東京シティ・フィル秋のシーズンの開幕は、常任指揮者高関健の振るブルックナーの交響曲第8番ハ短調だ。このオケは2020年8月にこの組み合わせで第2稿ハース版を使用した立派な名演を残したばかりで、それはCDにも記録されている。しかし今回は生誕200周年ということで、最新の第1稿ホークショウ校訂譜を使用した演奏だ。 この第1稿の特色は、指揮者レヴィに「演奏不能」と突き返され、弟子に促されて改定を施す際に切り捨てた部分を復活させたり、また改変したオーケストレーションを元に戻したりし、この曲が最初に生まれた無垢な形を復元したことにある。私は今回初めてこの初稿が実音となったのを生で聞いたわけだが、これまで長年聴き親しんできた第2稿が随分効果を狙い、メリハリたっぷりに、その意味では合理的(?)に書き換えられていて、実はその一方で極めて内気で繊細でこの作曲家らしい貴重な瞬間を多く失っていたのだということに気づいた。部分復活を果たした結果演奏時間は90分近い長丁場ではあったのたが、そこに冗長さを感じるよりも、むしろインスピレーションに富んだ新たに聞くメロディに目から鱗が落ち胸が時めいた。高関は自ら10年間に作り上げたシティ・フィルの機能を十全に開花させ、極めて丁寧に瞬間瞬間を紡いでいった。その結果一部の隙もない揺るぎのない、しかし決して硬直的でない”たおやかな構成感”とでも言えるものが獲得され、実に稀にしか聞きえない立派な音楽が鳴り響いた。それはこの作曲者の記念イヤーに誠にふさわしい大演奏だった。
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