部屋(へや)の片隅(かたすみ)に置かれた花火(はなび)。彼女と一緒(いっしょ)にやろうと買って来た。でも、その前に振(ふ)られてしまい。夏も終わりだというのに、そのままになっている。
こうなったら一人でやってやる。僕(ぼく)は近くの小さな公園(こうえん)へ向(む)かった。もう夜中(よなか)で誰(だれ)もいない公園。僕はベンチに座って花火に火をつけた。眩(まぶ)しいくらいの火花(ひばな)が飛(と)び交(か)い、白い煙(けむり)がもくもくと立ち込めた。そして、当然(とうぜん)のことだが、花火の光がだんだん弱くなり、辺りはまた暗闇(くらやみ)になってしまう。僕は、もう一本、もう一本と火をつけた。
何本目だったろう。僕が顔をあげると、暗闇(くらやみ)の中からうっすらと白いものが近づいて来た。よく見ると、それは浴衣(ゆかた)を着た奇麗(きれい)な女性。僕を振った彼女より、ずっと奇麗(きれい)な人だった。その人は僕のそばまで来ると、にっこり微笑(ほほえ)んでちょこんと座った。
何でこんな時間にこんな所へ…。この時は、そんなことどうでもよかった。今までの寂(さび)しさがどこかに吹(ふ)っ飛んで、僕はまた花火に火をつけた。ところが、不思議(ふしぎ)なことに一本花火が終わると、一人ずつ浴衣の女性が増(ふ)えていく。みんなモデルのような美しい人ばかり。そして、最後(さいご)の一本。みんなの目線(めせん)が、僕に集(あつ)まっているのが分かった。僕は、おもむろに火をつけた。すると、女性の一人が始めて口を開いた。
「これで、あなたも私たちのものになるのよ。一緒に行きましょうね」
<つぶやき>どこへ行くの? でも、花火の後始末(あとしまつ)だけは、ちゃんとしておいて下さいね。
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