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「『山崎パン』の自社トラック」考

2014年03月02日 23時02分38秒 | 学習支援・研究
「数字のオモテとウラを学ぶコラム:
「山崎製パン」が自社トラックを持っているのはなぜか

Business Media 誠
2014年2月26日 08時00分
(2014年2月26日 11時24分 更新)


写真:山崎製パンの定番商品「ランチパック」

2014年2月は観測史上まれに見る大雪に2度も見舞われた大変な月になってしまいました。
首都圏の交通網はマヒし、週末はじっと家に居るしかなかったり、
雪かきに追われたり、といった人も多かったのでは。

また、何らかの事情で外出せざるを得なかった人は、
帰宅するのに非常に苦労したり、中には
やむを得ず近隣のホテルで宿泊した人もいたでしょう。

そんな中、注目を浴びた企業が「山崎製パン」。
高速道路で立ち往生していた人に対して、
トラックの荷台に積んでいたパンを振る舞っていたことが
美談として取り上げられました。

山崎製パンと言えば「ランチパック」のような
定番商品をはじめとした製パン業や、
コンビニエンスストア「デイリーヤマザキ」の運営などで知られている会社です。
山崎製パンは12月31日が決算日で、
2014年は2月19日に決算説明会が開催されました。

同社ドライバーの機転に敬意を表しつつ、
山崎製パンの業績を分析してみたいと思います。

売上は右肩上がりだが

山崎製パンの主軸は「食品事業」。
単純にその売上高の推移を見てみると、
興味深いのが、その成長の「堅さ」。
2004年度からずーっと、売上高が増え続けているのです。
リーマンショックがあった2008年ごろや、
東日本大震災があった2011年は、
どこの企業も多少なり業績に影響が出ているのですが、
山崎製パンにはそれがないのです。

もちろん、「食」という必需品を扱っている企業ですから
大幅な業績のブレが生じにくいのも事実です。
しかし、マクロ指標を見れば、2005年ごろから
日本の人口が減少に転じています。すなわち、
“胃袋”は減っているにもかかわらず、
山崎製パンはその成長を止めることなく拡大を続けているのです。

その一方で、営業利益(売上から売上原価、販売費などを差し引いたもの)は横ばい。
つまり、売上が増えても、その分だけ
増えてしまっている費用があるために、
利益が増加していないのです。

その主な原因は「運搬費」。
そう、今回ヒーローとなったトラックにかかっている費用です。
私たちの心を温かくしてくれたトラックですが、
もしかしたら山崎製パンにとっては重い
コスト要因になってしまっているのかもしれません。

昨今のエネルギーコストの高騰や、
インターネットショッピングの普及などに伴い、
運搬費は企業の収益性を左右する
重要なファクターになってきています。

運搬費を合理的に低く抑え、なおかつ
スピーディーな物流を実現するために、
外部の輸送業者を積極的に活用する動きも盛んになってきました。

●自社トラックを持つ背景

しかし、今回活躍した山崎製パンのトラック。
トラックの車両を見たことがある人もいると思いますが、
トラックには「ヤマザキ」のロゴが
しっかりと書いています。つまり
山崎製パンのトラックは運輸業を営んでいる
外部の会社のものではなく、自社グループで確保している
車両だったということを意味します。もし仮に、
パンを積んでいたトラックが山崎製パングループのものではなく、
どこかの物流業者のものだったとしたら、
今回のようなエピソードは生まれなかったはずです。

山崎製パンではグループ内に物流の子会社を2つ持っており、
そこが工場から店舗などへの配送の大部分を引き受けています。

しかし、ここで素朴な疑問が湧いてきます。
なぜ山崎製パンは、現在の潮流を踏襲して、
物流を全面的にアウトソースしないのでしょうか?

トラックを自社で持てば、トラックの減価償却費、
維持費、駐車スペースなどの固定費を抱えることになります。
しかも最近はエネルギーコストの高騰などが目立っています。
売上がせっかく増加しても
なかなか利益増加に結びついてこないのは、
多分にそういった背景が含まれているのです。

それでもなお、山崎製パンが
自社グループ内で物流網を確保するのには、
以下のような理由があるからだと推測できます。

理由1:十分な供給量
山崎製パンの製品は、自社グループで運営している
「デイリーヤマザキ」「不二家」などの店舗のほか、
各社コンビニ、スーパーなどに輸送しています。
基本的に同社が扱う製品は
「生活必需品」の部類に入るため、
景気や季節による変動はそれほど大きくありません。
パンを広範囲に、安定的に、しかも大量に供給するのであれば、
自社グループのトラックをフルに生かすことができます。

もっとも、山崎製パンも全ての物流を
グループでまかなっているわけではないようです。
例えば「不二家」のケーキなどは、
売れ行きに季節的なブレがあります。
ピーク時には外部の輸送業者を併用することで、
無駄なコストを抑えながら
製品の供給を行う体制がとられていることが推測されます。

理由2:トレーサビリティ
日本語で「追跡可能性」と訳されるトレーサビリティ。
10年ほど前に騒ぎになった食品偽装などの事件をきっかけに、
「食の安全」に関する意識が非常に高まってきています。

例えば、工場を出て店舗に届くまでの間に、
大事なパンに異物が混入したら……
その責任があくまで輸送業者にあったとしても、
山崎製パンのイメージダウンは避けられません。
パンを作るだけでなく、店舗に届けるところまでを
しっかり自社の管理下におくことで、
食の安全性を自社でコントロールすることが可能になるのです。

理由3:パンを届けるという社会的使命
前述の通り、山崎製パンの作っているパンは「生活必需品」。
だからこそ、確実に消費者の手元に届くような
供給体制を持っていなければなりません。

しかし、日本国内を走っている輸送業者のトラックの台数には
限りがあります。例えば
2014年4月に予定されている消費増税の影響で、
駆け込み需要に伴う物流のひっ迫が指摘されています。
家電や家具など、耐久消費財の販売数量が増加する。
そうでなくても年度末は何かと物流量が増える時期です。
これらの影響で、すでに輸送業者のトラックは
「満杯」の状態になりつつあります。

生活必需品たるパンが輸送できなくなったら、
私たちの生活に影響が出てきます。
そうした場合でも私たちの手元にしっかりと
パンを届けるためには、自社グループで
トラックを確保しておくことが
一番確実な手段と言えるわけです。

物流はほとんどのビジネスにとって欠かせないものですが、
その機能はあくまでも「コスト」という側面でしか
語られない傾向があります。しかし、
食の安全を確保する、供給体制を確実なものにする、
そういった観点から自社で物流機能を維持するという発想は、
将来の不測の事態を回避したり、あるいは
企業の価値そのものを高めるための「投資」という意味合いを持っているのです。

今回はその投資がバッチリ当たり、
ドライバーの活躍によって“株価”も上昇したようです。
これからも私たちにおいしいパンを届け続けてくれることでしょう。

[眞山徳人,Business Media 誠]

http://www.excite.co.jp/News/economy_clm/20140226/Itmedia_makoto_20140226021.htmlより

なるほど、おもしろい解説記事。
物流コストの圧縮は、各社、知恵を絞るところ。
今回の雪による、物流の停滞は、カンバン方式生産に打撃を与えた。
合理的な物流システムは、わが国の生産方式の正の側面だが、
これが機能するのは平時の時。
危機対策を行えば、コスト増になってしまう。
悩ましい課題だ。

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