私が何度もお勧めする漫画の最新巻です。
普段はネタバレはしないように書いていますが、今回は1つだけネタバレします。
ネタバレを好まない方は、ここから先は読まないでください。
まずはこの漫画は19世紀後半の中央アジアが舞台です。
これまでのストーリー展開から、帝政ロシアが南下政策で中央アジアにちょっかいを出している描写がありました。
故にクリミア戦争(1853~1856年)より前かと思っていました。
ところが今回、湿板写真が出てきたことでもっとあとの時代だと感じたのです。
この漫画は、随分遠回りな描写になりますが「イギリス人スミス青年の中央アジア探訪記録」という位置づけです。
スミスさんは様々な村々を旅して、風習を記録していきます。
そして前巻で一旦、イギリスから取り寄せた写真機を入手しました。
これが湿板写真でした。
湿板写真が発明されたのが、1851年のイギリス。
スミスさんはその写真機を説明書も見ずにサッと湿板を作成しています。
写真機は蛇腹式で屋外でも使えるタイプで、撮影時間も数秒~20秒間くらいのようです。
乾板写真は1871年に、フィルムは1888年に発明されます。
漫画ではガラス板の湿式写真ですから、やはり1860年代くらいのようです。
そうなると日本は1868年が慶応4年、明治元年ですから、幕末の志士たちの写真の時代と同じなのか、と気が付きました。
物語では、中央アジアの人々は写真のことは噂では知っているけれど、ホンモノを見たことがないという描写がありました。
たぶん当時の日本人も、同様だったのだと思いました。
スミスさんにとって写真はすでに身近なモノのようで、中央アジアの人々を写真に収めてその写真を差しあげると、涙を流して喜ぶシーンがあります。
それに対してスミスさんが驚きの表情を見せます。
ここが文明社会に生きてきたイギリス人スミスさんと、まだ資本主義的文明社会がそれほど浸透していない中央アジアの人々との違いです。
そんな世界が150年ほど前には当たり前に世界中にあったのだと気が付かせてくれます。
写真機も、私が大人になる頃には周りは皆「カメラ」と読んでいました。
私が社会人になった頃はフィルムが当たり前で、デジタルカメラがやっと出始めの頃。
まだ画像が粗くて、まさか数年後にはデジタル一眼レフカメラが当たり前になり、さらに銀塩フィルムがこんなにも少なくなるとは思いませんでした。
だって私の修学旅行と言えば、写ルンですの時代でしたから。
そしていまやスマホやタブレットにカメラ機能が付いています。
さて、今回は中央アジアの刺繍等の手仕事はほんの少ししか出てきませんでした。
でも中央アジアの女性たちの生活習慣は満載です。
一方でスミスさんのイギリスでの暮らしが垣間見られるシーンもありました。
私がドラマ「ダウントン・アビー」にハマるきっかけになったのは、この漫画と同じ作者が描いた「エマ」や「シャーリー」のおかげです。
厳しい身分制度だったイギリス社会の仕組みをこの漫画で知ることが出来たからです。
そしてまた、スミスさんもその身分制度の中で暮らしてきたからこそ、今後、また苦難をご自身にもそして妻となる人も経験することになるでしょう。
この漫画は本当にずっと続いてほしいです。
そして旅人スミスさんが紀行文を通じて登場人物が幸せに暮らすことがいかに大変なことなのかを改めて感じ入りました。