空飛ぶ自由人・2

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映画『シンペイ 歌こそすべて』

2025年01月17日 23時00分00秒 | 映画関係

[映画紹介]

「シンペイ」とは、作曲家の中山晋平のこと。


明治に生まれ、大正・昭和を生き、
今も歌い継がれる童謡、歌謡曲、音頭、民謡まで
幅広いジャンルの約2000曲を残した
中山晋平(1887~1952 明治20年~昭和27年)の生涯を、
彼の音楽とともに綴った物語。

信州から上京して大学教授・島村抱月の書生になり、
東京音楽学校(現・東京藝術大学音楽学部)で学び、
小学校で教鞭を取るかたわら、
島村抱月が松井須磨子らとともに旗揚げした「芸術座」に参加。


1914年(大正3年) 、
トルストイの「復活」公演の劇中歌「カチューシャの唄」を作曲。
松井須磨子の歌唱によって大流行となり、
一躍有名になった。
翌年公演したツルゲーネフの「その前夜」の
劇中歌「ゴンドラの唄」も大人気で、地位を不動のものにし、
野口雨情、西條八十らと組んで数々の歌を生み出す。


自分の音楽を理解してくれる敏子と結婚し、
子供が出来なかったため、
二人の養子を迎えて幸せに暮らす。


敏子が亡くなった後は、
既に関係のあった鹿児島の芸者歌手・喜代三と再婚するが、
やがて、戦火に巻き込まれ・・・

という生涯をつづる。
映画の中に登場する歌は、
「これも中山晋平の曲だったのか」「あれも・・・」
と驚くほど。

映画に出て来なかった曲を含めて、主な曲をあげると、
「シャボン玉」「てるてる坊主」「あめふり」「雨降りお月」
「証城寺の狸囃子」「こがね虫」「あの町この町」「背くらべ」
「まりと殿様」「砂山」「肩たたき」「兎のダンス」
「カチューシャの唄」「ゴンドラの唄」「船頭小唄」
「波浮の港」「出船の港」「東京行進曲」「東京音頭」
など、日本人のDNAに響く歌の数々が胸を熱くする。

「シャボン玉」の背景にあった野口雨情の悲話、
「東京行進曲」の歌詞「いっそ小田急で逃げましょか」
が生まれた経緯、
「東京音頭」の前奏が「鹿児島小原良節」から採ったなど、
初めて知る話が沢山。

黒澤明監督の映画「生きる」の中で
「ゴンドラの唄」が歌われたことを知っていたのか、
と思って調べたところ、
1952年12月2日に「生きる」を映画館で観た翌日に倒れ、
12月30日、入院先の熱海国立病院で死去。
死因は膵臓炎であった。
65歳没。
死去の際、自ら作曲した「あの町この町」を口ずさんでいたという。

告別式は翌年1月16日に築地本願寺で、
日本ビクターの社葬として行われ、
オーケストラによる「哀悼歌」、児童合唱団による「てるてる坊主」、
最後には「カチューシャの唄」が歌われた。
墓所は多磨霊園。
死後50年を経て、
2002年12月31日(死後50年)著作権消滅。

晋平役は映画初主演となる歌舞伎俳優・中村橋之助
18歳から亡くなる65歳までを演ずる。
野口雨情役は三浦貴大


西條八十役は渡辺大
島村抱月役は緒形直人
妻の敏子役は志田未来

佐藤千夜子役の歌は、
当時のものの歌唱風に
吹き替えにできなかったのか。

監督は神山征二郎

題材的に日本人の心情に響く内容で、
端正に作られている。
5段階評価で「4」としたいところだが、
演出、演技共に超古臭いので、
0.5点減点して、「3.5」

TOHOシネマズ日比谷他で上映中。

 


映画『マリア』

2025年01月13日 23時00分00秒 | 映画関係

[映画紹介]

「ベン・ハー」(1959)、「キング・オブ・キングス」(1961)、
「偉大な生涯の物語」(1965)など
20世紀半ばに盛んに作られた聖書映画
その後、鳴りをひそめたが、
作られていないわけではなく、
日本で公開されなかっただけで、
繰り返し製作されていた。

これもその一本。
一味違うのは、イエス誕生前の母マリアの話であること。
同様の作品は2006年の「マリア」(キャサリン・ハードウィック監督) がある。


本作は、2024年製作のイギリス映画で、
最も新しい聖書映画
  
話は紀元前18年、マリア誕生の秘話から始まる。
マリアの父は、子供をさずらないのを神の罰ととらえ、
荒野で40日間の断食をして悔い改める。
青い衣を着た天使が現れ、懐妊を告げる。
その結果、生まれたのがマリアだ。

マリアは神殿に預けられ、
善の天使と悪の天使が奪い合いをする。
やがて、マリアが川で洗濯しているのを見て、
一目ぼれしたヨセフに見染められ、婚約する。
その際も、青い衣の天使の介在が両親の心を決めた。
そして、ヨセフと交わらないまま、懐妊。
姦通したとして、石打で殺されそうになる。
ヨセフはそのマリアを守る。

マリアがイエスを生む出産シーンも
リアルに描かれる。
救世主の誕生を察知したヘロデ王が
ベツレヘムで生まれた新生児を殺すことを命じ、
親子は逃れて、後を追って来た兵隊と争う。
最後は、エジプトへ逃れたとする新約聖書の記述とは異なり、
エルサレムに向かい、
神殿にイエスを委ねるところで終わる。

当時の神殿や衣裳など、
丁寧に作られている。
こういう前日談は奇抜なものになりがちだが、
その傾向は抑えられていて、好感が持てた。
ただ、その結果、新味はない
ヘロデ王が救世主と思われる赤子がいたら、
生きたまま連れてこい、と命令するのは新解釈。
ヘロデはその赤子と対面したかったのだ。
そして、何十人もの赤子を前に
殺すのを命じて錯乱した時、
臣下たちに見捨てられて孤立する、
というのも新しい。
ヘロデ王をアンソニー・ホプキンスが演ずるので、
重厚さが増す。


マリアを演ずるノア・コーエンは美しい。

監督はD・J・カルーソ

Netflix で12月6日から配信。

パゾリーニの「奇跡の丘」(1964)では、


お腹の大きいマリアを
怒りと共に見つめるヨセフの顔から物語は始まる。

 


映画『奇跡が生まれたとき』

2025年01月05日 23時00分00秒 | 映画関係

[映画紹介]

今より50年以上前の1970年代、
子供が欲しくても出来ずに悩む夫婦に
希望を与える体外受精の技術を確立した
医学チームの話。
実話をベースにしたドラマ。

当時若き看護師であり胚培養士であったジーン・パーディは、
生物科学者ロバート・エドワーズや
産婦人科外科医パトリック・ステプトーと力を合わせ、
体外受精の道を切り開き不妊治療を大きく前進させた。

人工授精は、
人為的に採取した雄の精液を
雌の生殖器内に注入し受胎を試みることを言う。
種馬や和牛のタネ付けなど、
家畜・水産動物の繁殖・品種改良や、
夫の精子や精液の量に問題がある場合や
射精や性交に障害がある場合、
不妊症対策としてヒトに対しても用いられる。
ヒトの人工授精の例は、
早くも1799年に報告がある。

体外受精は、それとは違い、
排卵誘発剤や外科的手法などによって取得した卵子を、
体外で精子と接触させて人為的に受精を行ったのち、
培養した胚(受精卵)を子宮内などに戻して妊娠を図ることを言う。
俗語では、「試験管ベビー」と呼ぶことがあるが、
実際には、体外受精はもっと浅い容器であるペトリ皿を用いている。
4細胞期または8細胞期の受精卵の内、
発生が順調で形態の良い受精卵だけが膣から子宮内へ注入される。

今では普通に行われる赴任手術だが、
当時は、宗教的価値観から考えると、
“生き物を作り出す" ように思われ、
悪魔的な、神に背く行為と見做されて
周囲からの理解を得られず研究は難航した。
ジーンは教会から出席を拒絶され、
母親からは勘当される。
「罪人」と書かれた人形が送られて来、
研究所の壁には、「フランケンシュタインの館」と書かれ、
研究に協力する妊娠希望者の名前は秘匿される。
医学者からも、
採取した卵子の劣化による
染色体異常により、
障害を持った子供の誕生が懸念され、
再三のテレビ出演では、恥をかかされる。

しかし、ジーンらの意識は、
妊娠したくても妊娠できない人々の役に立ちたいとの希望であり、
科学の進歩がその手助けになれば、
との思いだった。
ジーン自身が重度の子宮内膜症で
子供を持てない体ということも中盤明かされる。

ようやく着床したのも束の間、
子宮外妊娠で失敗、
試薬の再検討をしてみたり、
ホルモン注射による排卵促進ではなく、
自然排卵の採用など、
いくつかの課題を乗り越える。
その途中で、ジーンの戦線からの離脱や
エドワーズの議員出馬などがあり、
再結成したチームのもと、
1978年、体外受精で初めての赤子
ルイーズ・ジョイ・ブラウンが誕生する。
10年間続けられた絶え間ない努力が報われたのだ。
この場面は感動的だ。
ミドルネームの“JOY”(喜び)は、
請われてた、エドワーズ博士により名付けられた。
以来、体外受精により1200万人もの人が誕生した。

今でこそ体外受精は不妊治療として当たり前になっているが、
半世紀前に大変な苦労があったと分かる。
この3人の科学者たちのおかげで
世界中で沢山の命が誕生した。
エドワーズはこの業績により2010年(随分時間がかかった)、
ノーベル生理学・医学賞を受賞した。


ルイーズが39歳でガンで亡くなってから30年後、
ようやく彼女の功績が讃えられて、
「彼女なしでは何も成し遂げられなかった」との
エドワーズ博士の強い希望で、
プレートに名前が刻まれることになった。

大きな困難を乗り越え、
多くの人びとの夢を実現させた
3人が見せる不屈の精神力と、科学の驚くべき力。
史実を元にした骨太の見応えある作品
主人公の希望や絶望が大変ていねいにい描かれている。

Netflix で11月22日から配信。
監督はベン・テイラー
ルイーズにトーマシン・マッケンジー
エドワードにジェームズ・ノートン
パトリックにビル・ナイ


俳優も抜群にいい。


映画『セキュリティ・チェック』

2024年12月21日 23時00分00秒 | 映画関係

[映画紹介]

Netflix の映画は当たり外れが激しいが、
これは、「当たり」

ロサンゼルス空港で保安検査の仕事をしているイーサンは、
警察の採用試験に落ちて鬱々とした日を過ごしていた。
そのイーサンに災厄が降りかかる。
客から渡されたイヤホン越しに司令されたのは、
ある乗客の荷物を見過ごして通過させろというのだ。
荷物はロシアが作った神経ガスで、
飛行機に手荷物で持ち込み、
空中で爆発させて、墜落させようというのだ。
そうでなければ、空港で爆発させ、
何万人も犠牲者が出るという。
命令に従わなければ、
同じ職場で働く妊娠中の恋人を殺すと脅迫する。
イーサンは、何とか同僚に事態を知らせようとするが
ことごとく阻止される。
接触してきた犯人と虚々実々の駆け引きと知恵比べが始まる・・・

クリスマス休暇で賑わうロサンゼルス空港が舞台というのが新鮮。
まさか空港の現場で撮影許可が降りるはずもなく、
セットを組むか似た建物で撮影したとき思われるが、
沢山の乗客が行きかう空港の様子が
スケール感大きくリアルに捕えられている。
荷物配送レーンの場所はああなっているのかと驚きもある。
そして、飛行機の荷物格納庫も。

傷心のイーサンが初めの方では頼りないが、
次第にたくましくなっていくのも面白い。
途中、市警で捜査する女警察官のくだりが出て来るが、
疾走する車中での格闘のカメラワーク、
衝突し、横転する車中の撮影はどうやったのだろう。

巨大な陰謀に一人で立ち向かうというのは、
「ダイハード」を思わせるが、
ハラハラドキドキは最後まで継続する。
伏線回収もちゃんとするし、
ラストのオチもなかなかのものだ。

イーサンを演ずるのは、「キングスマン」のタロン・エガートン


恋人役はソフィア・カーソン
犯人役はジェイソン・ベイトマン
監督はジャウム・コレット=セラ
脚本はT・J・フィックスマンマイケル・グリーン

Netflix で12月13日から配信中。
劇場で公開してもよかったと思うが、はて。

                                        


ドラマ『極悪女王』

2024年10月21日 23時00分00秒 | 映画関係

[ドラマ紹介]

Netflixで9月20日から配信されたドラマ。
私が観るジャンルの作品ではないと思っていたが、
評判が良いので、視聴した。

1980年代の女史プロレスリング全盛期
家庭に問題を抱える、心優しい少女・松本香が、
オーディションに合格して新人養成のメンバーに入り、
落ちこぼれ状態から
あることをきっかけに
稀代のヒール(悪役)レスラー、ダンプ松本となって
女子プロ界を席巻、
引退するまでの軌跡を描く。

当時人気だった「ビューティ・ペア」の
ジャッキー佐藤、マキ上田や
「クラッシュギャルズ」の長与千種、ライオネス飛鳥                などが実名で登場する。
(本人が演じているわけではない)
やはり実名だからリアリティがあるので、
これが良く似た仮名だったら、
これほどの迫力あるドラマにはならなかっただろう。

ただ、描かれる世界は人を選ぶ。
私も力道山時代、プロレス中継を見た人間だが、
やがて、それがショーアップされたエンタメだと分かってからは興味を失った。
繰り出される高度な技も、
相手の協力がなければ、かかるものではない。
まして、反則や凶器などが横行すると、
あれはスポーツではない、と断じざるを得なかった。

しかし、人の趣味は多様であって、
プロレスに夢中になる人がいてもいいし、
「ビューティ・ペア」に始まる「歌うレスラー」作戦も面白い。

ドラマとしては、脚本が優れており
松本を取り巻く家族の問題、
新人寮での生活、
本物を指向するライオネスらとの葛藤、
テレビ局と結託した興行主の事情など、
しっかりと丁寧に描かれる。
出色なのは、リング上の試合の描写で、
手を抜かず、しっかりと描く。
さぞ撮影は大変だっただろう。
Netflixオリジナルだから、
製作費は潤沢らしく、
ホールに詰めかけた観客も満員。
リングの上に降り注ぐテープもすさまじい量。
どよめく観客、あふれる歓声。
リング以外の描写も手を抜かない。

クラッシュギャルズを演ずる
剛力彩芽(ライオネス飛鳥役)、唐田えりか(長与千種役)の2人も、
文字通り、体を張った演技
トレーナーをつけて体作りをし、10㎏増で撮影に挑んだという。


ダンプ松本役のゆりやんレトリィバァは、オーディションに自ら志願して
この役を掴んだ。
演技といえるほどのものではないが、
まさに適役
ぴったりの配役をした時、映画の成功は確定する。

女子プロレス会長の
松永兄弟を演ずる村上淳黒田大輔斎藤工
悪徳レフェリーの阿部四郎を演ずる音尾琢真
役柄を良く理解して好演。

新人寮の二段ベッドにあるジャッキー佐藤のサインに
長与千種と共に自分の名前を書き込み、
後で消し、更に修復させる描写は秀逸だし、
引退試合の描写は胸を打つ。
最後に、
女子プロレス会長の松永高司が、
チケットのない少女を中に入れてやるエピソードもなかなかいい。

企画・脚本・プロデュースは鈴木おさむ
監督は白石和彌茂木克仁
脚本は池上純哉

まあ、覚悟して観て下さい。