このところ快進撃を続ける東京シティ・フィルの2022年シーズン幕開けに選ばれた曲目は、三善晃の「交響三章」(1960)とブルックナーの交響曲第4番変ホ長調「ロマンティック」の2曲である。指揮は常任指揮者の高関健、コンマスは客演の荒井英治だ。三善作品は個人的には初聞きだが名作だと思った。戦後日本の力動を感じさせるようなローカリティを持つ作品群から一歩抜け出し、西洋的なインタナショナルな価値感を共有して作り出された佳作である。30分弱の大曲だが、変化に富んだ三つの楽章は決して聞く者を退屈にさせない。もっともそれは作品の多様性を十二分に引き出した綿密な考証による高関の指揮あったればこそのことである。複雑なスコアに自律的に挑んだシティ・フィルの迫力も凄かった。休憩を挟んでブルックナーの「ロマンティック」。プレトークで、今回はブルックナー研究の最先端であるコーストヴェット校訂版を使用しつつ、細部は高関自身が作曲者の本心と考える譜を採用すると話してしていたが、そのあたりからも学究的な姿勢を演奏の基本とする高関の本領を垣間見ることができた。そして演奏の方も、そうした姿勢をあらゆる部分に感じることのできる真摯にして実直なものだった。そこには正に作曲家の姿だけが堅牢・雄大に聳え立ち、正真正銘の「立派さ」が滲み出るのである。実はそうすることは、作品自体の「弱さ」を披歴することにも繋がるのだが、それを解釈や補筆の厚化粧で隠すよりそれはそれで個性とするのが正道であろう。シティ・フィルは全身全霊を傾けてこれに臨んだが、それは力感と推進力はありながら、いわゆる「爆演」というような言葉からは程遠い美しい仕上がりだった。今のこのオケの力量はひと昔前とは隔世の感がある。堅牢にして瑞々しい弦、輝かしく力強い金管群、ニュアンス豊かでアンサンブル抜群の木管群、そしてスタイリッシュなティンパニ。それら全てが一体になってまだ雪を残すアルプスの頂を描き切った。皆すごかったけれど、ほんの僅かのカスレはあったものの、偏執的に繰り返されるホルン・ソロのパッセージを見事に吹き切った谷あかねには、どんなに賞賛の言葉を与えても決して大き過ぎることはないだろう。
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