角川文庫
2017年 2月 初版発行
解説・東えりか
468頁
2012年9月から2013年7月まで毎日新聞の朝刊に連載された小説
高知の大学で社会学の専任講師を務める宮本美汐・27歳
瀬戸内の凪島で漁師をしていた末期がんの父の遺言で、ある機密データを預かることになります
データとは父が大学の理学部数学科を卒業したあと勤務していた会社から出向を命じられた「原爆」の製造技術開発に関するものでした
「あさぼらけ」と名付けられたこのプロジェクトは結局は実現しませんでしたが、福島第一原発事故のあとに公表されたらどうなるか
その行方を死を目前にした父は娘に託したのです
データの存在を承知していた政府は「あさぼらけ」チーム解散後も長年父の動向を監視し続けており、データのコピーを美汐が持っていると知ると、いわれのない罪をきせ全国に指名手配します
島育ちならではの泳力と社会学の研究によって培われた人脈を使ったり、信頼できる新聞記者、友人たちの協力を得て、島を脱出、「あさぼらけ」の中心人物がいる東京を目指す美汐の逃亡は続きます
毎日新聞の連載終了後、池澤さんは「小説が現実に追いつかれる日」と題したエッセイを寄稿しておられます
ことの始まりは冒険小説を書きたいという衝動だった
日本が核武装するなんてフィクションとしても荒唐無稽の極みと思っていた
小説家の我儘を駆使して作ったプロットだったはずなのに最近の世間の動向を見ていると、あり得ないと言い切れないような気がしてきた
「あさぼらけ」は本当に実在しなかったか?こちらの方で小説が現実に追いつかれるとしたら、これほど恐ろしいことはない
面白くて楽しめるエンターテイメント小説ではありますが考えさせられることも多くありました
震災後に書かれたエッセイ集「春を恨んだりはしない」も読んでみようと思います
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