キ上の空論

小説もどきや日常などの雑文・覚え書きです。

赤い

2016年01月09日 | リハビリ企画
 罪状が何だったか、記録にすらない。
 私刑に近い理由だったので、秘密裏に。
 事情を聞けばそういうことだ。
 ディナの処刑が決まったのは、新しい教務官長の気まぐれであるらしい。
 権力争いの余波で、前任者の縁者が理由らしい理由もなく殺されることがある。話には聞いていたが、まさか自分が当事者になるとは思っていなかった。結構うまく立ち回っていたつもりだったのに。
 前任の教務官長シオン・キシュ・リシオンが神殿を追われて、蟄居同然の生活を送るようになってからわずか数日。
 死人の数は二十を超えた。
 処刑部屋は魔導兵器の実験室でもあった。
 床は随分と血が染みているらしく、掃除の意味を疑う色になっている。
 ディナは混乱していた。
 リシオンの縁者で最初に死んだのは娘婿のトリ・ライシュ・イツトウだ。
 その時はまだリシオンが教務官長だった。彼を神殿から追い出すために、力を殺ぐ必要があった。イツトウの死はその最初の一撃。
 イツトウは、ディナの友人だった。
 イツトウは、ディナが殺した。
 魔導神官が三人、刑吏が五人。
 ディナを貫くはずの光は、神官の手から放れた瞬間消えた。
「貴様、邪魔をするか!」
 魔導神官が宙に向かって叫んだ。
 刑吏がすかさずディナを拘束する。
 彼らが警戒するまでもなく、ディナにはそんな力はない。
 何一つ浮かばない。
 頭の奥がどこかに抜け落ちたみたいだ。
 目の前で踊る粘着質を見ながら、ディナは抵抗を諦めた。身体を拘束するいくつもの手が、その分だけ皮膚に食い込む。
 神殿の奥で生まれた、女神のためにと作られた、赤い化け物。
 いくつもの手と目を持つ異形。
 ただ喰うために殺す。
 ただ殺すために在る。
 化け物が口を開ける。このまま飲み込まれたら、何になるだろう?

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昔書こうと思って頓挫した話の冒頭部分のコピペ。
行方不明になったCDの捜索に時間をかけたくなったので。

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