MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2757 令和ニッポンは「逆・木綿のハンカチーフ」

2025年02月28日 | 社会・経済

 昨年4月、有識者で構成される「人口戦略会議」が、2020(令和2)年~2050年までの30年間で、子どもを産む中心になる年齢層の20歳~39歳の若年女性人口の減少率が50%を超えると予想される全国744の自治体を「消滅可能性自治体」としてリストアップし話題を呼びました。

 これらの自治体では将来、出生数が急激に減少し、最終的には自治体として維持できなくなる可能性が高い由。最も多かった秋田県では96.0%の自治体が、2位の青森県では87.5%の自治体が、そして3位の山形県ですら80.0%の自治体が、この「消滅可能性自治体」に当たるとされています。

 今から約10年前に始まった「地方創生」。国は雇用の創出などとともに、基本目標として結婚・出産・育児の「希望をかなえる」ことを掲げ、地方からの人口の流出と東京一極集中の是正を目指しましたが、(巨額の税金を投入したにもかかわらず)大きな流れを変えるには至っていないようです。

 婚活イベントを企画しても参加希望者は男性ばかり…昨年6月17日にNHK総合テレビで放送された「クローズアップ現在」(『女性たちが去っていく 地方創生10年・政策と現実のギャップ』)は、若年女性の流出が加速し深刻な状況となっている地方の実態を伝えています。

 この10年、地方から東京圏への20代から30代の人口流出は、(男性でも一貫して続いているものの)、女性が男性を常に上回っているとのこと。都道府県別で見ると全国33の道府県で女性が男性より多く流出しており、中には、男性の2倍の女性が去っている地域もあるということです。

 一方、番組で地方を出た女性たちの声を聞くと、「魅力的な仕事がない」「結婚・出産に干渉されたくない」といった理由が寄せられ、出生率や人口を目標とする(政府や自治体の)姿勢や政策が、そもそも現実とかみ合っていない可能性もあると指摘されているところです。

 地方部の故郷を去り首都圏を中心とした都市部へと出ていく若い女性たち。彼女らに「見限られる」故郷には一体何が足りないのか。1月20日の日本経済新聞に、編集委員の大林尚(おおばやし・つかさ)氏が『今は昔、木綿のハンカチーフ』と題する論考記事を掲載していたので、指摘の一部を小欄に残しておきたいと思います。

 太田裕美さんの「木綿のハンカチーフ」は、都会へ出て行った恋人に想いを寄せ続けた女心を歌う1970年代後半のヒット歌謡曲。恋人は故郷の彼女を垢抜けさせようと都会で流行りの指輪を送り、純朴でいてほしいと繰り返す彼女の願いを聞き入れない。やがて彼は「故郷には帰れない」という返信を出すのだが、彼女の最後のわがままは「涙拭く木綿のハンカチーフ下さい」だった…というストーリーだということです。

 実際、歌詞を裏づけるように、80年代から90年代初めにかけての東京圏への転入超過数は男性のほうが多かったと大林氏は話しています。その後は男女ほぼ同数が続き、2010年ごろを境に(逆に)女性が男性を上回るようになった。そしてその傾向は、コロナ禍を経てより鮮明になっているということです。

 氏によれば、その結果起こっているのが「逆・木綿のハンカチーフ」とも呼ぶべき現象とのこと。こうした状況を、特に地方圏での未婚男性の過多、つまり「男余り」として顕現していると氏はこの論考に綴っています。

 実際、2020年国勢調査をもとにした内閣府の分析によると、20~34歳未婚者の男女比は福島、茨城、富山、栃木、福井、静岡、山形7県で30%以上の男余りになっている。20~30%は秋田、青森、群馬など16県。日本地図に落とし込むと、東高西低が読み取れると氏は指摘しています。最高は、東日本大震災による大津波と原発事故のダメージを受けた福島県で、このぶんだと能登地震被害の復興が思うに任せぬ石川県も急伸する可能性が高いということです。

 出生時の男女比は男が5%多く、若い世代で男が(いくぶん)余るのは自然の摂理だが、極端な不均衡は日本の未来に重大な支障をもたらすというのが氏の懸念するところ。全国の生涯未婚率(50歳時未婚率)は20年国勢調査によると男28%・女18%で、男余りが著しい県では男性の未婚率がより高くなりがちだということです。

 さて、人口流出が進む地方の実情を踏まえ、石破政権が打ち出したのが「地方創生2.0」。そしてその延長上にあるのが「若者と女性に選ばれる地方」をめざす令和の列島改造だと大林氏は説明しています。

 首相は、地方創生2.0の目玉に交付金倍増を据えた由。しかし予算を少々ばらまいたところで若者と女性の東京集中は(そう簡単には)止められないだろうと氏は話しています。

 必要なのはお金ではなく、地方の魅力づくりを実現させるための知恵。コンサルに任せるだけではどうにもならない。実際にその地に暮らす人々の意識改革にまで踏み込まなければ、本当の意味での地域の再生は難しいものだとも感じます。

 若い人が都会へ出ていくことを止めるのは難しいとしても、UターンやIターン者を呼び込むことはできるはず。これまで足りなかったのは独創力であって、私たちの税負担がただ染み込んでいくだけの地方創生はごめんだと話す大林氏の指摘を、私も興味深く読んだところです。



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