みけの物語カフェ ブログ版

いろんなお話を綴っています。短いお話なのですぐに読めちゃいます。お暇なときにでも、お立ち寄りください。

0329「リラックス法」

2018-09-24 19:00:01 | ブログ短編

「君(きみ)は、どうして気にならないんだ?」彼は彼女を見つめて言った。
 彼女はうんざりしたように、「何よ。もう、そんなこと、どうでもいいじゃない」
「この形(かたち)。ちょっといびつな円形(えんけい)で、それが何とも言えず、ほにょっとしてて味(あじ)わいがある。それに、この香(かお)りだ。君は、どうしてこいつに惹(ひ)かれるのか探究(たんきゅう)すべきだ」
「あたしは、別に惹かれて買って来たわけじゃないわ」
「それは意識(いしき)してないだけだ。君は無意識(むいしき)のうちにこいつを選(えら)び口にしている。僕(ぼく)の統計(とうけい)によると、君はこの一ヵ月の間、毎週必(かなら)ず購入(こうにゅう)して僕に食べるように勧(すす)めている。それは、どういうことなのか。僕に、こいつを買ってこいと、暗示(あんじ)をかけようと――」
 彼は、些細(ささい)なことが気になってしまうのだ。それが解決(かいけつ)しないと、他のことが手につかないこともある。彼女はそのことをよく知っていた。だから、それ以上何も言わずに、彼の話を聞き続けた。彼女は袋(ふくろ)の中のこいつを食べつくすと、彼の持っている最後(さいご)の一枚をつかみ取り、口の中に放(ほう)り込んだ。そして、バリバリとかみ砕(くだ)く。
 彼は思わず息(いき)を呑(の)んだ。そして、ひきつった声で叫(さけ)んだ。
「なぜだ! 君は、僕の、僕の一枚を…」
「もう行くよ。早くしないと遅刻(ちこく)しちゃうでしょ。あたしの親(おや)、そういうのうるさいのよ」
「ああ、分かってるよ。今日が大切(たいせつ)な日だってことは、ちゃんと理解(りかい)しているつもりだ」
<つぶやき>人は緊張(きんちょう)すると、普段(ふだん)の習慣(しゅうかん)を思わずして平常心(へいじょうしん)を保(たも)とうとするのです。
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0328「早春の頃」

2018-09-23 18:40:38 | ブログ短編

「ダメよ、そんな薄着(うすぎ)じゃ。まだ寒(さむ)いんだから、一枚余分(よぶん)に着ていきなさい」
 私は出かけようとしている娘(むすめ)に言った。娘はブツブツ言いながらも、私の言うことを聞いて出かけて行った。私は、ふと昔(むかし)のことを思い出す。早春(そうしゅん)の淡(あわ)い思い出。
 あれは、彼と付き合い始めて間(ま)もない頃(ころ)。デートをするにもドキドキだった。少しでも可愛(かわい)く見せようと、私は春らしい服(ふく)を選(えら)んだ。まだちょっと肌寒(はだざむ)いのに。彼が来るのを待っている間、私は身体(からだ)が冷(ひ)えきって。お母さんの言うことを聞けばよかったと後悔(こうかい)した。
 彼が来たとき、私は作り笑(わら)いをして…。でも、無理(むり)してることは彼にはバレバレで。彼ったら私の手を取って…。彼と手をつないだのは、これが初めてだったかも。彼は両手(りょうて)で私の手を暖(あたた)めてくれた。そして、手をつないだまま、彼のコートのポケットへ…。
 彼は、そのまま何も言わずに歩き出す。私は恥(は)ずかしくって、うつむいたままついて行く。彼って、とってもシャイだったから。今は、その陰(かげ)すら見当(みあ)たらないけど…。
 私は居間(いま)でゴロゴロしている夫(おっと)を見た。あの頃の彼はどこへ行ったのかなぁ?
「ねえ、あなた。今日は休みなんだし、デートでもしませんか?」
 彼は面倒(めんど)くさそうな顔をしながらも、「ああ、いいよ」って。二人、寄り添(そ)って歩く。こんなの久(ひさ)しぶりじゃない。私は彼のコートのポケットへ、そっと手を突(つ)っ込んだ。
<つぶやき>恋をして間もない頃は、ちょっと背(せ)のびしていい格好(かっこう)をしたがるものです。
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0327「等々力教授の研究室」

2018-09-22 18:47:44 | ブログ短編

 大学内で記者会見(きしゃかいけん)をする等々力(とどろき)教授(きょうじゅ)。いよいよ研究(けんきゅう)の成果(せいか)を発表(はっぴょう)することに。教授の横で心配(しんぱい)そうな顔で立っていた元助手(もとじょしゅ)が声をかけた。
「教授。本当に大丈夫(だいじょうぶ)なんですか? 前みたいに、また失敗(しっぱい)ってことに」
「今度は大丈夫だ。ちゃんと実証(じっしょう)実験は成功(せいこう)してるんだ。まあ、見てなさい」
 教授は大勢(おおぜい)いる記者の前に進み出た。一斉(いっせい)にフラッシュがたかれる。早速(さっそく)、記者の一人が声をあげた。「教授、画期的(かっきてき)な掃除機(そうじき)を発明(はつめい)されたとか。どんな掃除機なんですか?」
「ゴミ捨(す)ての必要(ひつよう)のない掃除機だ。吸(す)ったゴミを異空間(いくうかん)へ飛ばしてしまうんだ」
 教授は勢いよく布(ぬの)を取る。中から現れたのは、かなり大きなファンがついた掃除機らしきもの。「この巨大(きょだい)ファンで勢(いきお)いをつけて、異空間へビューッと送り込む」
 教授はゴミ箱(ばこ)のゴミを床(ゆか)にまき散(ち)らすと、掃除機のスイッチを入れた。轟音(ごうおん)と共に巨大ファンが回り出す。掃除機は順調(じゅんちょう)にゴミを吸い始めた。しばらくして、部屋の空気が生暖(なまあたた)かくなったかと思うと、天井(てんじょう)の方から細(こま)かい埃(ほこり)のようなものが降(ふ)ってきた。その量(りょう)は徐々(じょじょ)に増(ふ)えていく。会場は騒然(そうぜん)となり、記者たちは悲鳴(ひめい)を上げて部屋から逃(に)げ出した。
 取り残(のこ)された教授は首(くび)を傾(かし)げる。教授は、駆(か)け寄って来た元助手に言った。
「君(きみ)も准教授(じゅんきょうじゅ)になったんだ。どうだね、君のところの優秀(ゆうしゅう)な助手を、一人まわしてくれんか。そしたら、この研究も実(み)を結(むす)ぶかもしれん」
<つぶやき>忘れた頃にやって来る等々力教授。次回はどんな研究を見せてくれるのか。
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0326「離婚届」

2018-09-21 18:48:43 | ブログ短編

 妻(つま)は夫(おっと)の前に離婚届(りこんとどけ)を差し出した。目を丸くしている夫。妻は落ち着いた声で、
「別れてください。もう、あなたとは一緒(いっしょ)にいられない」
 夫は困惑(こんわく)の表情(ひょうじょう)を浮(う)かべて、「えっ、何で? 何でそういう――」
「あたし、もう限界(げんかい)なの。これ以上(いじょう)あなたといたら、きっと嫌(いや)な女になっちゃうわ」
「だから、どうしてそうなるんだよ。俺(おれ)たち、別に離婚するようなこと…。理由(わけ)を教えてくれよ。俺たち、今までずっと仲良(なかよ)くやってきたじゃないか。そうだろ?」
「そうね」妻は視線(しせん)をそらし、小さなため息(いき)をつく。「あなたは、いい人よ。とっても優(やさ)しいし、あたしのこと大切(たいせつ)に思ってくれてる」
 夫はますます分からなくなった。妻がどうして離婚なんて言い出したのか。その理由を必死(ひっし)に考えた。そして、一つの考えが頭(あたま)に浮かんだ。
「まさか、好きな人が他にいるとか…、そういうことか?」
 妻は素早(すばや)く反応(はんのう)した。「ばっかじゃないの! あたしが浮気(うわき)するわけないでしょ!」
 妻はイライラと頭をかきむしり、「だから…、あたしは、あなたの思ってるような女じゃないの。おしとやかでもないし、面倒(めんど)くさがりのダメダメ女なの。いい加減(かげん)、気づきなさいよ。あなたのこと好きになっちゃって、それで、良い女に見せてただけ!」
 夫はホッとした顔をして、「何だ、そんなことか。そんなの、知ってるよ」
<つぶやき>本音(ほんね)で話ができて、やっと一人前の夫婦(ふうふ)になるのかも。無理(むり)しちゃダメだよ。
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0325「旅立ちのとき」

2018-09-20 18:44:35 | ブログ短編

 彼女はいくつもの曲(ま)がり角(かど)を曲がってきた。そのたびに壁(かべ)にぶち当たり、挫折(ざせつ)を繰(く)り返した。人生(じんせい)は思い通りにならないことばかりだ。でも、嘆(なげ)いていても仕方(しかた)がない。彼女はそのことをよく知っていた。
 彼女はけして諦(あきら)めない。彼女には叶(かな)えたい夢(ゆめ)があったから。子供の頃から思い描(えが)いていた夢。だから、どんな困難(こんなん)にも立ち向かって行けたのかもしれない。
 ある人が彼女に訊(き)いた。どうして、そんなに頑張(がんば)れるのか?
 彼女の答えはシンプルだ。
「だって、後で後悔(こうかい)したくないから。今、できることをしているだけよ」
 また、ある人はこうも言った。もっと楽(らく)な生き方もあるんじゃないの?
 彼女はよどみなく答える。「生き方は人それぞれよ。私には、今の生活(せいかつ)が一番楽なのかもしれないわ。そりゃ、辛(つら)いこともあるけど、それだけじゃないからね」
 彼女は過去(かこ)を振(ふ)り返らない。今を精一杯(せいいっぱい)生きる。それが、明日の一歩へつながることを彼女は信じている。――そして、彼女にも休息(きゅうそく)の時がやって来た。
 ベッドの周(まわ)りに家族(かぞく)が集まり、彼女の安らかな寝顔(ねがお)を覗(のぞ)き込む。孫娘(まごむすめ)が言った。
「おばあちゃん、いい顔してるね。きっと、天国(てんごく)でも夢を追(お)いかけるんじゃないかしら」
<つぶやき>長い人生のいろいろを乗り越(こ)えて、やっと見えてくる境地(きょうち)があるのかもね。
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