で、何でも平らげるし、
酒飲みでビールやワインの食レポがなかなか。

潤沢な資金があるらしく、
ファーストクラスの旅や
モルディブでの高級コテージの旅など、垂涎もの。

本名はオヤマシゲヒロで、35歳
浦安出身というのが親近感を与える。

2019年7月はじめに開設して
わずか5年の短期間でチャンネル登録者数43万人を獲得。
1番再生回数の多い動画は225万回再生。
それだけで135万円の収入。
(1再生で0.6円と、ある場所で言っている。)

4. 散歩するアンドロイド

SAORI(サオリ、本名:高山沙織)という
本業がモデルのYouTuberの旅日記。
自称「アンドロイドのお姉さん」で、無表情を貫く。

普通の人の観光記録という趣き。
旅先の有名観光地を巡って、その感想を述べる。
京都産業大学外国語学部を卒業したわりには、
英語が話せないため、
深く切り込むことはない。

5. bappa shota (バッパー・ショウタ)

バッパーは、バックパッカーの略。
バックパッカー(backpacker) とは、
低予算で個人旅行する旅行者のこと。
バックパック(リュックサック)を背負って移動する者が多いことから、
この名が付けられた。

運営者のSHOTA (翔太)は、
プロの野球選手になる夢をもっていたが諦め、
人生の目標を失ってしまった喪失感の最中、
ハワイに住んでいた従兄弟から海外に行くことを勧められる。
そこで、19歳の時、ワーキングホリデービザを使って
オーストラリアに滞在したことから、
海外の魅力に触れ、そこから世界各国の旅行を続けている。

この人の旅は普通のレベルを越えている
ありきたりの観光地案内ではなく、
達者な英語を生かして、
その国の現状にインタビューで迫る。

それが並のジャーナリストを超えている。

たとえば、大気汚染のバングラデシュの現状、
コカコーラに汚染されて、糖尿病の巣窟になっているメキシコの町、
ニューヨークの伝統的ユダヤ人社会、
ラスベガスの地下に住む住人たち、
イタリアの地下に作った宗教神殿、
ロヒンギャの難民キャンプ、
フィリピンの残飯を集めて作った料理を食べる貧民など、
ジャーナリストばりの取材力を発揮する。
世界一危険と言われるブータンの空港に着陸する
飛行機のコックピット同乗記など、
どういうツテで実現したのか不思議なものもある。
マレーシアの海上生活で無国籍のバジャウ族など、
「クレージージャーニー」並の取材も。
インドでは世界で一番背の低い女性とギネス認定された
女性にインタビューする。
ブータンのガイドの兄の家に一泊して、
村人と交わるなど、なかなかできないことをする。

地元の人々に密着するので、
町の屋台でも食事する。
インドで古そうな黒い油を使った揚げ物や、
汚いコップに盛られたドリンクを飲む様など、
こちらが震えあがった。

好奇心に裏打ちされた前進力は抜群。
テレビのドキュメンター以上のものを与えてくれる。

ホテルは安宿のかわりに、機材に金をかけ、
レンズは3個を常備、マイクも数台使い、
ドローンまで駆使する。
それらの機材15キロを背中に背負って徘徊する。

チャンネル登録者は84万人
年収は1千万円を越えると思われる。

私が今最もお気に入りのコンテンツ。

6. Ly Tieu Ca(リー・ティウ・カ)

ベトナムの山奥で、
乳飲み子を育てながら生活する17歳の女性の日常
淡々と描く。

これがすごい女の子で、木を伐り出して、
家一軒建て、近所の農家に分けてもらったバナナなどを
青空市場に持っていってお金を貯め、

それで土地を購入し、
材木を買って、新しい家を新築する。
鶏も飼い、その卵も売る。
市場で全部売れた時など、
観ているこちらがほっとする。

本人のカメラではなく、
しっかりしたスタッフが就いて、
優秀なカメラマンの撮影だと分かるが、
YouTubeの再生数は数十万回を越えているから、
広告料は相当入っているはず。
彼女はそのうちのどれだけを分け前としてもらっているのだろう、
と心配してしまう。

もしかして、女優がやっているのではないかと疑ったが、
カミさんに「女優の顔じゃないわ」と一蹴された。

チャンネル登録者数 39万人

7. Thanh Trieu TV

これもベトナムの山奥で暮らす一人暮らしの青年の日常。

家を建て、鶏を飼い、
自分が育てた野菜や
近所の農家から仕入れた果物を
売って金を貯め、家を新調していく。
川からパイプを引いて水力発電装置を設置、
石で水をせき止めていけすを造り、
そこに稚魚を放って、
一年後に大きくなった魚を釣って、燻製にする。
崖から落ちて死んだ豚を見つけて解体し、
ベーコンを作る。
0.5ドルで仕入れたパイナップルは1個1ドルで売る。
バナナは一房0.5ドル、
仕入れると言っても、
実際の収穫は自分でしなければならない。
ライチやパパイヤをぶどうを収穫。


収穫した果物は駕籠に入れ、
何キロも歩いて青空市場に持って行って、
ビニールシートを敷いた上に並べる。


よく売れる。
犬を一匹飼っていて、その仲がむつまじい。
また、ベトナムの市場の様子が分かって、
東南アジアの昔から変わらぬ風景を楽しむ。

チャンネル登録者数 53万人
 
これも広告料収入の分配はどうなっているのだろうと心配する。
余計なお世話だろうが。

 

 


『旧統一教会大江益夫・元広報部長懺悔録』

2024年08月27日 23時00分00秒 | 書籍関係

[書籍紹介]

2日続けての書籍紹介となったが、
その理由は、前日の「彼は早稲田で死んだ」
深い関連のある本だからだ。

本書は「彼は早稲田で死んだ」の筆者・樋田毅氏の聞き取りで、
語り部の大江益夫氏は、
7年間にわたって統一教会の広報部長を務めた人物。
組織の要職の人物が内情を語るのだから興味深い。

大江氏は、高校時代、
故郷の福知山で共産党系の青年組織・民青に参加した後、
統一教会の統一原理に触れて信者となり、
上京して早稲田大学教育学部に進学して、
早大原理研究会に所属、
そこで、川口大三郎君虐殺事件に遭った。
川口君の母親サトさんと深く親交し、
サトさんが大学からいただいた見舞金600万円を原資に
川口君の故郷・伊東に
早稲田の学生が安価に利用できるセミナーハウスを建設したいという意思を受け、
統一教会の学生組織・原理研究会を中心に募金を集めた。
しかし、そこで決定的な間違いを犯す。
建設資金が不十分でないため、
統一教会からの資金援助を受けてしまったのだ。
その結果、登記時、税金問題が発生し、
任意団体では登記が出来ないため、
早稲田大学関係のキリスト教団体・早稲田奉仕園の所属
とする選択肢もあったのに、
結局、統一教会の一施設となってしまったのだ。

社会的に見れば、統一教会に乗っ取られたことになる。
サトさんの意思とは、全く違う結果となったため、
大江氏は、セミナーハウス建設委員会の事務局長を辞任し、
一時教会を離れ、
後に国際勝共連合の仕事や
統一教会のプロジェクト・日韓トンネル建設の事務局長を10年間勤め、
やがて、統一教会本部に呼ばれて、
広報部長に就く。
桜田淳子の合同結婚式や
霊感商法が世間から非難されていた時期で、
「霊感商法は、株式会社ハッピーワールドにいた信者が行ったもので、
教会本部は関与していない」
という公式見解を貫く。
実際は統一教会とハッピーワールドは一心同体だったのだから、
その嘘の主張をするのは、さぞ心苦しかっただろう。
そして、霊感商法で利益を挙げることが難しくなったため、
信者から資産を献金させる方向に進み、
それが安倍晋三元総理の暗殺事件の遠因となり、
現在の宗教法人解散命令審議につながる。

7年間も広報部長を務めたということは、
内外共に評価が高かったのだろう、と思われる。
その後、教会の方針で故郷の福知山に戻り、
行政書士の事務所を経営した。

その人物が、
「彼は早稲田で死んだ」の著者・樋田毅氏と
2021年11月の川口君の50回忌法要の場で知り合い、
親交の後、相互信頼を生み、
今回の出版に至ったわけである。

内容的には、統一教会の問題点を
文教祖による経済運動への転換と見る、
いわば批判的内部告発で、
実名での表明、だけでなく、
題名にまで自分の名前をさらすのだから、
相当な覚悟をしてのことだろう。
かつて自分が所属した団体を批判することは、
残った人たちを含めて批判するのだから、
心が痛んだに違いない。
大江氏は、本が出版されるのを機に、
統一教会に退会届を提出している。

一つの宗教が原始的で純粋な段階を経て、
ある大きさになると、必ず変節する。
純粋な信仰だけでは、やっていけなくなるからだ。
それは、外部社会との接触と妥協であると共に、
教会を支える経済規模が大きくなるからだ。

特に、統一教会の場合、
韓国本部からの莫大な献金要請のノルマを果たさなければならなかった。
証券会社でも金融機関でも物販会社でもそうだが、
社員にきついノルマを課すと、
社員は必ず非合法な方向に走ってしまう。
統一教会の場合は、
それが霊感商法の発明であり、
財産を根こそぎ取ろうという献金の強制だった。

ここで、賢人・曽野綾子氏の
その宗教が本物であるかどうかの判断基準を紹介しよう。
曽野氏は「お金を出せ、という宗教は全て偽物」と断ずる。
イエスが弟子たちを派遣する時の
「あなたがたは、ただで受けたのだから、ただで与えなさい」
というイエスの言葉を根拠にしている。
そして、もう一つのリトマス試験紙は、
「教会の幹部が贅沢な生活をしているかどうか」
文教祖がアメリカで住んでいた豪邸を見れば、
その試験結果は明らかだろう。
そもそも、先祖を救うために献金が必要というのはまやかしで、
先祖の救済に対価が必要、というような狭量な神であるはずがない。
イエスは業病の患者から救いを求められた時、
「そうしてやろう、清くなれ」の一言で病気を癒し、
何の対価も求めなかった。
そのような救いを与える「権威ある者」だったのだ。

統一教会の場合は、
文教祖が国際的な活動で大規模なイベントや国際会議で
自分の力を誇示しようとする傾向があり、
それらのイベントには資金が必要だった。
それらは全て徒労となるのだが。

日本からの多額の献金を吸い上げるバックボーンとなったのが、
日本が40年間韓国を統治したという
日本人の原罪意識につけこんだことで、
文教祖が韓国人であることを勘案すると、
なるほどとうなずける。
「慰安婦問題」と同じ構図が見えて来る。
40年間の統治を許されるには、
金が必要だった。
つまり、文教祖は日本を許す「権威ある者」ではなく、
常に対価を求める存在だった。

私は昭和42年の「親泣かせ原理運動」の騒動の時から
観察していたが、
当時の学生たちの活動は、
廃品回収で得たお金で貧しい生活をし、
路傍での布教活動をする純粋宗教運動だった。
共同生活での食事は
パン屋から分けてもらったパンの耳を主食とする
清貧を絵に描いたようなもので、純粋そのものだった。
その後、国際勝共連合の設立と
自民党のクソ議員に取り入る形で政治に関わり、
韓国に献金するため、世間から金をふんだくる行為に進むが、
もしあのまま、極貧の生活を守り、
純粋な信仰を貫いていたら、
世間の感動を呼び、
一大宗教運動になっていたかもしれない。

しかし、実際はそうはならず、
他の宗教と同じ、堕落の道を進んでしまった。
そのようにしてしまった文教祖の責任、
それを容認した教会幹部の責任は重い。

大江氏が指摘する
1975年の、
伝道活動の費用を生み出すための経済活動から、
韓国に送金するための経済活動に変わった転換が
曲がり角だったという指摘は間違っていないだろう。
大江氏はその是正を本書で訴えている。
そういう意味で、
本書は、あの統一教会の中に、
まともな感覚の人物がいたのかという
驚きを世間に与えるに違いない。

ここで、前日の「彼は早稲田で死んだ」で指摘した、
学生運動との共通項を挙げたい。
それは、「独善」「若気のいたり」
自分たちは、神のために働いており、
周囲のサタン圏からは、
富を奪い取ってき良いのだという、独善。
それをまだ年端のいかない
世間知らずの未熟な青年たちが実行したのだ。
そして、もう一つ附け加えれば、
「盲信」
文教祖が「再臨の主」となれば、
それに従うのが善なのだから、
盲信者になってしまう。

欲を言えば、本書では、
韓国本部からの献金要求のすさまじさも
描いてほしかった。
そして、更に重大な問題提起。
教祖は間違いをしなかったか
に進んでほしかったが、
そこは、樋田氏が質問しなかったか、(多分しただろう)
あえて記述を避けたのかもしれない。
教祖の無謬性に切り込めば、
大江氏本人の信仰を失うことにもなりかねないからだ。
また、文教祖亡き後の文一家の四分五裂についても
書いてほしかったが、
これもまた、信仰に抵触する問題だったのだろう。

大江氏は、
統一教会が変わるために
厳正なるコンプライアンスの遵守と、
多額の韓国献金を改めるよう提案している。
この提案は、
統一教会本部は受け入れないだろう。
そのことは、
昨今の日本からの送金の停滞を怒ったという、
亡くなった文教祖の後継者・韓鶴子女史の言動から推し量ることができる。
また、統一教会ホームページを通じての
本書に対する反論からも絶望的だと思われる。
「懺悔」という言葉にこだわったり、
大江氏に対する人格攻撃に終始しているのだ。

いずれにせよ、
元いた団体を批判することの痛みを克服し、
「反逆者」と呼ばれることを恐れず、
教会の本質的欠陥を指摘した
大江氏の勇気を称えたい。

 


『彼は早稲田で死んだ』

2024年08月26日 23時00分00秒 | 書籍関係

[書籍紹介]

今から52年前の
1972年11月、
当時革マル派が支配していた早稲田大学文学部構内で、
一人の学生が殺された


被害者は2年生の川口大三郎君。
革マル派とは対立していた中核派が送ったスパイと疑われ、
学内の教室で拷問を受け、ショック死。
その遺体は東大病院前に遺棄された。


この悲劇をきっかけに、
一般学生は自由を求めて一斉に立ち上がった。
しかし、革マル派の暴力にさらされ、
武装、非武装で分裂。
やがて、一般学生の運動は消えていく。

その経過を川口君と一級下の1年生だった樋田毅(ひだつよし)氏が
詳細に記録として残したもの。
樋田氏は一般学生による自治会の臨時執行部の委員長になった人物。
卒業後、朝日新聞に入社し、
退職後、事件の記録として本書を著した。

一般学生の運動の詳細さに驚く。
よほど、ちゃんとした記録を残していたのだろう。
著者は、革マル派に襲撃されながらも、
最後まで非暴力を貫く。
そのため、自衛のための武装を唱える仲間たちと袂を分かつ。
武装すれば、彼らと同じ土俵に立ってしまうからだ。
武装した学生たちも、
訓練され、統制された革マル派の襲撃には、
全く歯が立たなかった。
学生たちの運動は先細りとなり、
最後には後輩に事後を託して、
前線から退くことになる。

渦中にいた者だけが書けるノンフィクション。
しかし、書くまでには、
半世紀近い歳月が必要だったのだ。

たびたび出て来るのが「非寛容」に対して、
どれだけ「寛容」でいられるかという命題で、                   これは人類の永遠の課題だ。

当時の大学当局の対応も描いている。
というのは、大学は革マル派の支配と慣れ合っていた。
その証拠に自治会費を授業料と共に代理徴収し、
(商学部だけでも、年2千円×6000人=約1200万円)
革マル派に渡していたのだ。
革マル派主導の「早稲田祭」実行委員会に年間1千万円を援助し、
「早稲田祭」の入場券を兼ねたパンフレット400円を
毎年5千冊200万円を「教員用」としてまとめ買いしていた。
つまり、革マル派の資金になることを知っていながら容認していた。
革マル派を救出するための警官導入も要請している。
一般学生の新しい自治会作りの動きに冷淡だった。

今の読者には理解できない、というレビューが多いように、
学問の場が暴力に席巻され、
授業も受けられず、
目を付けられた学生は登校さえできなかった、
などと聞いても信じられないだろう。
しかし、当時の大学は、
そういうものだったのだ。

今まで「革マル派」と書いたが、
正式名称は「日本革命的共産主義者同盟革命的マルクス主義者」という。
つまりは、政治団体であり、革命団体であり、
学生運動は、その尖兵にされたに過ぎない。

当時の運動を一言で表せば、
「独善」で、
自分たちは正しい、反対者は殲滅すべき、
「自分たちの暴力は革命理論に管理された暴力なので正しいが、
 他セクトの暴力はそうではないので間違っている」
という論理で暴力をふるった。
本書の中にも出て来るが、
「私たちは革命をやっているんだ。
 お前たちは、その邪魔をするのか」
と詰問する女性活動家の言葉に端的に表されている。
自分たちは革命をしている。
だから反対者は殲滅していい。
なんという独善。狭量。
殺人犯人を自首させるつもりとないか、との問いに、
「考えていない。
 自首は権力との闘いに敗れたことになり、
 自己批判した意味がなくなる」
という手前勝手な論理も同じ。

また、もう一言で表せば、
「若気のいたり」
20歳前後の
社会の仕組みも知らず、
働いたこともなく、
税金を納めたこともない、
親がかりの学生たちの
狭い視野からの自己主張。
それで世の中を変えようというのだから、
笑止である。

共産主義の基本は「暴力革命」だ。
しかし、マルクスの言う暴力は、
対権力であって、
革命集団同士の「内ゲバ」は暴力革命とは無関係だ。
彼らはその区別さえ理解していなかった。
もし彼らが政権を取ったら、
暴力で言論を封殺する社会が出来ただろう。

結局、革マル派の独裁をなくすのは、
学生たちの運動ではなく
1994年の奥島孝康総長の就任を待たねばならなかった。
就任後に
「革マル派が早稲田の自由を奪っている。
事なかれ主義で続けてきた体制を変える」
と勇気ある宣言をし、
自治会の公認を次々と取り消し、
早稲田祭も中止し、実行委員会から革マル派を排除した。
学生会館の建て替えを機に革マル派を除外し、
資金源となっていた各サークルへの補助制度(年間各35万円)を打ち切った。
奥島総長は、革マル派から脅迫、吊るし上げ、尾行、盗聴など
様々な妨害を受けたが、
これに屈することなく、所期の方針を貫いた。
こうして、早稲田大学は革マル派との腐れ縁を断ち切ったが、
川口君事件からは25年が経っていた。

本書は、川口君事件を巡って、
革マル派から転向した二人の人物についても触れる。
一人は革マル派自治会の委員長だった人物で、
既に故人となっていたが、
常に過去におびえていたという。
もう一人は、事件の現場にいて、
獄中で、その場の状況を警察に対して証言したことから、
犯人たちの逮捕につながった人物で、
公判の場で、傍聴席を占める革マル派たちに
「裏切り者」の罵声を浴びられる。
樋田氏の取材には応じたが、
文字化は拒否した。

そして、巻末に、
当時革マル派の自治会幹部だった人物との対談も載っている。
大学内で実際に暴力をやっており、
革マル派から離れ、その後、社会的影響力も持った人物だが、
正直な人で、当時、革命理論もよく分からず、
なんとなく参加し、あいまいに脱退したことを話す。
50年を振り返って、

「なんでこんなことが最初からわからないんだよ」
 と言われれば、その通りなんですが」
と呑気なことを言っている。

そういう人物でさえ、
過激な暴力に走ったのだから、
当時の状況が悪魔的な空気に支配されていたことが分かる。
まさしく、ドストエフスキーが描く「悪霊」の世界である。

この事件を含め、当時の学生運動の活動家たちは、
その後、卒業し、就職し、結婚し、子どもをもうけ、
今は、ほとんどが退職して、高齢者の仲間入りしている。
当時の敵=国からの年金で生活している人もいるだろう。
当時の言動を「若気の至り」とすることは簡単だが、
その時、川口君をはじめ内ゲバで死んだ者は帰らない
彼らにも、その後の人生を歩むことは出来ただろうに、
その権利は断たれてしまった。
それをどう思うのか。

いまだ中核派も革マル派も存在している。
そして暴力を否定していない。                                                                  本書は、大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。
今年、「ゲバルトの杜 彼は早稲田で死んだ」の題で
映画化もされている。


映画『ラストマイル』

2024年08月25日 23時00分00秒 | 映画関係

[映画紹介]

「ラストマイル」とは、
物流サービスで使われる用語で、
荷物を顧客に届ける
配達員の最後の区間、を意味する。
                                        Amazonを彷彿させる、
世界規模のショッピングサイト
関東センターのセンター長に、
舟渡エレナが新たに赴任して来る。
迎えるのは、関東センターのチームマネージャー、梨本孔(こう)。
時は11月のイベント、ブラックフライデー前夜。
配送された段ボール箱が爆発する事件が発生。
当初、新発売のスマホに原因があると思われたが、
事件が続発すると、関連性のない商品が爆発していた。
共通しているのは、
関東センターを通じて発送された商品であること。
しかも、巧妙に犯罪予告がされており、
爆弾の数は12個あるという。
犯人の意図は何か、
どうやって爆発物の入った商品をセンターに持ち込んだのか。
捜査が進むにつれて、
配送物の特定や追跡でラインを止めざるを得ない事態となり、
物流が止ってしまう・・・

日本の経済を支える要素の一つに物流があり、
そこに潜む闇に切り込んだ点で、大変現代的な作品だ。
医療品の配送が止ると、
手術さえ出来なく、患者に死に至らしめるなど、
深刻な事態が現出する。

夜に注文した商品が翌日午後には届く、という驚くべき仕組みに
どんなシステムで運用されているか興味があったが、
その一部を垣間見せてくれる。


社員スタッフは数人で、
実際の作業は、
何千人もの派遣社員によってなされているなど、
ちょっと驚きだった。

加えて、下請け流通業者の問題や
末端の配達員の問題など、
奥行は深い。
なにしろ、配達員の収入は荷物1個につき150円、
不在で持ち帰れば、全く金にならないのだ。
一日200個配達して、休みなく働き、
突然死した配達員の話など出て来る。
「すべてはお客様のために」という企業理念のまやかし
アメリカ本社との確執を含め、
巨大流通業者の問題に切り込んだ志を買いたい

捜査が進むうち、数年前のセンター内での落下事故で
植物人間になった社員の存在が浮き彫りになり、
犯人像も現れて来るのだが、
どうもこの犯人の動機も行動も納得できない。
だって、落下した本人はまだ死んでいないのだから。

テレビドラマ「アンナチュラル」「MIU404」の
監督・塚原あゆ子と脚本家・野木亜紀子が再タッグ。
「アンナチュラル」「MIU404」の出演者が多数出て来るが、
それほど深刻に絡むわけではない。
両ドラマを観ていない人に不親切な展開。

舟渡エレナには満島ひかり、好演。


梨本には岡田将生


事件に巻き込まれる関係者で阿部サダヲとディーン・フジオカらが出演。

それにしても、セリフが聞き取りにくいのは、何とかならないか。

物流の基本姿勢は、
「より早く、より安く、より多く」
のようだが、
もう少しスローでもいいのではないかと思うのは私だけだろうか。

5段階評価の「4」

拡大上映中。