遥々と草野から柳川まで、鰻の為だけに移動し、
挙句の果てに、目当ての老舗鰻屋は定休日ときた。
予め定休日を調べていなかった、私の不手際と言うしかない。
それどころかこの日、車の運転は、全部娘にさせていたのだ。
娘の冷たい視線が突き刺さり、痛い程である。
このままでは、あちこちから出血しかねない。
「ま、待て。まだ手はある。柳川は鰻の本場たい。鰻屋なんぞ、そこらにわんさか……」
「いやいい。それより、子供の頃に爺ちゃん達と行ってた鰻屋がいい。」
娘が言う、思い出の鰻屋とは、
久留米大善寺、川沿いに軒を連ねる数軒の鰻屋の事である。
私が鼻たれ小僧の頃から、家族で御馳走と言えば、ここ大善寺の鰻だった。
しかし、何時の頃からか、この界隈から足が遠のいてしまった。
7時前、大善寺到着。
「大善寺に変えて、むしろ時間的にはちょうどよくなったね。柳川は時間が早すぎたもん。」(家内)
「んだんだ。ところで、ビール飲んでいい?」(私)
「どうぞ。」(娘)
引き続き、娘が運転してくれると言う。
では。
ゴクゴク
うめえ!
「鰻の酢の物でーす。」
イエーイ、ビールが進むぜ。
「蒲焼定食でーす。」
その昔、親父が頼んでいたのは、決まってこれだった。
今日は親父を偲び、いつものせいろ蒸しではなく、敢えてこれなのだ。
ご飯にタレをちょいとつけるのは、いつもの私のスタイルである。
モグ
これこれ。
この甘めのタレ。
遠い日の家族の風景が蘇ってきた。