刑事(けいじ)たちが部屋(へや)に入ると、中はガランとしていて女性の部屋とは思えなかった。年配(ねんぱい)の刑事が部屋を見回して呟(つぶや)いた。「何で無いんだ」
まだ新米(しんまい)の女刑事が訊(き)き返した。「何がです?」
「鏡(かがみ)だよ。普通(ふつう)、女性の部屋にはあるもんだろ。ほんとにここに住(す)んでたのかな?」
「私、聞き込みに行ってきます」新米刑事はそのまま部屋を飛び出した。
年配の刑事が一通(ひととお)り部屋の中を確認(かくにん)していると、別の刑事が入って来た。
「女の身元(みもと)が分かりました」その刑事は信じられないという顔をして、「それが、すでに亡(な)くなっているんです。先月、変死体(へんしたい)で発見(はっけん)されたそうです」
「死んでる? じゃ、ここにいたのは誰(だれ)なんだ」年配の刑事は唸(うな)り声を上げて、「変死体って言ったな。どんな状態(じょうたい)で発見されたんだ」
「それが、血(ち)が無くなっていたと。それに、傷口(きずぐち)から血が流れた跡(あと)もなかったそうです」
その頃(ころ)、女刑事は路上(ろじょう)で声をかけられた。彼女は振り向くと、恐怖(きょうふ)で目を見開(みひら)いた。
数日後のこと、山中(さんちゅう)で行方不明(ゆくえふめい)になっていた新米刑事の変死体が発見された。
「ほんとにここでいいんですか? もっと良い部屋があるのに」
不動産屋(ふどうさんや)の若い男が言った。借(か)り手の女は軽(かる)く微笑(ほほえ)んで肯(うなず)いた。その顔は、あの女刑事とそっくりだった。女は鍵(かぎ)を受け取ると、そのまま部屋の中へ消えていった。
<つぶやき>一体何があったのか。この女の正体は? 謎(なぞ)が謎を呼び、その先の結末(けつまつ)は…。
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