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なぜ日本では、イノベーションは起こらないのか?

2014年03月19日 13時20分47秒 | 学習支援・研究
ここがヘンだよ!日本企業のイノベーション
科学者集団が考えた、面白い仕事の作り方

丸 幸弘 :株式会社リバネスCEO
2014年03月12日

なぜ、イノベーションは起こらないのか?

「ビジネスにどうやってイノベーションを起こすか?」
大企業、ベンチャー起業家、メディアなど、国内外を問わずあらゆる人々が、
この永遠の課題に答えを出そうと躍起になっています。
この東洋経済オンラインでもそれに関する記事がたくさん出ていますが、
今回の記事では、僕ら科学者集団が考えた、
ひとつの考え方をご紹介したいと思います。

日本人が好きな「PDCA」が、むしろ邪魔?
「誰?」とお思いの方が多いと思いますので、
自己紹介しますと、僕はリバネスというベンチャー企業を運営しています。
理系の大学生・大学院生だけで立ち上げた会社で、
サイエンスに関する出張授業(出前実験教室)など、
複数の事業を展開しています。

皆さんになじみのあるところだと、
ミドリムシのビジネスで知られるユーグレナ、
日本初の大規模遺伝子検査ビジネスを行うジーンクエストなど、
15社以上のベンチャーの立ち上げに携わってきた……と言ったら、
少しは身近に感じていただけるでしょうか。

さて、私自身は農学分野の研究者でもあります。
リバネスの社員も、全員が理系の博士号
もしくは修士号を取得しています。

研究者はつねに、夢のようなイノベーティブな発見を目指しています。
同志を集めてチームを作っては、
無数の実験を繰り返し、そして世紀の大発見にたどり着きます。
そうした過程と、ビジネスの世界、
一般的な組織で行われるやり方を見比べてみて思うこと。
それは、今の一般企業のやり方では、
イノベーションは起こせないのではないかということです。

具体的には、多くの組織が取り入れている
「PDCA」(計画・実行・評価・改善)のサイクルに、
落とし穴があるのではと思うのです。

戦後、半世紀以上が経って、日本企業には
強固なレギュレーションシステムが出来上がりました。
その中で社員が組織にコントロールされながら
「PDCAサイクル」を回し、業務の改善を図っていきました。
しかし、このやり方では、「今ある仕事をよくすること」はできても、
「新しい仕事を作り出すこと」は難しいものがあります。
そこで、イノベーションを起こすためにと、
新たな仕組みを考えてみました。名づけて、
QPMIサイクル」です。

では、どんな順番ならいいのか?
「怪しい……」と思った方、
そう怪しくはありません(笑)。
けっこう真剣な話ですので、もう少し読んでみてください。

まずQはQuestion(疑問や課題)、
PはPassion(情熱)、
MはMission(使命)、
IはInnovation(革新)。
4つの頭文字をとったものが「QPMI」 です。
具体的には、行動は次のように表せます。

Q:さまざまな事象から「疑問」や「課題」を見いだす
P:課題解決に対する情熱を持ち続ける
M:課題をミッションに発展させ、チームを作って取り組む
I:チームの推進力により新たな価値の創出を目指す
つまり、たったひとりの大きな問題意識がまず最初にあって(Q)、
それに対する情熱を殺さずに育てる(P)。
そして、周囲を巻き込みながらプロジェクト化し、
集団で試行錯誤を積み重ねること(M)。
それを会社全体で実行することが、
イノベーションを起こす組織になるための唯一の方法ではないか、
と僕は思うのです。

「みんなでイノベーションを起こそう」は無意味
企業の経営陣や上司が知っておくべき最も大切なことは、
「みんなでイノベーションを起こそう」と呼びかけることの無意味さです。
たったひとりが抱いている問題意識と
パッションを周りに伝播させていくことでイノベーションは起きるのであり、
トップダウンで呼びかけるだけでは革新は生まれません。

身近な例で考えて見ましょう。
もし、あなたが部下の立場で、自分の会社に不満を抱いているとして、
その不平不満を上司にそのまま言ったとしても、
あまり効果はないでしょう。
経営陣の考え方や会社の風土をいきなり変えるのは、
簡単なことではないからです。
ではどうすれば、イノベーションの起こりうる風土が
生まれるのでしょうか?

今、すぐにあなたができることは、
自分が本当に取り組みたい「Q」(疑問や課題)を考え抜くこと。
そして、それを解決するための「P」(情熱)を持ち続けることです。
そして、それを周囲の人々やFacebook、Twitterなどで発信し続けてみましょう。

発信し続ける利点は、非常に大きいものがあります。
課題を解決する方法を考えて発信していると、
あふれる情報の中から、
必要な情報だけが取り込めるようになるのです。

そして、周囲の人々が必要な情報を提供してくれるようになり、
ともに課題解決する仲間を見つける手掛かりが得られるようになります。
それらの情報を取り込みながら、
自分の課題設定(Q)と情熱(P)をより強いものにしていくことが、
イノベーションを起こすために「ひとりの社員」ができることです。

断固、重要なのはパッション
さて、みなさんはQPMIサイクルでいちばん大切なのはどれだと思いますか? 
僕は断固、「P」が重要だと思います。
つまり一人ひとりのパッションです。

ちょうど就活シーズンですが、多くの企業では、
個々人のスキルを見て採用するケースが多いのではないでしょうか。
でも、もしイノベーションを組織に求めているとすれば、
まず必要なのは、パッションのある人材を集めることです。
そして、採用した社員のパッションに“道筋”をつけること、
パッションのある社員が出したアイデアを、
社内でマネタイズする方法を考え抜くことが、
会社側がやるべきことです。

私は、現在の日本企業が抱える最も大きな問題のひとつが、
社員の「モチベーション」をコントロールしようとしていることだと考えています。

高度経済成長期、会社が安定して
おカネを稼ぐことを目標にしていた右肩上がりの時代には、
これはひとつの方法だったかもしれません。
しかし、21世紀は違います。
10年先に会社が存続しているかわからなくなり、
おカネよりもやりがいを考えている若者が多くいる時代です。
そして、行動力の源となるパッションは、
人によってかなり異なるのです。

そのパッションを把握することなしに、
給与やインセンティブでモチベーションを上げようとしても
持続するはずがありません。
「モチベーションコントロール」ではなく、
「パッションコントロール」にシフトしなければ、
革新的なアイデアは絶対に生まれてこない、と思います。

部下が意欲的にパッションを持って
「こんなビジネスをやりたい」と提案してきたとき、
どんな返答をしているでしょうか。
経営者や上司が「市場規模はどのくらいか」
「事業計画はどうなっているか」と返すのでは、
たいへんに非生産的です。誰も思いつかなかった
イノベーションを起こそうとするアイデアですから、
数字は未知数で当然だからです。

社員に返すべき質問は3つ。
「それ、新しいの?」
「それ、面白いの?」
「それ、やり続けられるの?」

この3つの質問にしっかりとした理由をつけて
「はい」と答えられるのであれば、
「じゃあどうやってビジネスにしていこうか」と一緒に考えるのが、
イノベーションを起こす組織における上司や
経営陣の仕事だと私は思うのです。

とはいえ、誰もが革新的なアイデアを思いつくわけではありません。
やる気はあっても、取り組むべき課題(Q)を見つけられない社員もいるでしょう。
情熱を傾けるような問題意識を社員に芽生えさせるためには、
今やっていることとまったく別の仕事にかかわらせるのが有効です。

リバネスでは、社員50人で、事業部をまたいだ
200以上のプロジェクトをつねに同時進行させています。
たとえば教育事業ばかりやっている社員には、
人材開発やメディア事業をやってもらう。
まったく予期せぬことや、その社員の価値観を変えるような仕事、
今までやったことのない仕事を意識的に課すことで、
小さな問題意識がいくつも集まり、
いずれその人にしか見つけられなかった課題が生まれてくるのです。

パッションがある人間は、マネタイズに必死になる

そして、社員が出してきた面白いアイデアを、
どうビジネスに変えていくかは、会社の最大の役割です。
社員のパッションを大切にすることは、
このマネタイズという面においても大きな効果をもたらします。

やりたいことがはっきりしている人間は、
それを実現するための手段として、
持続させるための仕組みを必死に考えます。
自分のやりたい企画を実現したり、
持続させるためには、当然ながら
おカネをどこかで稼ぎ出してくる必要がある。

つまり、何をやりたいという強いパッションを持っている人間は、
それを可能にするために、必然的におカネを稼ぐことにも力をそそぎます。
一見、遠回りなようですが、「儲けたい」から出発するよりも、
「やりたいこと」を実現するためにいろいろなことを考えるほうが、
結果的に成功率は上がります。

「豚を育てたい」?! 超個人的な欲望をビジネスに

リバネスの事業の中から、
「QPMIサイクル」の具体的な事例をひとつご紹介します。
リバネスには、「福幸豚」という独自ブランドの豚を開発して売る養豚事業があります。
このプロジェクトを立ち上げた福田という社員には、
「自分自身で豚を育てたい」という単純な、
しかしとてつもなく大きなパッションがありました。

彼はリバネスのインターン生だった頃から、
養豚をやりたいと言っていましたが、
当時のリバネスにはその力はありませんでした。
だから、彼は一度、別の畜産飼料卸売会社に就職し、
直営農場で養豚を学びました。

あるとき、私は養豚場で働く彼に「1から10まで、
福田自身の手で育てた豚を食べてみたい。
1頭分全部買うから、俺に送ってくれ」と告げました。
でも福田は悲しそうに言うのです。
「エサも品種も自分自身の手で作ることなんかできない。
豚自体も、精肉の段階でほかの会社の豚と混ざってしまうし、
ただの国産豚になってしまう」と。

彼は続けて、「そこが課題なのです。
自分自身で作った豚を届けられないことが」と言います。
私は即答しました。「じゃあ、
うちで作ればいいよ。沖縄にいい場所がある。
そこでエサ作りから始めよう」、と。
そして彼は私を信じ、会社を辞めてリバネスに転職しました。

もう私も引き下がることはできません。
彼のパッションを潰すわけにはいかない。

そこで舞台に設定した沖縄のことを調べていると、
沖縄の養豚業界にもいくつもの課題があることがわかってきました。
実は、沖縄では大量に豚が消費されていますが、
そのおよそ半分が輸入豚肉なのです。沖縄料理として
有名なラフテーやテビチも、ほとんどが輸入豚肉で作られている。
そして、エサの値段がどんどん高騰していたために、
現地の農家がどんどん潰れていたのです。

私は、その悲しい現実を聞いて、
これは逆にチャンスなのではないかと思いました。
現地の課題と、福田の課題を一緒に解決することができると考えたからです。
そこで、琉球大学の先生の協力を得て、
まだかろうじて生き残っていた地元の養豚農家と提携しました。

そして、廃棄されていたシークワーサーや
アセロラのしぼりかすを改良し、
リバネスの発酵学のノウハウを活用して、
自前でエサを生産することで、徹頭徹尾、
福田の手による豚を作ることに成功したのです。
今では、その豚をリバネスの飲食事業の店舗である
「梅酒ダイニング明星」や、福田自身が営業した先へ卸し、実際に消費者に届けています。

とはいえ、ここまででは熱い男による、
よくある情熱物語にすぎません。
これをどうビジネスに発展させるかが、
経営者の手腕が問われるところです。

さて、そこで僕はどうしたか。
この福田が切り開いた一連のプロセスを通して、
リバネスには、今までまったく
かかわったこともなかった養豚のノウハウが備わったことになります。
じゃあ、この仕組み自体を売ればいいと考えました。

アイデアをマネタイズする具体的な方法やリバネスのほかの事例は、
著書『世界を変えるビジネスは、たった1人の「熱」から生まれる。』
にも詳しく記されています廃棄物を利用して
自前でエサを作り独自のブランド豚を開発するというパッケージを売ることにしたのです。
そして、たとえばカツサンドで有名な井筒まい泉さんをご存じの方も多いと思いますが、
そこではこのモデルで生産した「甘い誘惑」というブランド豚を商品に利用しています。

ここでも、根底にあるのはQPMIの発想です。
「地域の養豚農家を助け、畜産業を活性化できないか」という
「Q」(疑問や課題)がある。
アイデアを考えた社員には「これを自分で実現したい」
という「P」(情熱)がある。

ここに、上司が最初のメンバーとなって、
どういう「M」(使命)を掲げればいいか、
一緒に考える。あとは、
考え続けることでなんとか答えを見つけ、
「I」(革新)につなげていく。

何よりもまず、新しいこと、面白いことをやってみよう、
という社員個人のパッションが大事なのです。
そのパッションを潰さないように考え続けることで、
新しいアイデアは生まれてくるものだし、
マネタイズの方法もひねり出せるものだと、
私は思っています。

明日3月13日(木)19時より、この記事の著者、丸 幸弘氏の講演会がありました。。丸氏の考え方をより詳しく知りたい方はお立ち寄りください。

http://toyokeizai.net/articles/-/32343?page=1

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