「くるりさん、こんばんはー!寒くないですか?プール」
「寒くないよ」
「えー?僕、寒いですー」
トレーナーのHくんは相変わらずヘタレたことを言っている。わたしよりも水から出ている面積がだいぶ多いので寒く感じるのかもしれない。
「くるりさん、ちょっとクロール泳いでください」
たまに抜き打ちのチェックがある。
「えー?嫌だよう、もう練習しすぎて疲れちゃったしお腹も空いてるし」
レッスン前に40分練習したからヘロヘロ。わたしもヘタレだ。
「半分でいいです」
別に片道なら泳げるけど、半分でいいと言われて拒否るのもなんなので。
「深めの入水を意識して泳いでみてください」
「わかってるよう」
最近練習している4回に1回の息継ぎ、両腕とも気持ちは目標30センチの深さで披露。ちなみに6回に1回の息継ぎは、何度やってもかえって手数が増えてしまうのでやめた。
半分くらい泳いだところで、本当に止めていいと声が掛かった。今日は何を注意されるのかなーと振り向くとパチパチ拍手をしてくれている。うわっ、満面の笑みだよ。
(*’ω’ノノ゙☆パチパチ
「くるりさん!どうしたんですか、グライドがすっごく上手いですよ、きれいです」
「ブライドってなに」
「ブライドじゃないですよ、グ、ラ、イ、ド。伸びることですよ、グライドキックのグライドです」
「グライドキックってなに」
「フィンでやったじゃないですか、手を伸ばしてキックするやつです」
「あー、あれね・・・??」
何を褒められているかわからない素人はこれだから困るんだろうな。
「上手になってるの?」
「なってます!なってます!」
「溺れてる人みたいじゃない?」
「ないです!スイスイ行ってます!」
「きれいに泳げてる?」
「美しいです!」
わたしの中ではグライド云々よりも溺れてるように見えないか、泳ぎ方がきれいかどうかがとても重要だ。
彼の説明では。速く泳ぐ時でもゆっくり泳ぐ時でも、このグライドというのは大事だとのこと。クロールでは掻いた手を入水させた後の片手万歳でびよーんと伸びている時、平泳ぎだとキックの後のびよーんと伸びる時のことだって。びよーんとすることで楽に推進できるらしい。なんか、前にも言ってたかも。
どうやらグライドが上手くなったというのはとにかく息継ぎの回数を減らして伸びを意識したことが功を奏したのだと思う。
僕よりグライドが上手いとか言い出したので、それは褒めすぎだからもう言わなくていいと滅多にない褒め褒めタイムはわたしから終了。
でも。大人になって褒めてもらえることなんてなかなかない。仕事なんてこの年になればなんでも出来て当たり前だし。だから褒めてもらうこと自体は普通に嬉しいけれど、練習して習得したことについて褒めてもらえるのはもっともっと嬉しい。そして、教えてくれた先生が一緒に喜んでくれてる。これもまたとっても嬉しい。
競争ではないから上手な人やセンスのあるお他人様と自分を比べるのはバカげているし、悲しい。この年になったら昨日できなかったことが今日いきなりできるようになることは難しい。だから長いスパンで過去のわたしと今のわたしを比べて、できるようになったこと、上手になったことを見つける。何歳になっても何か新しいことができるようになるのは嬉しい。愚直な努力はいつか実を結ぶ。
豆乳を飲んだけれど、腹ペコおさまらず。おやつ、食べちゃえ。