進むリアルタイム決済、遅れる全銀システム
平日7時間だけの即時決済は、もはや時代遅れ
浪川 攻 :東洋経済記者
2014年03月23日
写真:シンガポールでは今年中に24時間の即時決済が始まる
日本の銀行システムはこのまま世界から取り残されてしまうのか──。
口座振り込みなど銀行の資金決済システムをめぐる国際的な競争が激しくなっている。
各国で24時間365日即時決済できるサービスの導入が進んでいるのだ。
2008年に英国で始まったのを皮切りに、
今年はシンガポール、16年には豪州が対応する予定だ。
米国も動き出している。中央銀行である連邦準備制度理事会(FRB)は
「資金決済システムの改善に向けた市中協議文書」を
昨年9月に公表。12月に募集したパブリックコメントを踏まえ、
今夏にはリアルタイム決済に向けた報告書を出す。
これを機に、英国などを追いかける動きが加速するのは間違いない。
企業財務にも影響
こうした資金決済システムの高度化は「ファスターペイメント」と呼ばれる。
日本での口座振り込みの場合、即時決済できるのは、
平日の8時30分~15時30分までの7時間に限られる。
それ以降は、大量のデータを一定期間ためて、
まとめて処理する仕組み(バッチ処理)になっている。
ところが、英国では土日・祝日でも時間を問わず、
銀行利用者はリアルタイムで振り込みや受け取りができる。
即時決済のメリットは、個人の利便性が向上するだけではない。
企業財務上では、「資金効率面にも違いが現れる」と、
ある製造業の財務担当者は指摘する。
販売先からの購入代金の入金が1日でも早まれば、
資金を効率よく活用できるようになり、
無駄なコストがなくなる。
欧米の銀行がファスターペイメントへの対応を進めるのは、
「ドット・フランク法やボルカールールの導入など金融規制の強化によって、
事業の多角化よりも、(資金決済など)コアビジネスへの
集中に向かわざるをえなくなった」(米銀関係者)からだ。
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そうした中で、日本の銀行システムが時代遅れになりつつある。
口座振り込みなどの資金決済分野で、
日本の銀行がこれまで世界的に高い品質レベルを誇ってきたことは間違いない。
全国の銀行や信用金庫、信用組合などをネットワークでつなぐ
全国銀行データ通信システム(全銀システム)を構築。
平日の一定時間内であれば即時決済でき、
その精度の高さが国際的に評価されてきた。
だが、今後は24時間365日の即時決済が世界標準になるだろう。
日銀ネットは対応可能
日本でもその下準備は進んでいる。
全銀システムの決済データを受け継いで、
銀行間決済の最終処理を行う日本銀行金融ネットワークシステム(日銀ネット)は、
すでに実質24時間稼働する態勢になっている。
全銀システムを24時間決済できるように改良すれば、
ファスターペイメントを提供するインフラは出来上がる。
問題は、全銀システムに接続する個別銀行のシステムの対応だ。
全銀システムが24時間稼働するようになれば、
各銀行が個別で運用しているシステムも対応させる必要がある。
収益力が落ちている地域金融機関などは、
設備投資が増えるのを嫌い、全銀システムの改良そのものに
反対する可能性がある。
全国銀行協会は新年度からファスターペイメントの議論を始める。
そこでいかなる方向が打ち出されるのか。
顧客の利便性向上を優先するならば、
24時間365日化の流れは止められないだろう。
(撮影:ロイター/アフロ =
週刊東洋経済2014年3月22日号〈3月17日発売〉 核心リポート03)
http://toyokeizai.net/articles/-/33158より
平日7時間だけの即時決済は、もはや時代遅れ
浪川 攻 :東洋経済記者
2014年03月23日
写真:シンガポールでは今年中に24時間の即時決済が始まる
日本の銀行システムはこのまま世界から取り残されてしまうのか──。
口座振り込みなど銀行の資金決済システムをめぐる国際的な競争が激しくなっている。
各国で24時間365日即時決済できるサービスの導入が進んでいるのだ。
2008年に英国で始まったのを皮切りに、
今年はシンガポール、16年には豪州が対応する予定だ。
米国も動き出している。中央銀行である連邦準備制度理事会(FRB)は
「資金決済システムの改善に向けた市中協議文書」を
昨年9月に公表。12月に募集したパブリックコメントを踏まえ、
今夏にはリアルタイム決済に向けた報告書を出す。
これを機に、英国などを追いかける動きが加速するのは間違いない。
企業財務にも影響
こうした資金決済システムの高度化は「ファスターペイメント」と呼ばれる。
日本での口座振り込みの場合、即時決済できるのは、
平日の8時30分~15時30分までの7時間に限られる。
それ以降は、大量のデータを一定期間ためて、
まとめて処理する仕組み(バッチ処理)になっている。
ところが、英国では土日・祝日でも時間を問わず、
銀行利用者はリアルタイムで振り込みや受け取りができる。
即時決済のメリットは、個人の利便性が向上するだけではない。
企業財務上では、「資金効率面にも違いが現れる」と、
ある製造業の財務担当者は指摘する。
販売先からの購入代金の入金が1日でも早まれば、
資金を効率よく活用できるようになり、
無駄なコストがなくなる。
欧米の銀行がファスターペイメントへの対応を進めるのは、
「ドット・フランク法やボルカールールの導入など金融規制の強化によって、
事業の多角化よりも、(資金決済など)コアビジネスへの
集中に向かわざるをえなくなった」(米銀関係者)からだ。
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そうした中で、日本の銀行システムが時代遅れになりつつある。
口座振り込みなどの資金決済分野で、
日本の銀行がこれまで世界的に高い品質レベルを誇ってきたことは間違いない。
全国の銀行や信用金庫、信用組合などをネットワークでつなぐ
全国銀行データ通信システム(全銀システム)を構築。
平日の一定時間内であれば即時決済でき、
その精度の高さが国際的に評価されてきた。
だが、今後は24時間365日の即時決済が世界標準になるだろう。
日銀ネットは対応可能
日本でもその下準備は進んでいる。
全銀システムの決済データを受け継いで、
銀行間決済の最終処理を行う日本銀行金融ネットワークシステム(日銀ネット)は、
すでに実質24時間稼働する態勢になっている。
全銀システムを24時間決済できるように改良すれば、
ファスターペイメントを提供するインフラは出来上がる。
問題は、全銀システムに接続する個別銀行のシステムの対応だ。
全銀システムが24時間稼働するようになれば、
各銀行が個別で運用しているシステムも対応させる必要がある。
収益力が落ちている地域金融機関などは、
設備投資が増えるのを嫌い、全銀システムの改良そのものに
反対する可能性がある。
全国銀行協会は新年度からファスターペイメントの議論を始める。
そこでいかなる方向が打ち出されるのか。
顧客の利便性向上を優先するならば、
24時間365日化の流れは止められないだろう。
(撮影:ロイター/アフロ =
週刊東洋経済2014年3月22日号〈3月17日発売〉 核心リポート03)
http://toyokeizai.net/articles/-/33158より