文春文庫
1988年1月 第1刷
2007年11月 第31刷
解説・皆川博子
上巻 318頁
下巻 251頁
主席家老として藩の執政の中枢にいる桑山又佐衛門
彼は身分の低い下士の部屋住みの息子であったが、婿養子に入ったことから苦労しながらも出世の道を歩いてきたのだった
彼がまだ部屋住みだったころには、剣術道場で一緒の仲間5人と安い店で酒を呑んでは、半ば諦め半ば夢見ながら将来を語り合ったものだった
仲間のうちのひとりだけは上士の家の跡継ぎで将来が約束されていたが、残り4人はどこかへ婿養子に入るか、やっかい叔父となるしか道は残されていない武家社会
成長して生きる道が別れてからのそれぞれの人生を静かにに描いています
若き日を思い出す又佐衛門
風が走るようにここまで一目散に走ってきたが、何が残ったか
かつての友とは政権争いから仲違いをし、また別の友からは果たし状が届く
「あの時、ああすれば良かったのだろうか」と反芻しつつも、これが人生だと受容れていく
立場や地位が変わることで、得るもの、失うものがあるのは仕方のないこと
センチな感情に浸る前に、その場に応じた生き方をしてきた又佐衛門だったのです
剣術の腕はなかなか、ほどほどに頭が切れ、職務は真面目に勤めるが、婿養子ということで我儘な奥方からは見下され、あまり楽ではない様子ですが、「これも我が人生」
主人公と同年代の男性には共感できる部分が多いかもしれませんね
50歳を過ぎた老体での斬り合いのところは、「口をあけて激しく喘いだ」「腕は鉛のように重く足はみじめに顫えつづけている」など実際そうだったのだろう描写が真に迫ってきます
いくら若い頃は腕がたったといっても実戦からは遠ざかっているわけで、カッコ良い剣劇になるはずはありませんものね
ところどころで葉室麟さんが思い出されました
藤沢周平さんを尊敬して止まない葉室さんには、藤沢文学の継承者として今後も素晴らしい作品を発表していって欲しいものです
「江戸の用心棒」とか藤沢作品が数多くドラマ化されていることを知ったのも最近のことで残念しきり。
友人に「お前が羨ましい」と言ってピシャリと言い返されるところなど、現実がさらりと描かれていて上手いと思いました。
いい小説でした。(^^)