昨年の8月、大阪府内の市立中学で大麻や覚醒剤が見つかった事件で逮捕された中学3年の少年2人が、「売るために持っていた」などと転売目的で入手していたことが報じられ、世間を驚かせました。
大阪府警によれば、少年2人は当時、大阪府和泉市内の別々の市立中に在籍しており、このうち1人は府内の男子高校生(17)から大麻を買い取り、SNSを通じて自分で客を見つけて転売していたとのこと。またもう1人は、同じ高校生から大麻を受け取り、高校生がSNSで見つけてきた客に売りさばいてマージンを得ていた由。大麻や違法薬物をめぐる犯罪の低年齢化は抜き差しならないところまで来ていることを実感させられるところとなりました。
特に近年では、意識不明など体調不良となる人が続出した「大麻グミ」問題や、アメリカンフットボール界の名門「日大フェニックス」の廃部など、大麻(マリファナ)の保持や使用の意問題がメディアを賑わす機会が増えています。実際、2013年に1616人だった大麻所持による検挙者数は、わずか10年後の2023年には約4倍の6482人にまで膨れ上がっているということです。
一方、海外に目を向ければ、カナダやウルグアイは大麻の嗜好が合法化されており、米国、オランダ、英国、スペイン、ドイツ、ベルギー、オーストリア、ポルトガル、フィンランド、イスラエル、韓国などでも、一部の区域で大麻吸引の非犯罪化が進んでいます。
こうして大麻を巡る環境が大きく変化する中、専門家による様々な議論を踏まえ、この日本においても「麻薬取締法」「大麻草栽培規制法」などの改正が行われ(2024年12月12日施行)新たに「使用罪」が加わるなど、その取扱いに大きな変化が生まれています。
このような法改正が、現在の大麻が抱える問題にどう機能するのか。昨年12月23日のビジネス情報サイト「現代ビジネス」に、筑波大学教授の原田隆之氏が『大麻「の使用罪」新設が、じつは「国際的な潮流」に逆行していると批判を受けているわけ』と題する論考を寄せているので、参考までに指摘の一部を残しておきたいと思います。
2022年の大麻による検挙者数は5546人に達し、覚醒剤の6289人に迫る。覚醒剤との違いは若年層の多さで、検挙における30歳以下の人数は3840人と約7割におよぶと原田氏はその冒頭で指摘しています。
氏によれば、こうした状況を踏まえ(昨年)12月、従来の「大麻取締法」が「大麻草の栽培の規制に関する法律」に改正され、併せて関連法規である「麻薬及び向精神薬取締法」等の一部が改正されたとのこと。特にポイントとなる改正点としては、大麻使用罪(新法上では「施用罪」)の新設が挙げられるということです。
これまでの大麻取締法では、覚醒剤やあへんなどの規制薬物と異なり、大麻使用については禁止規定も罰則もなかったと氏は言います。その理由の1つは、許可を受けて大麻を栽培している農家(←大麻は現在でも、神社の注連縄や相撲のまわしなどに使われているとのこと)などが意図せず大麻成分を吸引した際に、「大麻使用」として刑罰を受けることがないようにという配慮だそう。今回の改正で医療用の大麻使用が認められたこともあり、「大麻には害がない」「大麻解禁」などという誤った理解が広らないよう、その新設が行われたということです。
この10年間で、若年層を中心に急激に増加している大麻使用。一方で、覚醒剤の使用は低下を続けており、昨年初めて大麻での検挙人数が覚醒罪を上回った。こうしたことへの危惧も使用罪新設の背景にあったと考えられると氏は説明しています。
しかし、この「使用罪」については、国際的な潮流に逆行しているとの批判も根強いと氏は話しています。国連は、2016年の薬物問題特別総会において、薬物使用者の人権と尊厳を尊重することの重要性を強調し、「薬物治療プログラム、対策、政策の文脈において、すべての個人の人権と尊厳の保護と尊重を促進すること」と決議した。さらに、従来の「犯罪」としての見地から「公衆衛生」しての見地を重視し、処罰による対処からエビデンスに基づく治療、予防、ケア、回復、リハビリテーション、社会への再統合が必要であると強調しているということです。
その大元にあるのは、「処罰」は末端の薬物使用者の社会的排除、スティグマにつながり、回復や社会復帰を阻害してしまうというという考え方。科学的なエビデンスであるこうした方針に基づき、国際社会は「処罰から治療へ」という方向に大きく舵を切っていると氏は話しています。
そうした中、今回の「使用罪」新設は残念ながら、この潮流に真っ向から反対するものと考えられる。望ましい方向性は、処罰を強めて末端の薬物使用者を社会から排除するよりも、予防啓発、治療、福祉などの方策を拡充し、社会の認識の変革を推進していくことだというのが氏の指摘するところです。
我々の社会が目指す方向は、違法薬物には断固たる態度を取りながらも、その一方で末端の薬物使用者の人権を守り、社会復帰を後押しするような態度であろうと氏は話しています。模索していくべきは、刑罰に加えて厳しいバッシングや社会的排除を行うのではなく、彼らが健康的な生活を取り戻し、再び社会に包摂すべく手を伸ばすことを忘れない社会だということです。
覚醒剤のような常習性はないにせよ、大麻は「ゲートウェイ・ドラッグ(入門薬物)」と呼ばれ、大麻に手を出した若年層がやがて覚醒剤やコカインに手を延ばしていくケースなども多い由。海外では大麻が合法化されている国もあり、海外遠征の多い運動選手などにもその傾向がある中、日大のアメフト部の事件などは、ある意味使用罪創設のいい喚起になったと思うと話す原田氏の指摘を、私も興味深く読んだところです。