新潮文庫
2012年2月発行
解説・東えりか
410頁
【緘黙】
構音や発生の機構には障害がなく、大脳・言語領域の損傷がないにもかかわらず、ひたすらに沈黙を守り続ける状態を指す
無言症ともいう
いかなる場面でも一切喋らない全緘黙、特定の人物や状況に臨んでのみ喋る部分緘黙ないしは選択性緘黙に分類される
ことに正常域の知能を持つ成人においては、全緘黙が長期間持続することはきわめて稀とされる
現役の精神科医である著者による医学エンターテインメント
15年間ひと言も発しない男
世界的に特異な症例に挑む3人の個性派医師
津森慎二
東北の精神病院院長の息子で信州大学を卒業
バツイチ、子供なし
患者の話をゆっくり聞くタイプで早急なアプローチはしない
嘗て食べたことのある料理を完璧に再現できるという特技を持つ
大辻旭
絵に描いたような美男子
背が低いのが少々難点
東京大学卒業、数多くの論文を発表し、マスコミへの露出度も高い
治療に関しては新しいことを試すタイプで少々強引
蟹江充子
実家は由緒ある鉛筆メーカー
一時は小説を書いていた文学少女だったらしいが、当時のペンネームは決して明かさない
神戸大学卒業、麻酔の専門医の資格を持つ
年代物の車が好き、リコーダーを吹くのが趣味
舞台は岐阜県の新幹線が止まる駅近くの五百頭病院
ある日、ひとりの患者が入院してくる
新実克己、41歳
祖母と二人で暮らしていた彼は、もともと変わり者ではあったらしいが、15年前仏壇の前に座り「暗いなぁ」と呟いて畳に寝転んで以来、一切口を利かなくなってしまったのだった
排泄、食事だけはするが、それ以外、眠っていない限りはまっすぐに寝て天井板を見つめているという
まず担当医になったのが津森、続いて大辻、蟹江
どんな治療をしても一切言葉を発しなかった新実が病院のクリスマス会でついに喋った!
医師たちの私生活や人となりの背景、新実との「闘い」、他の入院患者たちの症例など医療現場の日々の物語ですが「神様のカルテ」のような、いかにも「小説」とは違い、現在の精神科医療に関する記述が多くノンフィクションのようでした
自分の知らない精神科医療の世界、その曖昧さや難しさなどを知ることができた、という点では読んで良かったと思います
春日さんは以前「僕たちは池を食べた」を読みました
一風変わった短編集ですが、どれもインパクトがあった記憶があります
長編より短編のほうがお得意かもしれません
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