常任指揮者高関健指揮する東京シティ・フィル2023年の幕開きは、実演で聞くことがかなり珍しいベートーヴェンの「献堂式」序曲。この曲、最晩年の作品だがどうもインスピレーションに欠けていてる。大フーガを思わせる展開もどこか中途半端に終わっていて聞き映えがしない。続いて2021年国際ショパンコンクールで4位に入賞した小林愛美を迎えて、同じくベートーヴェンのピアノ協奏曲第3番ハ短調作品37。進化したエラール・ピアノの機能性に多くの影響を受けたと言われるダイナミックなソロ部分と、それを支える充実したオーケストレーションが特色とされる曲だ。しかしこの日の小林の方向性は、そうした力感よりもむしろ細部の沈鬱な表現に向いており、どこか釈然としないものが感じられた。一方オーケストラはスコアを反映して実に表情豊かに立派に鳴り渡ったので、高関にしては珍しくいささかバランスを欠いた仕上がりになった。シティ・フィル定期としては珍しい満場の聴衆(愛美効果か?)からの大きな拍手が続いたがアンコールは無し。一方休憩後R.シュトラウスの交響詩「英雄の生涯」作品40は、このところ好調のシティ・フィル面目躍如の充実した演奏だった。高関のプレ・トークによると、この曲は指揮者志望の音楽家の多くが「振りたい」と所望する曲だそうだが、高関は決して大振りすることなく、煽ることもなく実に丁寧に音を紡いでゆく。しかしそこからは外連味に満ちたシュトラウスの華麗な世界が溢れ出る。これはまさに演奏行為の理想型ではないか。このゴージャスな音響世界に浸ることで前半の欲求不満は解消されて帰途につくことができた。
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