ウイーン・フィルのコンマスでもあるライナー・ホーネックに続いて、2022年4月から第3代首席指揮者に就任したトレヴァー・ピノックの就任記念コンサートである。今回のコンマスはおなじみのアントン・バラホスキーだ。本来4月に予定されていたが、ピノックの急病で来日できず延期されて今回となった。ピノックと言えばピリオド系バロック音楽の旗手というイメージだが、紀尾井には2004年の初共演以来度々登場し、決してそれに止まらない広いレパートリと柔軟の演奏スタイルを披露してくれている。そうした中でも意表をついたワーグナーのジークフリート牧歌でコンサートは開始された。スケール大きく、際立って瑞々しく響く弦、そしてそれにニュアンスに満ちた名手揃いの管楽器群がニュアンスを添える名演だ。バラホスキーの積極的なリードがいっそうの活力の源であったようにも聞こえた。続いてはアレクサンドラ・ドヴガンを迎えたショパンのピアノ協奏曲第2番へ短調。ここではまずドヴガンのピアニズムに驚かされた。洗練された美しい音色と端正なフィンガリング。いかような表現さえ紡ぎ出せるであろうと思われるような楽器を自在に操れる技術をすでに十分持っているのだ。そこから紡ぎだされる弱冠15歳の無垢で純粋な音楽に強く打たれた。そしてピノックはこれまでショパンのオーケストレーションからは聞いたこともないような深い音楽でそれを支えているのだ。鳴り止まぬ拍手にアンコールはバッハ作曲ピロティ編曲の前奏曲ロ短調が静かに悲しげに流れた。考えすぎかも知れないが、凶暴な侵略行為を続ける祖国ロシアを悲しむドヴガンの心が映し出されているようにも聞こえた。休憩を挟んで最後は、明るく活力に満ち高らかに雄弁なシューベルトの交響曲第5番変ロ長調だった。大きな拍手にアンコールは「ロザムンデ」から間奏曲第3番がしっとりと奏でられた。バロックの狭い枠に止まらない音楽家ピノックのこの精力的な音楽作りはとても魅力的で今後がとても楽しみである。実は数日前に定期会員特典でシューベルトとワーグナーの公開リハーサルを見学させてもらったのだが、そこで見たのはコンマスや首席奏者の意見を聞きながら合意形成してゆくピノックの姿だったので、この雄々しい音楽がどうして作られたかは実に不思議である。
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