政府の経済対策として、12月17日の参院本会議で2024年度補正予算が、自民、公明両党や国民民主党、日本維新の会などの賛成多数により可決、成立しました。一般会計補正予算の歳出総額は実に13兆9433億円に上る由。財源の約半分に当たる6兆6900億円は、新規に国債を発行して賄うとされています。
財源不足が叫ばれる中、財政の在り方を巡っては、国債の発行を極力抑え「身の丈に合った支出」(→税収の範囲内での政府支出)とすべきとする財政均衡主義に基づく指摘がある一方で、(昨今では)政府は一時的な財政収支の悪化にとらわれることなく、必要な財政出動を行うべきとするMMT(現代貨幣理論)の台頭なども注目されるところ。
中には、「失われた30年の真犯人」として(国民を脅し、常に財政出動に「待った」をかけ続けてきた)財務省の名を挙げ、国民生活を犠牲にして財政均衡主義という「邪教」を布教する「ザイム真理教」だと揶揄する声も聞かれるところです。
実際、国民には「財政破綻」をチラつかせ増税や福祉の切り捨てなどを迫っておきながら、政治に対しては十兆円を超える「経済対策」を認める彼らの姿に、「オオカミ少年」の面影を重ねる国民も多いはず。財務省の言う「お金がない」は、本当に本当なのか?…国民としては、誰を信じてよいのやらわからないというのが本音のところかもしれません。
補正予算成立の報にそのようなことを感じていた折、12月17日の日本経済新聞の経済コラム「大機小機」に、『税収見積もりの玉手箱』と題する一文が掲載されていたので、(参考までに)その指摘の一部を小欄に残しておきたいと思います。
今からちょうど1年前、岸田文雄前政権の打ち出した所得税の「定額減税」が税収減を招くと騒ぎになっていたのを覚えている人も多いはず。そして今年は、国民民主党の唱える「年収103万円の壁」引き上げで、税収に穴が開くと大騒ぎだとコラムは綴られています。
政府の所得税収は、2024年度は当初予算で17兆9050億円の見通しだった。補正予算後の23年度の見込みに比べ、定額減税の影響で3兆3900億円減るとみられていたと筆者は話しています。(財務省は)24年度の税収全体では、総額で69兆6080億円を予想していた。これは23年度の補正後の見込みとほぼ横ばい。所得税の落ち込みについては、法人税や消費税で補う予定だったということです。
当時は、財政当局の厳しいやり繰り算段に同情の声も漏れていた。しかし、それから1年。私たちは不思議な発表を目にしたと筆者は指摘しています。それは、今回(24年度)の補正予算の財源内訳の説明に当たってのこと。税収の上振れ分である3兆8270億円を、財源の一部に充てるという財務省の説明に驚いた人も多かっただろうということです。
何のことはない。定額減税に伴う所得税の減収分を埋めてお釣りが出ている、税収の上振れが起きているとのこと。
具体的には、法人税や消費税が想定を上回る伸びを記録したとのことで、4~10月の税収は、法人税が前年同期比で100.3%増、つまり倍増し、消費税も10月までで16.4%増加。24年度の当初予算の段階では、23年度の補正後に比べ法人税が16.3%増、消費税は3.6%増と、何とも控えめな予想だったにもかかわらず…ということです。
財務省の説明によれば、過去最高の企業収益が、実際の法人税収を押し上げた由。しかも、モノやサービスの価格上昇で、消費税の税収も予想以上に増えたようだと筆者は理由を解説しています。
企業の売り上げや利益、働く人の給与明細、そして政府の税収はすべて名目値であり、日本経済がデフレを脱しインフレとなったおかげで税収も無理なく伸びた。24年7~9月期の名目GDP(国内総生産)は年換算額で610.2兆円。1年前に比べて17.1兆円拡大した。GDPは国全体の付加価値の合計であり、個人と企業と政府がそれらを山分けする構図だということです。
もちろん、政府はそのうちの「税収」という取り分を増やしている。企業も売り上げや利益を伸ばしている。しかし、個人はどうか。給与が増え始めたものの、給与から税や社会保険料を除いた実際の手取り(可処分所得)が伸び悩んでいると筆者はコラムの最後に指摘しています。
実際のところ、財務省の発表によれば、2024年度の国民負担率は45.1%となる見通しとのこと。12年連続で40%を大きく超える高水準となるのは確実で、江戸時代に百姓一揆の目安とされた(いわゆる)「五公五民」ももう目の前と言えるでしょう。
因みに、国民負担の内訳を見ると、租税負担率26.7%(国税16.9%、地方税9.9%)。に加え、医療費や年金などの保険料の社会保障負担率が18.4%と、税以外の部分も国民生活を圧迫している状況が見て取れます。
賃金の上昇は始まったものの、一人一人の手取りを増やすには、賃上げと並んで税や社会保障費の負担の軽減がカギを握っているということでしょうか。インフレと成長に伴う税の自然増収こそ、そのための元手となり得るとコラムを結ぶ筆者の指摘を、私も興味深く読んだところです。