みけの物語カフェ ブログ版

いろんなお話を綴っています。短いお話なのですぐに読めちゃいます。お暇なときにでも、お立ち寄りください。

0324「三姉妹」

2018-09-19 18:58:33 | ブログ短編

「それ無理(むり)よ」長女(ちょうじょ)の初音(はつね)が言った。「あの頑固(がんこ)親父(おやじ)がすんなり会ってくれるはずないわ」
 三女(さんじょ)の琴美(ことみ)はため息(いき)をつき、「でも、私はちゃんと彼のこと知ってほしいの」
「へえ、コトにそんな人がいたなんて」次女(じじょ)の響子(きょうこ)が感心(かんしん)したよう呟(つぶや)いた。
「ここは、やっぱ奇襲作戦(きしゅうさくせん)よ。私の時みたいに、突然(とつぜん)連れて行くの。私はこの人と結婚(けっこん)します、的(てき)なこと言って」初音は思い出し笑(わら)いをして、「あの時の親父の顔、面白(おもしろ)かったわよ」
「でも、その後が大変(たいへん)だったじゃない」響子は顔をしかめて、「家の中ギスギスしちゃって。結婚式当日(とうじつ)も、オレは絶対(ぜったい)行かんって大騒(おおさわ)ぎ」
「そうよ。あの時、お母さんが間(あいだ)に入って――」琴美も悲しい顔になる。
「でも、結局(けっきょく)出席(しゅっせき)したじゃない。それで、わんわん泣(な)いちゃって」
「もう、それはお姉ちゃんのこと大切(たいせつ)に思ってるからで」
「はいはい。コトは親父に一番可愛(かわい)がられてるからね」響子は琴美の頭をなでながら、「あんたの時は、もっと大変だと思うよ。今から覚悟(かくご)しときなさい」
「そんな。私はどうしたらいいの? 彼に会ってくれれば、きっとお父さんだって…」
「心配(しんぱい)ないわよ。何があったって、子供ができればイチコロなんだから。さっきも見たでしょ。孫(まご)を抱(だ)いてるときの親父の顔。でれっとしちゃってさぁ」
<つぶやき>父親はここで気骨(きこつ)を見せないと。娘(むすめ)も、それなりの心構(こころがま)えで臨(いど)みましょう。
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0323「運命をチェンジ」

2018-09-18 18:41:36 | ブログ短編

 街(まち)をフラフラと歩く男。どこかうつろで生気(せいき)が全く感じられない。人混(ひとご)みを抜(ぬ)けて細い路地(ろじ)に入る。街の喧騒(けんそう)もここまでは届(とど)かない。そこで男は、別の男に声をかけられた。
「どうしたんですか? 死(し)にそうな顔をしてますよ」
 男は答える。「俺(おれ)は死に場所(ばしょ)を探してるんだ。事業(じぎょう)に失敗(しっぱい)してな、借金(しゃっきん)だらけさ。女房(にょうぼう)は愛想(あいそ)を尽(つ)かして、子供を連れて出て行っちまった。もう俺には何にもない」
「じゃあ、運命(うんめい)を取り替(か)えませんか? 私は生(なま)ぬるい平凡(へいぼん)な人生(じんせい)より、逆境(ぎゃっきょう)の人生の方が好(この)みなんです。お願いします」
 男は、その申出(もうしで)を受けることにした。どうせただの戯言(たわごと)だと思ったのだ。別れ際(ぎわ)、その男は言った。「一つだけ気をつけて下さい。女房には絶対(ぜったい)に逆(さか)らわないこと。これさえ守(まも)れば、あなたは安泰(あんたい)な人生を過ごせますよ」
 男は家へ帰ってきた。だが、何か違和感(いわかん)を感じていた。ここが自分の家なのか? アパートのドアを開ける。中には女がいて、お帰りなさいと声をかけた。男は、これが俺の女房だったかな、と首(くび)をひねる。男は洗面所(せんめんじょ)の鏡(かがみ)を覗(のぞ)き込んで、これが俺の顔?
「あなた、何してるの?」と女房に声をかけえられると、男は全てを受け入れた。
 数年後、男が街を歩いていると、見憶(みおぼ)えのある顔に出くわした。その顔の人物(じんぶつ)は言った。
「宝(たから)くじが大当(おおあ)たりでね。借金の返済(へんさい)をして、残(のこ)りの金で新しい事業を始めたんだ。これがまた大当たりさ。今は若い女と再婚(さいこん)して、いい人生を送らせてもらってるよ」
<つぶやき>あなたの親(した)しい人、本当にあなたの知っている人ですか? もしかしたら…。
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0322「しおどき」

2018-09-17 18:37:32 | ブログ短編

 二人は同じ職場(しょくば)で知り合って、どちらからともなく付き合い始めた。まあ、職場恋愛(れんあい)なんてどこにでもあるパターンなのかもしれない。彼らも、ごく普通(ふつう)に喧嘩(けんか)をし、幾多(いくた)の試練(しれん)を乗り越(こ)えてこの時を迎(むか)えた。
「ねえ、それって今じゃなきゃいけないの? こんなとこで言われても…。あたし、片(かた)づけなきゃいけない仕事(しごと)があるんだけど」
 彼女は仕事の手を止めて、周(まわ)りの人に聞こえないようにささやいた。
「あの、そろそろ、僕(ぼく)たちも潮時(しおどき)だと思うんだ。だから、ここら辺で…」
「ちょっと!」彼女は思わず声を上げた。周(まわ)りを気にして、ますます声を落とし、
「何でそんなこと言うのよ。そりゃ、あたしにだって、いけないとこあるかもしれないけど、急(きゅう)に別れようなんて…。ひどいよ」彼女は感情(かんじょう)が高ぶり目頭(めがしら)を押(お)さえた。
 彼は、彼女の反応(はんのう)に驚(おどろ)いた。あたふたしながら、「ちょっと待(ま)ってよ。何で、そうなるかな? 僕は、別に、そういうつもりで――」
 彼が何を言っても、彼女には届(とど)きそうもなかった。彼はポケットから指輪(ゆびわ)を取り出して、彼女の前に差(さ)し出しすと、「僕と、結婚(けっこん)しませんか? お願(ねが)いします」
 彼女はキョトンとしていたが、彼の顔を見つめて、一瞬(いっしゅん)、嬉(うれ)しそうな顔をした。だが、
「何で、今なのよ! もっと、ふさわしい場所ってもんがあるでしょ。なに考えてんのよ」
<つぶやき>やっぱり女性にとっては特別(とくべつ)なこと。結婚の申込(もうしこみ)は、場所選(えら)びも重要(じゅうよう)かも。
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0321「メシマズ」

2018-09-16 18:38:52 | ブログ短編

 新婚生活(しんこんせいかつ)を始めて一週間。普通(ふつう)なら一番(いちばん)幸せな時なのだが、僕(ぼく)の場合(ばあい)はちょっと違(ちが)っていた。彼女、いや、嫁(よめ)さんの作る料理(りょうり)が激(げき)マズなのだ。付き合っていた頃(ころ)、彼女の部屋(へや)へ遊(あそ)びに行っても、手料理を作ってくれたことが一度もなかった。僕はちょっと期待(きたい)して行っていたのだが…、作ってくれなかった理由(わけ)がやっと分かった。
 僕は嫁さんを愛(あい)している。だから、これしきのことで彼女のことを嫌(きら)いになんかならない。でも、やっぱり美味(おい)しいものを食べたいじゃない。
 彼女だって、そのことは分かってて、一生懸命(いっしょうけんめい)、キッチンで格闘(かくとう)している。しかし、ちょっと不器用(ぶきよう)で粗忽(そこつ)なところがあるので、いろんな失敗(しっぱい)を繰(く)り返す。それにアバウトな性格(せいかく)も加わって、とんでもない料理ができあがるのだ。
 僕も簡単(かんたん)な料理ぐらいはできる。だから、彼女の横でいろんなアドバイスをするのだが、彼女にとっては邪魔(じゃま)なようで、「もう、うるさいわよ。気が散(ち)るでしょ。向こうへ行ってよ!」と、逆(ぎゃく)ギレされてしまう。
 でも、ここで僕が諦(あきら)めてしまったら、これからの夫婦(ふうふ)生活にも支障(ししょう)をきたしてしまうだろう。だから、僕は心を鬼(おに)にして、メシマズの矯正(きょうせい)をすることにした。どんなに嫌がられても、彼女のために僕も頑張(がんば)ろうと思う。
 嫁は熱(あつ)いうちに打(う)て。まさに今、適切(てきせつ)かつ迅速(じんそく)に行動(こうどう)しなくてはいけないのだ。
<つぶやき>新婚生活の醍醐味(だいごみ)は手料理かもしれません。胃袋(いぶくろ)が満(み)たされれば家庭円満(かていえんまん)。
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0320「つまみ食い」

2018-09-15 18:32:39 | ブログ短編

「あれぇ、一つ足(た)らないわ。おかしいわね」
 吉江(よしえ)はケーキの箱を覗(のぞ)いて言った。「姫香(ひめか)、知らない?」
 ルームメイトの姫香は首(くび)を横に振る。吉江は彼女の顔をじっと見て、
「まさか、つまみ食いとか、しちゃった?」
「あたし? あたしが、そんな、はしたないことするはずないじゃない。あたしを誰(だれ)だと思っているの。これでも…」
「知ってるわよ。先祖(せんぞ)は貴族(きぞく)で、お金持ちなんでしょ。でもね、嘘(うそ)はいけないと思うなぁ」
「あたしは、嘘なんかついてません。どうして、あたしを疑(うたが)うわけ?」
「だって、口元(くちもと)にクリームがついてるんだもん」
 姫香は慌(あわ)てて口元を手でぬぐった。それを見た吉江は、
「やっぱり、そうなんだ。別にいいんだけどさ、みんなで食べようと思ってたから」
「あなた、あたしを欺(だま)したのね。クリームなんかついてないじゃない」
「ほんと、姫香って分かりやすいよね。そういうとこ、私、好きだよ。でもね、これからはちゃんと言ってよ。私たち、ルームメイトなんだから」
 姫香はいじけるように、「だって、美味(おい)しそうなケーキだったから……。ごめんなさい」
<つぶやき>どんな人でも、美味しそうなケーキがあったら、つい手が出てしまうのです。
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