講談社文庫
2015年10月 第1刷発行
解説・大矢博子
367頁
明治の歌塾「萩の舎」で樋口一葉の姉弟子に当たる三宅花圃が目にした手記には師である中島歌子の心の声が刻まれていました
人気歌塾の主宰者として一世を風靡し、多くの浮名を流した歌子は何を思い、胸に秘めていたのでしょう
幕末の江戸で裕福な商家の娘として育った歌子(登世)は一途な恋を成就させ水戸の天狗党の志士に嫁ぎます
しかし、尊王攘夷の急先鋒だった天狗党は暴走
水戸藩の内乱激化にともない、歌子は夫と引き離され、自らも投獄され、過酷な運命に翻弄されることになります
中心に描かれるのは歌子ですが、歌子の義妹、名を変えて「萩の舎」で歌子の秘書のような役割をしていたやはり登世という名前だった女性、牢屋敷で一緒だった天狗党の家族たちの悲惨な生き様にも心を揺さぶられます
歴史の一コマに過ぎない水戸藩の内乱の中、多くの人が筋を通した生き方をしたのです
歌子について江戸から水戸へやってきた“爺や”でさえ、乱に加担せねば、という思いに突き動かされ命を落とします
歌子は「明治生まれのひよっこに、いった何がわかる」と言います
昭和生まれ、平成生まれ、令和生まれはひよっこどころではありませんねぇ
自分たちの今は多くの先人の犠牲の上に立っているのだと、今一度思い返す必要があります
恋愛小説としても幕末動乱を描いた時代小説としても大変読み応えのある内容でした
天狗党に関心を持ったのはこの作品でだったと思います。
3日ほど前、乙川優三郎氏の短編集で幕末の水戸藩が描かれた「面影」という一編を読んだのですが、
それを機に「恋歌」を思いだしていたところです。
再読しようかと取り出してみたら、結構な厚さ(笑)
筋立て、展開に、ややこしいなあと思ったのを記憶していますが、
テーマ、視点も稀有で?読み応えある作品でしたね。