親の沽券

こんなところに泊まりたくないだろうに、悪いね。

別に週に一回くらい、いいよ。

週に一回は多いよ。あんたもマイケルちゃんとミルキーがいるんだ。自分の家で寝たいだろうに。いつも病院付き添ってくれてありがとうね。

どうしたの？

お母さんだってわかってるんだ。みんなに迷惑かけてることくらい。もう一人前じゃない、半分壊れてる。

そんなことないよ。最近のことは覚えていられないけれど、それは病気だし。でも、自分でお風呂も入れる、お手洗いも行ける、食事もできる。

でも、昔みたいになんでもできないから半人前だ。

まあ、いいじゃないよ。できないことがあったら、誰かに手伝ってもらってやれば。甘えればいいと思うよ。

そうかな。

そうだよ。

でもあんたに迷惑かけてる。本当は腹の底では感謝してるんだ。

お母さん、感謝してくれてるんだー！言ってくれてありがと。

いつも思ってるけど、照れくさいし、親の沽券に関わるから言わない。


…憎まれ口ばかりの母が、わたしに礼を言う。明日の朝、死んでるんじゃないかと思った。

親の沽券。人に、それが例え自分の子供に対してであっても、沽券が邪魔をして感謝の気持ちを伝えられないなんて。
なんてくだらないものだろう。

メンツやプライドが大切な場面もあるだろうけれど。

血が繋がっていたって、言葉にしなければ伝わらないことがたくさんある。
他人ならもっと言葉を尽くさなければ伝わらない。

お母さんは頑張ってわたしに伝えてくれた。ありがとう。

デイサービスセンター

夕方から頭痛がして、今日も実家には泊まらず明日の朝早く行けばいいかと思ったのだけれど、弟Yが今日は体調が悪いというので、仕方ない、行くか…という感じで来た。

相変わらずベッドで横になり大音量でテレビを見ていたけれど、わたしが顔を出すと、あれ？なんで来たの？と。

お薬をカレンダーに貼りに来たんだよー
で、どう？デイセンター？

うん、まあ、いいよ。今日もブローチ作って来た。(←本当は昨日なのだけれど…)
この間は石鹸作ってきたし。

そう言うと部屋から出て来て、作ってきた物を見せてくれた。

デイサービスでやりたい人は作品制作というのがあるらしく、固形石鹸に押し花を貼り付けてみたり、あらかじめできているパーツをまとめてスズランのブローチにしてみたり。そんなことをしてきたらしい。

こんなのももらった…と小さなファイルを見せてくれた。保育園の連絡帳みたいなもので、母のその日の体温、血圧、脈拍、ご飯を全部食べたか、午前中は何をして午後は何をしたか。それから責任者の人がコメントを書いてくれている。

「カラオケで素敵な歌声を披露していただか、ありがとうございました。スズランのブローチ作りました。」

お母さん、カラオケ歌ったの？

わかんない、忘れた。

こんな調子だけれど、とりあえず、楽しい時間を過ごしているらしい。安心した。

美しく泳ぐ女子発見！

今日はマイケルが免許の更新で休んだこともあり、もしかしたらお夕飯作ってくれているのではないかと甘い期待をしてみたけれど、木っ端微塵に吹き飛んでしまい。

でも。プールにちょっと寄ってくるとLINEしたら、どうぞどうぞという快い返信だったので遠慮なく行かせてもらった。

最近、水曜日にレッスンがあることもあって木曜日は練習しないことが多いのだけれど。昨日Hくんに、バンザイらっこで強い蹴り上げができるようになるには、やっぱり回数をこなすことと言われて。ちょっとだけでもやりに行こうということで、素直なわたし。

今日は同じ初心者コースにもゆっくり泳ぐ人コースにも、バッチャンバッチャンと派手に水飛沫を上げる男子がいて、わたしは高波、大時化の海をヨロヨロ進む小船状態。久しぶりの鼻から口からの水飲み祭りになった。

50分ほど1人らっこ練習をして、ヘロヘロ。上がる前にウォーキングコースでフラフラ歩いていると、1番遠くの速く泳ぐ人コースに、ド素人のわたしでもわかる、それはそれは美しいフォームで泳ぐ女子を発見。きっと小さい頃から習っていたんだろうな。

ここのプールであっという間に隅から隅まで泳ぐ人は何人も見たことがあるけれど、わぁ！と見惚れてしまう人は初めて。クロールはもちろん速かったけれど、背泳ぎがとんでもなく速くて、そして美しかった。例えが変かもしれないけれど、野生のビーバーみたいに速い。

わたしのらっこ泳ぎも、いつかちゃんとした背泳ぎの形になるのだろうけれど、あんな風に美しくて力強い背泳ぎにはなりはしない。でも、Hくんの目標が叶うよう頑張ろう。わたしが気持ち良さそうに美しいフォームで200m泳ぐ背泳ぎ。
自分の目標じゃなくて申し訳ないんだけどさ。

ペンギンらっこ

ズキズキの親指を我慢して、プールへぼちゃんと入ると、ちょっと歩きましょうと、おへそ上から水面に出ているトレーナーHくんと肩から上しか出ていない凸凹師弟で歩く。

そして、本人曰く1日のうちで1番元気な時間帯中のHくんのおしゃべりの始まり。

くるりさん、水冷たくないですか？僕、めっちゃ冷えてるんですけど。
ーー外より暖かいかいよ

僕の手見てください、紫色です
ーーそれ、やばいね

くるりさん、やっぱり早い時間の方がいいですか？
ーーいつも働いてるから普段は無理だもん

くるりさん、指どうしたんですか？
___ロッカーで金具が刺さったの
くぅ、痛そうですねぇ

トレーナーも客商売とはいえ、自分の親より年上のおばちゃん相手に大変。

さ、やりましょう！
蹴伸び2本
蹴伸びバタ足3本

蹴伸びバタ足で補助が入った。
くるりさん、今日お尻が沈んでるんですけど。キックは水面で蹴っているから、それだと腰に負担がかかります。

そんなこと言われてもいつもとどう違うのかがわからない

ビート板でバタ足してください

ビート板だと浮きますねぇ、なんでですかねえ、今日は。僕、調べておきます。

…すぐに忘れちゃうくせに…

背浮き2本
気をつけらっこ 50m
ばんざいらっこ 50m

背泳ぎの方は大丈夫ですね、ちゃんと浮けてます。

じゃあ、今日は新しいこと。手をつけます。

………

あ、じゃあ手はつけないで手をつける軌道の一部やります。くるりさん、利き手はどっちですか？右？

見ててくださーい！

気をつけらっこで落ち着いたら右手を上げます。上げても沈まず浮くには蹴り上げのキックを強めに打ちまーす！
まあ。やってみましょう。

…これって水没するやつなんだけど。わたし、これやらされるの3回目。本当にHくんという人は前にやらせたこと忘れちゃうんだなぁ…

やってみる。あれ？前ほど水没しない。
できるかも…

Hくんがやってきた。くるりさん、手の抜いてください、と言いながら手を掴んでどんどん手を上に上げさせられる。
…ぶくぶくぶく…水没

くるりさん、手、あんまり上げなくていいです。ペンギンの手くらいで。

今の上げさせたのHさんですよね？

はい、僕です、すみませ～ん
もう一回やりまーす

今度は足首を掴まれて無理矢理キック、くるりさん、このくらいの力でー
…ぶくぶくぶく…水没

はい、まだまだやりまーす！

はぁ、この間と同じ。ペンギンらっこじゃなくて水没らっこだよう。

いちご大福

ミルキーが買ってきてくれた、いちご大福。ちょっとびっくり。

絵が大袈裟なのかと思っていたら！

本当に絵の通りだった（≧∇≦）食べるのがもったいない。