国内オケから引くて数多(あまた)の沖澤のどかをピットに迎えたビゼー作曲の歌劇「カルメン」である。なので期待に胸を膨らませて臨んだのだが、二幕終盤のホセとカルメンの二重唱(No.16)前までは全くつまらなかった。その原因は明確で、レチタティーボ、あるいは台詞を全く取り去るという、まるでハイライト版の音盤を聞いているようなその構成にあったのではないか。ここまでの音楽ではそれらを取り去るとアリアの背景にあるストーリーが分からず聞く側が音楽に感情移入しにくくなるのだ。それではオペラは成立しないのではないだろうか。だから正直これほど退屈に感じられたカルメンは初めてだった。しかしそれ以降は歌詞がストーリーを語る部分が出てくるのでようやくドラマが成立し、同時に舞台にも熱気が出て少しはオペラらしくはなった。しかし一方で歌唱が皆スケール感に乏しく、血湧き肉踊る「カルメン」にはなりようが無かった。そんな中ではミカエラを歌った宮地江奈の切々とした歌唱は印象に残った。カルメンの加藤のぞみは日本人離れした演技と無理のない歌唱で悪くはなかったが、決して特段の存在感を感じられるまでには至らなかった。注目の沖澤の指揮は丁寧で繊細なシンフォニックな音楽を作っていて、聞いたことのないような声部がピットから聞こえてきたりはしたが、非力な歌声とのバランスをとったためかいささか迫力に不足し、ドラマを十分には語り尽くしてはいなかった。イリーナ・ブルックの演出は、無国籍にしたりジプシー臭を避けたりした割には特段の主張もなく、色彩と変化に乏しい魅力のない舞台になってしまった。こんなことなら、エーザー校訂版で普通にやってくれたほうがどれだけ良かったか。そうすれば歌手たちの歌もさぞ映えただろうと思う。どうも最近の東京二期会は時として凝り過ぎの感がある。
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