年明けから騰勢を強め、2月22日にはバブルに市場が沸いた1989年12月末に記録した終値ベースの最高値3万8915円を34年ぶりに更新した日経平均株価。3月に入ってもその勢いは止まらず、4日には大台の4万円超えも達成した東京市場は、現在、海外投資家が最も注目する存在となっているようです。
思えばバブル経済から転げ落ち、「失われた30年」と呼ばれる長期の低迷に沈んだ日本経済。この間、例えばNYダウは約13倍に成長するなど、日本だけが(成長から)取り残されてきたのが現実です。
経済紙の(「史上最高値更新」「40000万円台」といった)浮かれた見出しに目が行きがちな昨今ですが、少し落ち着いて見れば、長年の遅れを少しずつ取り戻しているだけと言えないでもありません。
こうした現実を踏まえ、2月29日の日本経済新聞に同紙編集委員の志田富雄氏が、『「金の物差し」では株価急落 商品価格上昇と縮む日本』」と題する論考を掲載していたので、参考までに概要を残しておきたいと思います。
日経平均株価がいよいよ1989年末に記録した最高値を更新した。しかし、資産としての価値を着実に高める「金」を物差しにすると株価の見方は大きく変わってくると、志田氏はこの論考の冒頭に綴っています。
当時の国内円建て金小売価格は消費税込みで1グラム2000円弱。1万円を超す現在は5倍強に値上がりしていると氏は言います。(つまり)代表的な現物資産である金を物差しに見れば、34年余りで最高値の価値は、実に5分の1以下に減少したことになるというのが氏の指摘するところです。
株価が最高値を記録した1989年末の商品市況を振り返ると、同年の仕事納めだった12月28日、海外の金価格はニューヨーク市場の先物(期近)、ロンドン市場の現物値決めともに1トロイオンス400ドル。第2次石油危機後の80〜90年代は国際商品相場の低迷期で、金1オンスが300ドルを下回る場面もあったと志田氏は言います。
一方、今世紀に入ると(一転)長期の上昇相場に移り、現在は2000ドル前後とちょうど5倍に値上がりしたということです。氏によれば、金の国内価格は国際相場に為替相場を加味して決まるとのこと。現在は、為替相場は1ドル=142〜143円ほどだった当時よりも円安の状況にあると氏はしています。
また、国内で現物の金地金は消費税を含む価格で売買され、税率は消費税が導入された89年の3%から10%に引き上げられている。結果、小売価格の上昇倍率は89年12月28日の1グラム1936円の約5.6倍と国際相場の上昇率を上回るということです。
そうした前提で株式市場のバブル高値を当時の金価格で割ると、日経平均株価で買える金の分量は20グラムほど。一方、最高値を更新した(今年の)3月22日では金価格が大幅に上昇(1グラム1万822円)したことで、1日経平均=3.6グラムと5分の1以下にすぎないと氏は話しています。
さて、「金」は世界共通の現物資産であり、株や債券相場などとの相関性は高くないとされる。その金を物差しにすれば同じ「最高値」の重みがいかに軽くなったかが分かるというのがこの論考における氏の見解です。
実際、「現在の金価格」をベースに逆算すれば、バブル景気に押し上げられた34年前の日経平均は21万円台に相当するとのこと。
日本がデフレに苦しみ、停滞してる間に世界の姿は大きく変わった。原油は1バレル21ドル台だった米原油先物が足元の調整局面でも78ドル台に。1トン1500ドル前後だったロンドン金属取引所(LME)の銅3カ月先物も8000ドルを超す水準にあると氏はしています。
大幅に切り上がった国際商品相場は、新興国がけん引する世界経済の変化を映す。実際、34年前には800以下だったインドの主要株価指数(SENSEX)は23年12月に7万を超え、先物、オプションといった金融派生商品の売買枚数では、インド国立証券取引所(NSE)が世界を席巻していると氏は言います。
一方、金市場でも80年代〜90年代半ばは日本が世界最大級の需要国で、86年には輸入量が600トンを超えていた。しかし、今世紀に入ると日本は主要国で異例の純輸出国に転じ、世界経済のけん引役として台頭するアジア、中東などのグローバルサウス諸国に向っているということです。
急落した金建て株価は世界経済が成長し、さまざまな商品相場が上昇する中で相対的に縮んだ日本の姿と重なると、氏はこの論考の最後に綴っています。
革新的な企業が次々と育つ土壌を整え、国民の実質所得が増えて消費が拡大すること。「世界の例外」から抜け出すためには、こうした力強い成長への期待感が高まらなければならないと結ぶこの論考における志田氏の指摘を、私も重く受け止めたところです。
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