MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

 伊皿子坂社会経済研究所のスクラップファイルサイトにようこそ。

♯405 軽減税率は確かに「面倒くさい」

2015年09月08日 | ニュース


 財務省が打ち出した消費税の10%への引き上げに当たっての負担緩和策に対し、(予想されたことではありますが)9月7日の読売新聞の紙面では、まさに社を挙げて実現阻止に向けたキャンペーンが展開されています。

 そもそも、政治に大きな影響力を持つとされる渡辺恒雄・読売新聞グループ本社会長が、2013年の暑中見舞いにおいて有力政治家たちに新聞への軽減税率の適用を迫ったというニュースは、当時から一部のメディアでは有名な話でした。

 そして、これと歩調を合わせるかのように、同年9月に日本新聞協会(読売新聞グループ本社代表取締役社長白石興二郎会長)の諮問を受けて発足した「新聞の公共性に関する研究会」が、消費税率引き上げに際しては新聞に軽減税率が適用するべきだとする意見書を発表。(社)日本新聞販売協会もこれに追随し、政府に対し「新聞の軽減税率はこの国の明日へのともしび」と題するアピールを行ってきたところです。

 一方、今回、麻生財務大臣は一連のコメントの中で、軽減税率に関する政府の制度案では「酒を除く全ての飲食料品」を対象品目にすることを明言(日本経済新聞9/5)したとされています。つまり、今回の財務省案が具体化すれば、新聞協会などの2年越しの目論見が外れ、これまでの努力が無になることは必至の状況です。

 財務省が示す原案では、再来年4月に予定されている消費税の10%引き上げに際しては、全品目に10%の税率を課したうえで、飲食料品などの購入で消費者が払った税率2%に相当する額を後から給付することとしています。また、これら飲食料品の購入額の把握に当たっては、将来的にマイナンバーの活用を検討するとの方針も示されているようです。

 ここしばらくの間静かであった軽減税率を巡る議論が急展開を見せる中、「複数税率(軽減税率)を導入することは面倒くさい。それを面倒くさくしないようにすることが手口だ。」とする麻生財務大臣の説明を、9月7日の読売新聞の社説は、「あまりに無責任」な発言と断じています。自民・公明両党は、2013年12月に生活必需品などへの軽減税率の導入で合意し、2014年の衆院選の公約にも掲げている。与党が政治的に積み上げてきたこうした議論を「面倒くさい」といった理由で投げ出すことなど到底許されるものではないというのが、その論旨ということになります。

 一方、軽減税率の導入を目指す与党・公明党からも、「(財務省案は)党の考え方とはかけ離れたもので、軽減税率とは言えない」という指摘や、「買い物をするときの税率が10%であれば、『痛税感』は緩和されず、国民はメリットを感じない」などの反発の声が上がっている(←NHK報道)ということであり、この財務省案に関しては今後の政局において厳しい議論にさらされることになりそうです。
 
 さらに言えば、支払った消費税額をマイナンバーにより把握するとういう財務省案にも、解決すべき課題はまだまだ多いと言わざるを得ないでしょう。全国の商品小売店の全てにカード情報読み取りのための機器を設置したり、新たな手続きを導入することが事業者への負担に繋がることは明らかなうえ、予期せぬトラブルや煩雑さのコストをどのように考えるのかという問題も整理されなければなりません。

 加えて、マイナンバーの利用により政府が国民一人一人の買い物の履歴を管理することが、プライバシーの点から国民の間に大きな議論を呼ぶことは論を待ちません。

 読売新聞を中心とした新聞各社も、この機を逃さず、軽減税率の導入と適用範囲の拡大に向けて連携して世論を動かし、財務省に対する圧力を一層強めてくることが予想されます。

 軽減税率の導入については、制度の一定の複雑化が排除できないだけに、メリットとコストの十分な比較が欠かせません。そして麻生大臣の言うように、世論が後押しするこの「面倒くさい」制度の導入を、いずれにしても何らかの「手口」で整理(料理)していくことが政府には求められています。

 大手メディアを敵に回し、国民の「納得感」をどれだけ得ることができるのか。この先の議論の中で日本の政治と行政の手腕が試されることになると、私も改めて感じたところです。



♯404 消費税の逆進性を考える

2015年09月07日 | ニュース


 9月6日の読売新聞は、財務省が再来年(2017年)の4月に予定されている消費税の10%への引き上げ当たり、生活必需品などの税率を抑える軽減税率制度の導入を見送る方針を示したことを一面トップで取り上げています。

 日本時間の5日未明、麻生副総理兼財務大臣は外遊先のトルコで会見し、「複数税率(軽減税率)を入れることは面倒くさい」(←これは如何にも麻生大臣らし言いっぷりですが)と話し、必需品などに対する増税分に見合う金額を後から給付する形の政府案をまとめる意向を示したということです。

 記事はこうした財務省の方針転換を、自民・公明の与党合意をないがしろするものだとして強く批判しています。新聞購読料に対する消費税の軽減を強く政府に求めてきた大手新聞各社(特に読売新聞社)にとってはまさに「寝耳に水」の話であり、これから先、社を上げて厳しく紙面で追及していくことが予想されます。

 消費税への軽減税率の導入の是非に関しては、政治の世界や識者の間でも大きく意見が割れているところです。また、先行するEU(欧州連合)諸国においても様々な議論があり、導入状況は概ね50%(つまり半々)となっています。

 軽減税率制度導入の論点としては、一定の生活必需品への税率軽減による減収はもとより、例えば、軽減税率の適用範囲を合理的に設定することが難しく、業界を挙げての議論が極めて政治的なものとなりやすいこと。また、複数税率の併用は事業者の事務負担を大幅に増加させることとなり、事務コストの価格への上乗せなどを考慮する必要があることなどが挙げられます。

 さらに加工食品などについては、食材は税率が軽減される一方でその他の部分は標準税率となるなど複雑になり、多くの軽減商品で実売価格への影響が限定的であることなども、そのデメリットとしてしばしば指摘されているところです。

 さて、そもそも、軽減税率の導入が政治的に主張される主な理由に、消費税の持つ「逆進性」の存在が挙げられます。

 所得に対する消費の比率である「平均消費性向」は、(一般的に)所得が低いほど高く、所得が高くなるに従って小さくなっていくという特徴があるとされています。

 低所得者であっても生きていくためには消費をせざるを得ず、所得の大半を占める消費額に対し一定の税率で課税されることになる。一方、高所得者はその所得の一部である消費額にしか課税されず、多額の貯蓄には課税されなくてすむ。このため消費税は逆進的で(低所得者から見て)不公平だという指摘が生まれることになります。

 しかし、社会の現状を踏まえよく考えてみると、現時点では多くの所得を稼いでいる人と、多くの消費ができる人とは必ずしも一致しないことが判ります。また、多額の貯蓄がある人であっても、多額の現金収入があったり多額の消費をしているとは限りません。

 これまでの日本のように平等性が高く高齢者が少ない社会では、その時々の所得水準で逆進性を定義してもそれほど大きな矛盾は生まれなかったかもしれません。しかし、超少子高齢化社会を迎えた現在、例え現在の所得が少なかったとしても資産や貯蓄の水準が高く、従って高いレベルの消費をしている高齢者と、一定の所得があっても老後の生活に向けせっせと貯蓄をしている勤労層の所得に対する消費税負担率を比較し本当の逆進性を計測することなど、なかなか難しいことのように思えてきます。

 少し前の記事になりますが、こうした疑問に対し法政大学教授の小黒一正(おぐろ・いちまさ)氏が、総合経済サイトの「日経ビジネス」に、「消費税に逆進性は存在しない」(2012.6.7)とする論評を掲載しています。

 細かな計算式は割愛しますが、小黒氏はこの論評において、消費税の性格づけに関する議論に混乱を招いているのは、消費税の税負担を「生涯税負担率」ではなく、ある一時点の年収と消費税負担率を見ているからだとしています。

 例えばプロ野球選手のAは20歳代で生涯賃金20億円を稼ぎ、それ以降は毎年10万円の年収があるとする。一方Bは20歳から80歳まで毎年200万円の年収を地道に稼いできた職人だとします。

 年収10万円の野球選手Aの引退後のある一時点における消費税負担率は、恐らく職人Bよりもはるかに重い負担率となるでしょう。しかしだからといって、この時政府がAに対して何らかの「逆進性」対策を講じることは、果たして「公平」な政策と言えるのか…そう小黒氏は疑問を投げかけています。

 一時点における年収ではなく生涯賃金(収入)ベースで増税負担を見れば、逆進性と考えられてきたものは(概ね)消えてしまうというのが、この問題に対する小黒氏のひとつの結論です。

 各個人が生涯に消費する金額は、基本的に生涯賃金に一致する傾向があるとこの論評で氏は指摘しています。生涯賃金が20億円のAさんと生涯賃金が1億2千万円のBさんが両者とも遺産を残さずに寿命を終えるとすれば、その生涯ベースの消費は(消費の内容は違っていたとしても)それぞれ20億円と1.2億円になるはず。

 その際、生涯で直面する消費税率が仮に10%とすると、AさんとBさんが負担する生涯ベースの消費税負担は1億円(=10億円×10%)と0.12億円(=1.2億円×10%)であり、消費税負担額が生涯賃金に占める割合はどちらも10%。すなわち、一時点の年収でなく生涯賃金ベースで見れば、所得の低い人ほど税の負担率が高くなるという消費税の逆進性は解消されるということです。

 さて、実際のところ、小黒氏が仮定するように、生涯賃金の高い人が遺産も残さず全ての収入を実際に消費しきるかどうかについては議論のあるところでしょう。また、親の世代から引き継いだ遺産の存在や、他の税目、特に相続税、所得税の累進性との関係などもあって、消費税の逆進性を一概に否定するのもまた早計かもしれません。

 しかし、多くの人が賃金で暮らすこれまでの日本のような若く均一性の強い社会から、人口の半分近くが資産や年金で暮らす格差の大きな社会へと日本の社会の形が変わりつつあることを考えれば、現時点の所得と消費性向のみの関係から単純に消費税の逆進性を問うたり、軽減税率を主張したりすることにもまた(それなりの)疑問がわいてきます。

 軽減税率(導入)の議論に当たっては、「消費税」という(ある意味)鬱陶しい存在に対してあまり感情的にならず、コストや効果を細かく分析し公平感を丁寧に醸成していく冷静さが必要であることを、小黒氏の指摘から私も改めて認識させられた次第です。



♯117 認知症と行方不明者 

2014年01月29日 | ニュース

Imagesca54jbr5
 認知症またはその疑いがあって行方不明になり、その後死亡が確認された人が2012年の1年間だけでも359人に上り、また同年末までに行方が見つからなかった人も219人に達すると、1月29日の毎日新聞が報じています。

 両者を合計すると517人。実はこの数字、毎日新聞社が全国の警察本部などに取材して取りまとめたもので、行方不明者として家族などから警察に正式に捜索願が出された人のみを集計したものです。従って、捜索願が出されていない方々を含めると、認知症が原因と考えられる行方不明者はこの数を大きく上回る可能性が強いことから、毎日新聞では「認知症患者を巡る深刻な実態が判明した」としています。

 2012年中に死亡(の形で行方)が確認された359人(届け出が同年より前の人を含む)の認知症の方々は、実際、山林や河川、用水路のほか、空き家の庭や道路上などで(遺体として)発見されたということです。また、未発見者219人のその後については、各警察本部は「統計上は未把握」などとしているということでした。

 警察庁が公表している認知症の人が当事者となった2012年の行方不明者数は9607人ということなので、そのうちの約9000人は保護されたうえ何とか身元が判明したと考えられます。しかし、全体の約6パーセントの方々については、残念ながらお亡くなりになっていたか、若しくはいまだ行方不明の状態が続いているということになります。

 報道によれば、正式な届け出が出される前に保護されたり死亡が確認されたりする場合も多いため、実際の行方不明者数や死亡者数はこれよりも大幅に膨らむ可能性があるということであり、この問題の実態はこうした数字だけではなかなかわかり難い状況にあるようです。

 記事からは、さらにこの問題の深刻さがうかがえます。

 行方不明者として警察に捜索願が出された9607人の認知症の方々を見ると、最も多いは大阪府の2076人、次いで兵庫県の1146人。この両府県だけで全体の3分の一を占めることになりますが、これはあまりにも不自然な数字です。実は、両警察本部では、事件性の判断や捜索に生かすため、行方不明者の家族らに対し正式な届け出をするよう促した結果、届出数が他都道府県に比べて大きく膨らんだことが分かっています。

 参考までに、首都圏の3県(神奈川、千葉、埼玉)では、書類提出に時間や手間がかかる行方不明者届の前段階として「一時的所在不明者」という制度で受理し、いち早く捜索に着手しているそうですが、2011年の神奈川でみると、その(一時不明者の)数は、認知症の人だけで1947人となり、同年の認知症の行方不明者届248人の8倍近くに上っているということです。

 このように、行方がわからなくなっている認知症の人の数は、現状、正確にとりまとめられている状況にはないと記事は指摘しています。行方不明者届を巡る警察本部の対応の違いなどにより現行の集計に含まれないものもかなりの数に上ると考えられ、例えば他の都道府県においても人口比に応じ大阪府などと同程度の不明者の存在を見込むとすれば、その実数は数万人にも及ぶことが予想されます。

 同記事によれば、近年の行方不明者届(認知症以外の方も含む)は70歳未満の各年代がいずれも減少かほぼ横ばいで推移しているのに対し、70歳以上については急増しているとのことです。2012年で見ると、正式に届けが出された行方不明者8万1111人のうち、70歳以上の方は1万4228人を占め、5年前(3521人)の33%増となっており、特に認知症の人の増加の影響が大きいとしています。

 世界的にも最も管理された国と言われ、生活環境の安全性には定評がある日本ですが、その実、年間に何万人という認知症の方々の行方が分からなくなり、そのうちの数パーセントが亡くなっていたり姿を消してしまったりしているという事実は、やはり「意外」というか、驚きをもって受け止められているようです。

 高齢者の孤独死が社会問題化して久しいですが、「そう言えばあの家のおじいちゃん、最近見かけないね」とか、「隣の部屋の一人暮らしのおばあちゃん、姿を見ないけど施設にでも入ったのかしら」とか、気にはなっても警察に届けたり市役所に連絡したりというところとまではなかなかいかないものです。地域の中から(ひとりの)人がいなくなることに鈍感な社会が訪れているということでしょうか。

 たとえお節介と言われようとも、たとえ多少コストがかかっても、人一人がいなくなったら「徹底して探す」という姿勢が、社会の安心・安全を確保し人心を安定させるための基本中の基本であることは言うまでもありません。

 街に暮らす住民の半分が高齢者で、その4分の一が認知症といった時代がもうそこまで来ています。高齢者の孤立化がさらに進むことが予想される現在、地域で暮らす(認知症の方々を含めた)生活弱者のリスクを減らし安全を確保するため、基本立ち返った地道な取り組みが強く求められています。


♯53 「ラブ&ジーンズ」 カローラの戦略

2013年09月04日 | ニュース

Dscf0655
 トヨタ自動車は8月30日付の新聞主要各紙の紙面に、ジーンズ姿の木村拓哉(SMAP)をイメージキャラクターに起用したカローラハイブリッド(HB)の全紙大2面にわたる広告を打ち、世間を驚かせました。

 また、タイミングを同じくして、同じく木村拓哉をブルージーンズの似合う若くてスタイリッシュな「市長」に模した一連のテレビコマーシャル「ラブ&ジーンズ」編の放映も各局で始まりました。ハイブリッドシステム搭載車の登場に合わせ、トヨタの小型車の中ではこれまで割と地味な立ち位置にあったカローラのイメージチェンジに向け、グローバル企業トヨタによる本気のキャンペーンが展開される模様です。

 もともとトヨタは9代目のE120系の頃から、カローラ(特にワゴンタイプの「フィールダー」)のイメージキャラクターとして木村拓哉を採用してきました。フィールダーの顧客層を「おじさん未満」と位置づけそこを狙った起用と考えられていましたが、その後木村のスピード違反&免停問題などもあり、2012年からは若手俳優の小栗旬が用いられてきたという経緯があります。

 さて、2009年に就任した豊田章男社長のもと、リーマンショックやアメリカにおけるリコール問題、東日本大震災や中国における日本車ボイコットなど、ありとあらゆる(と言っていいような)逆風を乗り越えてきたトヨタ自動車。北野武を起用した「ピンクのクラウン」キャンペーンに代表される昨今のイメージ戦略などにより、いよいよ反撃開始という強い印象を顧客に与えることに成功しているようです。

 もとより、今世紀に入り、トヨタのハイブリッドシステム技術は時代を席巻しています。1997年に「21世紀に間に合いました」のキャッチフレーズとともに販売が開始されたハイブリッド専用車「プリウス」は、現在では世界の97カ国で販売されている押しも押されぬトヨタの世界戦略車です。

 2013
年6月末までの累計販売台数は300万台を突破し、国内販売においても車種別販売台数で軽自動車と常に首位を争っている状況です。 2013年上半期の新車販売台数を見ると、首位は「プリウス」の132,472台(前年比72.9%)、2位が同じくトヨタのミニプリウスと言われる「アクア」の132,336(前年比103.2)と、トヨタのハイブリッド専用車が肩を並べています。

 そんな中、カローラは同じトヨタの上級車「クラウン」(6位48,458台)、下位に位置づけられる「ヴィッツ」(7位45,996台)にも及ばず、8位の40,244台(前年比107.7%)に甘んじている状況でありました。「もう一度カローラを車種別販売実績のナンバーワンに返り咲かせたい…」ネット上のコメントからは、担当者のプライドをかけたそんな意気込みも聞こえてきます。

 そんな中、8月6日、カローラに待望のハイブリッドシステム搭載車がラインナップされることとなりました。トヨタでは、現行の11代目カローラについては当初からハイブリッドシステムの搭載を前提に開発が進められたということであり、新型発売後1年を経て満を持してのハイブリッド化ということができます。

 それでは、世界のトヨタがこの「カローラハイブリッド」に期待しているのは、一体どのようなものなのでしょうか。

 カローラは、何と言ってもクラウンと並ぶトヨタの主力車種であり、トヨタの顔(「日本車の顔」)と言っても過言ではありません。初代のE10系が発売された1969年から既に40年以上生産され続け、1969年から2001年までの33年間は国内販売台数連続第1位、累計生産台数3000万台を超える世界有数のブランドです。

 東南アジアや南米さらにはアフリカなどに行くと、過酷な使用条件(気象条件や道路の状況ばかりでなく、部品の調達や燃料の品質に至るまで)の中でカローラがどれだけ信頼され、酷使されているかが本当によく分かります。その点、プリウスやアクアがハイブリッド専用車としてどれほど好調な販売実績を積み重ねているとしても、かの車達があくまでハイブリッド・エコカーという「特別な車」としてのカテゴリーにあることに変わりはありません。

 今回のカローラハイブリッドの登場は、ようやく「普通の車」にハイブリッドシステムが搭載されたという記念すべき出来事であり、それと意識せずに何気に(気取らず、ジーンズのように)ハイブリッド車を使う時代がやってきたことを意味しています。

 SMAPの木村君もかれこれ40歳をすぎ、光り輝く若者のアイドルから、ひとりの大人の男性として落ち着いた魅力を放つようになっています。そしてそれに合わせたような木村拓哉市長のジーンズ姿は、トヨタの狙い通り、これまでとは違う落ち着いたハイブリッド世代の到来を軽やかに告げていると言っていいのではないでしょうか。

 CMに登場するカローラHBは薄いブルーメタリックであり、シルバーであり、まさに身体になじんだジーンズの趣です。もともとカローラは気取って乗る車ではなく、手足のように「使う」、働く車として定評がありました。若者の自動車離れが言われて久しい昨今ではありますが、「この車なんて車?」なんて聞かれることもなく、答える必要もないカローラの持つこうした風合いが、これからの時代のドライバーの共感を得ことができるのではないかと密かに期待しています。

 新しいカローラハイブリッドは約200万円。願わくは、これからの大衆車としてさらに価格を下げたシンプルなヴァージョンを追加してもらいたいものだと思います。カローラにはいわゆる「大衆車」として、生成のトートバッグのように気を遣わず使い倒せる道具であってほしいと思うのです。

 さらに欲を言えば、このカローラHBのコンポーネントをベースに、ミニのピックアップやカントリーマンのような気さくな改造を施した車種を追加したり、フォルクスワーゲンType2、Type3(いわゆるワーゲンバス)のようなシンプルな派生車種を産んだり、カルマン・ギヤのような外部デザイナーの自由な発想を取り入れたりと、遊び心あるいろいろな試みをしてもらいたいものだと思います。

 車好きを自称する者の一人としては、世界のトヨタの技術者がプライドをかけた大衆車であればこそ大量生産によるコストダウンを実現し、車の魅力というものをもう一度世界の若者に向け日本から発信してほしいと思います。