光文社文庫
2018年12月 初版第1刷発行
295頁
かつては炭鉱で栄えていましたが、今はすっかり寂れ、高齢化ばかりが進む北海道の過疎の町
理髪店を営む向田康彦は札幌で働く息子の「会社を辞めて店を継ぐ」という言葉に素直に喜べず戸惑います
作中に出てくる炭坑博物館や映画祭などから実在する北海道のY市が舞台と思われます
「向田理髪店」「祭りのあと」「中国からの花嫁」「小さなスナック」「赤い雪」「逃亡者」
公的サービスが減らされた過疎の町で暮らすのは大変、田舎町の柵は余所者にとっては厳しい、etc
マイナス面を描きながらも人の優しさや温かさを織り込んだハートウォーミングな連作短篇集です
自分も町民の一人になったような気分で登場人物たちにエールを送りたくなりました
主人公や彼を取り巻く町の人々は、良くも悪くも濃密な付き合いをしおり、田舎肯定派と思える読者(都会の人?)はそれを「人情溢れる」と感じプラス評価、否定派の人々は田舎の悪い所を綿々と書き連ねていると受け取りマイナス評価になっているようでした。
私はそう意味では中立派なのですが、むしろ主人公の「どうせ上手く行かない」と否定から入るネガティブさが気になってしまいました。
『町民の一人になったよう』と書きましたが頭の中だけのことなのでした。
主人公のネガティブさは、挫折して実家に戻ってきたところにも原因があるかもしれませんね。
現実社会では、次の世代が何とかしてくれるかも、とは希望的観測に過ぎないかもしれません。