MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2216 電動カートの可能性

2022年07月26日 | 社会・経済

 週末や休日の外出ではあまり気が付かなかったのですが、たまに平日の昼間に街場の商店街などに出かけると、(女性を中心に)お年寄りがたいへん多いことに驚かされます。先日も出張の帰りに(新宿駅から品川まで)久しぶりに緑の「都バス」に乗ったところ、乗り降りしてくるのは高齢者パスを持ったおじいちゃんやおばあちゃんばかりでした。

 お買い物、お使いとかなのでしょうか。皆さんそれなりに荷物などを持って、片手に杖を突きながらバスのステップを上り下りしています。ノンステップ化されているとはいえ、その姿はかなり大変そう。中には、どうやってバス停まで歩いてきたのかと心配になるような人も見かけました。

 都市部を中心に独居高齢者の増加が(福祉や街づくりの)課題となって久しいものがありますが、高齢者の移動手段の確保も含めた交通政策もそのひとつ。気軽にお出かけできる環境の確保は、高齢者の健康維持にも大きく貢献すると考えられます。

 とはいえ、日々の移動手段としてタクシーを使うというのは、戦後を生きてきたお年寄りにはなかなかハードルが高いもの。運転免許の返納が進む一方で、自転車や電動キックボードにも乗れない彼ら彼女らの日常の足をどう確保するのかは、都市部・地方部を問わず今後の工夫が期待される分野であり、企業にとっては(ひとつの)ビジネスチャンスとも言えるでしょう。

 そんな折、5月13日の日本経済新聞に「低速小型電動車 『地域の足』実現へ」と題する記事が掲載されているのを見かけました。

 運転免許を返納する高齢者が増えるなか、地下鉄やバスなど公共交通網が発達した東京23区において、低速小型電動車「グリーンスローモビリティ」を導入する検討が進んでいると記事は指摘しています。

 グリーンスローモビリティとは、時速20キロメートル以下で走行する小型電動車のこと。ゴルフカートに似た4人乗りタイプから20人ほどが乗れる小型バスタイプまで、様々な大きさの車体があり、徒歩や自転車に代わる短距離輸送に適しているということです。

 現在、高齢者や周遊観光の足として地方での活用が先行するが、道幅が狭くバスが入れない住宅街などは都市部にもあると記事はしています。

 東京都の杉並区では2024年の導入に向け、この3月に住宅街の荻窪地区で住民向け試乗会を開催。区内では鉄道や路線バスに加え、区独自のコミュニティーバスも3路線運行しているものの、道幅が狭い住宅街へは路線を延ばすのが難しいため、実証実験によりルートや運行形態などを詰めるということです。

 また、葛飾区の東立石地区では町会を中心に検討が進んでおり、22年10月からの試験走行開始に向け、周辺町会とも連携しながらNTT東日本や区とルートや運行形態の調整を進めていると記事は紹介しています。

 こうして、注目を集めるグリーンスローモビリティですが、(実のところ)今年の3月末までに走行実績のあった約120自治体のうち、実証実験後も運行を続けているのは4分の1ほどにとどまっているのだそうです。

 その理由は(やはり)採算性にあるようです。2019年から池袋駅周辺で「IKEBUS」を運行する豊島区の場合、運賃収入に加え、企業から協賛金を集めているが、運行経費の7割(約1億4000万円)は区が負担している。港区は21年に浜松町・竹芝エリアや高輪・白金・白金台エリアで実証実験を実施したが、採算性に加え走行時の安全性の確保も難しいとみて事業化を見送る考えだということです。

 さて、こうしたシステムを住民福祉の一環として(公的資金により)維持していくことは勿論可能ですが、持続可能で安定したサービスを提供していくためには、(基本的には)受益者負担による一定の採算性の確保が求められるのは事実です。そのためには、ビジネスベースの視点から利用者を(地域住民に限ることなく)増やす一方で、最大限コストを抑えていくための取り組みが欠かせないということでしょう。

 利用に当たっての付加価値や魅力の拡大、DXを活用したデマンド交通などの多様な運航形態の導入、利用しやすい料金システムなど、根気強く具体的な成功例を積み重ねていくことが重要ではないかと感じるところです。

 東南アジアやインドなどに出かけた際に、しばしば利用させてもらっていた(「トゥクトゥク」や「オートリクシャー」などと呼ばれる)三輪タクシー。使い方に慣れれば、これほど便利でパーソナルな移動手段はありません。

 例えば大正時代の「人力車」のように、気軽に声をかけ「ちょっと駅(バス停)まで」「近所の病院まで」といった1km前後の身近な移動に使えないか。ルートを決めた自動運転や自走乗り捨て方式、ウーバーのようなオンデマンドによる配車など、その運用形態は様々に想定できます。

 私自身、そう遠くない将来、足腰がおぼつかない老人にもなることでしょう。それでもやはり、思いついた時には(例えひとりでも)お出かけしたいもの。そうした際の身近な移動手段として、電動カートの可能性には大いに期待しているところです。

 



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