数学教師の書斎

自分が一番落ち着く時間、それは書斎の椅子に座って、机に向かう一時です。

印象的なあの頃(3)

2020-09-30 20:20:42 | 数学 教育
 高校1年のあの頃の時間が自分の人生でなぜか印象的なのは、何故なのかと、ふとした瞬間に今まで何回も自問してきた自分があります。今振り返っても最も集中して人生を生きていた時期なのでしょうか。

 強制されていたわけではないのに、勉強で忙しいというか、勉強が面白く打ち込んで勉強していたのも事実です。面白かったのも事実ですし、本格的な勉強だと実感できていたからこそ打ち込めたのだと思います。

 そんなあの頃を思い出したのは、昨日仕事帰りの列車の中で読んでいた本が原因かもしれません。陰関数の微分法を使う問題を受験生に説明するので、陰関数定理の証明やそこから派生する事柄で、包絡線の話を受験生にどう説明できるかなどを考えていました。時間があればゆっくり説明できるのですが、難しいです。こういう時はいつもいろいろな微積分の本のその個所を読むのですが、最近読んだ「微分積分要論」(青木 樋口著)(培風館)が要領よく書かれていてカバンの中にも入れています。


最近の微積分の本では、陰関数というのはないとか書いてある本もある中で、私が学生時代に出版された本で、45年も前の本です。高校1年の時に数学の参考書として買った「数学精義」(岩切晴ニ)(培風館)が私にとって数学の参考書として最初に買った本で、これが印象的であったので、その後同じ著者の大学の微積分の本である、「微分積分学精説 改訂版」(培風館)も最近読むことがあります。

 この本は大学生の頃は、昔の本の感じで手にも取らなかったのですが、高校の微積分を教える際には参考になることが多いと感じます。この本の問題から昔の「数学精義」の問題がとられている気がします。もっとも、「数学精義」の問題は大学入試問題が主体でした。書き方や活字やページ構成など「数学精義」と「微分積分学精説」はよく似ています。最近出版される微積分の本は、以前紹介した加藤文元先生の書かれた数研出版の本を初めとして、高校生の学びを意識した書き方になり、親切な本が多くなってきていますが、その意味では、この岩切先生の「微分積分学精説」も今の時代の、親切な本といえるかもしれません。私の大学生の頃は難しい本を読むことが目標みたいで、易しく書かれた本は程度が低いみたいな感覚でしたが、今の大学生はそんな感覚は少ないのでしょう。高校生なども格調高いなどという選択肢はなく、わかりやすかったらだれが書いていてもいいというか、それに近い感覚で参考書なども選ぶのではないでしょうか。

 「微分積分学精説」の陰関数定理のところを見てびっくりしましたが、証明は難しいので省略すると書いてあります。正直な書き方ですね。「微分積分学要論」では、概略的な証明と書かれています。ある意味このような書き方の方が親切といえますし、きちんとした証明を読んでみたいと思うことで興味を覚えるという点で教育的であると言えそうです。我々が教えるときでも、難しいから省略するとか、正直なコメントのほうが、結果的に教育的であるとも言えますね。心したいものです。

 高校生の時に使った参考書はすでに今は手元にはありませんが、ふと当時の感覚を思い出すためにも手元にあればと思うことがあります。そんな思いを意識してか、私の世代が高校時代に使っていた有名な本格的な参考書が、いくつか復刻版として出版あさられいますね。英語や国語や日本史世界史などはありますが、数学の本はないですね。生物などと違って、高校で教える数学は現代の数学ではないので、50年前の本でも十分使えるので、復刻版を期待したいですね。特に、「数学精義」などは復刻されたら手元に置いておきたいです。

受験の科目から思うこと

2020-09-28 01:01:32 | 数学 教育
 数学を教えながら、数学史を意識した場合に、自分が世界史を受験勉強で選択しなかったことで知識不足を感じてきました。

 受験での選択科目、受験科目で勉強したことは、今まで生きてくる中で自分の知識の中でも、学びの中でも、その影響は大きいと今まで生きてきて実感しています。

 私の高校時代は、英語、国語は文理とも共通授業で、同じ内容教材で同じ教室で受けていました。数学は文理で別授業でしたが、これも高3からでした。したがって、文系の生徒も数学Ⅲの教科書を2年生の3学期には最初の何章かは全員が一緒に勉強しました。理科は、1年時に生物と地学を全員履修し、2年生では、物理化学を全員が受け、3年時に理系はそのまま物理化学を受け、文系は理科が選択になりました。社会に関して、1年時には地理、2年時は世界史と倫理を全員が、3年時には理系は日本史と政経と世界史があったと思います。一応全教科をすべて履修するというものでした。

したがって、時間の制約の中で、教科書を全部終わるということは特に社会では先生も生徒も意識がなく、受験で必要なら自分で勉強するもんだと思っていました。実際、私は理系で、共通1次以前の世代で、国公立大学は1期校2期校の時代です。試験日は3月3、4、5日でした。長く教員をしてきて思うことは、当時の私の受験時代の入試システムは今より良かったとつくづく思います。このことに関しては稿を改めて書きますが、今回は受験の選択科目のその後の影響に関して。

数学史を考えたりする上で、世界史の知識や世界史の時代背景は学校の勉強だけではなく、正確には、受験での勉強が大きく影響しているように今になって強く感じます。私は日本史選択でしたので、一応社会も全科目履修はしたものの、きちんと知識としてその後も定着したのは日本史です。理系の日本史と言っても、その後の共通1次試験やセンター試験と異なり、今の文系の2次試験と同じで、文理共通での記述試験問題です。それ故、資料集の勉強や論述試験対策もしながらある意味本格的な勉強だっと思います。

 しかし、共通1次やセンター試験以降、理系は政経倫理や地理がその選択の中心で、しかも記述試験ではないので、生徒の勉強の仕方も我々の時と全く違う感じです。同じ受験生として考えると楽だなあと感じます。そんな共通1次センター試験世代、60歳以下は全部そうですが、彼らと話す度に、歴史的な知識が全く違っていることを実感します。理系の人と歴史の話をしてもチンプンカンプンで文系の人と話してやっと話が合うという感じです。

 教育とは自分の世代の教育しか当事者経験はないので、それが普通と感じますが、世代を超えて教育に携わってきた自分には、こんなに受験勉強での経験値がその後の人生に大きく影響しているものかと実感ししています。


 そんな中、私自身も世界史的な知識不足を感じながら、ここで掲げたような本も読んだりしています。まずは近代史からと思い、20世紀の世界史的な視点をと思い、この本を読みました。日本史の中の近代史は自分も興味あり、その背景には受験で日本史を選択してしっかり勉強した裏付けからわかる部分が多いのです。数学史を考える中でも、世界史の知識は必要で、そんな視点からの世界史の再勉強と考えて読み始めるとまた面白さも出てきます。

 受験生として、1期校2期校世代で、共通1次以前の世代として、一方、教員として共通1次、センター試験の受験生指導という立場から、この大学受験というものを経験してきて思うことは、学びというスタイルやその後の学びへのつながりを考えると、センター試験、共通試験をやめて、記述試験で、多科目での受験という私の受験生時代のシステムの良さしか感じられません。立場は違いますが、大きな二つのシステムを経験してきたものとしての感想です。その結果として思うことは、今の高校生や受験生は可哀想だなあと。制度の欠陥があれば被害を被るのは受験生、当事者であるという認識をシステムを作る方にもっと高めてもらうことは絶対の必要条件です。





大学の微積分の教科書から(2)

2020-09-24 17:28:42 | 数学 教育
 受験生を教えていて、時々思うことは、高校でどのように教えてもらったのかということです。予備校の講師の中には、受験生ができないのは、高校での教え方に問題があるというニュアンスで話す人がいたりしますが、多くの場合は、生徒の学び方に問題があるのが、現実のように感じます。生徒がきちんと聞いていないとか、それを先生のせいにしてもらっても困るのですが。いずれにしろ、私が教える時には、高校の教科書の記述に即して、わかりにくいところは掘り下げてわかるように詳しく説明するしかないのですが、合成関数の微分法の証明などでも、教える時には、こちらも勉強することで、自分の勉強にもなります。そんな際に、大学の微積分の教科書を参考にしますが、たくさん出版されている微積分の本でも記述の仕方にいろいろ工夫や違いを見つけることは、ある意味楽しいことでもあります。最近買った本でスチュアートの本で以下があります。
3巻の本ですが、その第2巻がこの本です。「微積分の応用」がテーマになっていますが、受験生や高校生の微積分を教えるのに教員として参考になる記述がたくさんあるようです。もちろん全部に目を通していませんが、例えば、逆関数の記述などは、高校生や受験生がきちんと理解していないところですが、高校の教科書に記述もわかりにくかったりする中で、参考書も問題を解くための記述が多く、教えにくいところかもしれません。逆関数の説明から、逆関数の微分法の説明や逆三角関数、双曲線関数とその逆関数の積分、積分に関するヤングの不等式など、受験生にも問題を解く中で言及したいことがあります。

 逆関数に関する説明は、このスチュアートの本は高校の教科書風に記述されていて助かります。こんな記述です。
 1対1の関数fの逆関数の求め方
ステップ1 y=f(x)と書く.
ステップ2 可能ならばこの方程式をxについて解き、yで表す.
ステップ3 f^{-1}をxの関数として表すために、xとyを入れ替えてy=f^{-1}(x)とする。
これなどは、高校の教科書より丁寧な記述です。

日本の大学の微積分の教科書などには、あまりこういう記述は見られません。
ラングのこの教科書も同じように親切な記述で、ゆったりとしたアメリカの教育の雰囲気が感じられます。このラングの本は、高校の授業でも生徒に読ませたこともあり、高校生でも十分に読めると思います。問題を解くための授業よりは、数学を教える授業の中で問題演習も含めて、数学を教えたいと高校ではいつも思っていましたが。。。。

 私が大学に入学した時の1回生の時の数学1(微積分)の授業は週2コマで、一コマ90分の授業でしたが、使ったっ教科書は、
この本の初版本でした。先生は塹江誠夫先生で、友人が最近書いたのでという理由でこの本を使われました。教科書の初めから進めるのではなく、終わりの方の付録の部分から厳密に説明をしながらの授業でした。本に関しては、のちに読み直してみても、結構よくまとまっていて、もっと勉強しておくのだったと後悔しています。当時、京大の教養部の数学1(微積分)では次の笠原先生の本がたくさん使われていました。
カバーはなくしてしまいましたが、今でも座右の書です。もう45年になりますが、いまだにアマゾンの書評を見ても評判にいい本です。lim {θ→0}sinθ/θ=1の証明では、面積を使わない方法で書かれていて、この証明は、一松先生の「解析学序説」と難波誠先生の「微分積分学」くらいしか書かれてないので、貴重でもあります。
 今は上製本ではなく簡易な製本になっていますが、写真のように上製本だと長持ちします。簡易な製本では背表紙のところから、糊が乾燥して割れて、バラバラになりかねません。以前紹介した、滝沢先生の本も簡易な製本の方は糊が乾燥して、割れて来て何度も木工ボンドで修理しながら読んでいます。同じように上製本で内容も格調が高い本として、溝畑先生の以下の本も座右の書として使っています。

読み返すたびに新しい感覚になる本で、双曲線関数の記述など素晴らしいと思いました。また、e^xのテーラー展開も部分積分を使った説明で、高校生にも使える内容で、これを利用して、e^xのテーラー展開を示して、いろいろ高校生にも話ができます。

 また去年買った本で、小林昭七先生の
この本もゆったりと書かれてあり、教師が参考にする本としては、何度も読み返したい本です。コーシーの平均値の定理とその応用としての、ロピタルの定理の紹介など参考にしています。微積分を教える中で、いろいろな教科書も参考にしながら教える中で毎回なにがしらの発見や面白みを見つけるのが楽しみの一つでもあり、そんな気持ちは大切にしたいものです。