第7回女性史学賞の授賞式に京都へ出かけた。
若い研究仲間の姚毅さんの『近代中国の出産と国家・社会―医師・助産士・接生婆』が、内田雅克さんの『大日本帝国の「少年」と「男性性」-少年少女雑誌に見る「ウィークネス・フォビア」』とともに受賞したので、彼女の研究を紹介したのだ。
この賞は日本中世史の大家である脇田晴子先生が中心になって、後進の女性史・ジェンダー史研究者を励まし女性史研究を発展させることを願って創られたもので、今年で7回目になる。
姚毅さんの研究は、中国の出産の近代化に関するもので、以前は村の産婆に家で取り上げてもらっていた中国の出産が、国家の認定を受けた訓練産婆である接生婆や産科医・助産士の介助によって病院で行われるようになった、近代中国の出産の近代化の過程とその特徴、中国の産科医療システムの形成過程、そこでの産婦や産婆をはじめとする人々の反応などを、技術・ジェンダー・国家の視点で分析したものだ。中国でも近代になって出産の医療化・施設化・国家化が進展したが、もともと非常に発達した産科学を含む中国医学が根づいた社会で、現在でも産科医師には女性が多いなど、中国の出産の近代化は、日本や西欧とは異なった特徴をもっている。膨大な一次資料を駆使し、最新の理論を参照した研究は、中国の出産の近代化の特徴を理論的に分析するとともに、変化の過程での多くのエピソードや草の根の人々の声なき声が拾い上げられており、当時の人々の息遣いが聞こえてくる。また、現在の産科医療の光と影を照射するものにもなっている。
姚毅さんは中国は湖南省の農村の出身で、日本に留学してきてもう20年になる。この間、慣れない外国で、結婚して二人の子供を育てながら、研究を続けてきた。彼女の育った中国農村の暮らしと日本での研究生活とは大きなギャップがあり、大変苦労が大きかったと思うが、そのギャップの中で得た視点を研究に生かして、形にされた努力に敬服する。
早くから彼女の研究に注目し、その水準の高さと研究の意義を確信してきた者として、今回の受賞は大変うれしい。
また、もう一人の受賞者の内田さんも、高校教員をしながら遅くに大学院に入って研究を始めた人だ。小さいときから「男らしくない」と言われて社会の要求する男性性に適合しないことに辛い思いをされていたという。戦前の雑誌から日本の少年たちに「弱さへの嫌悪」が要求されていたことを明らかにした研究には、そのような経験から得た視点が生かされている。
今回の受賞作は、一つはアジア地域に関するもの、一つは男性性に関するもの(「女性史学賞」は広くジェンダーの視点に立った研究を対象とする)だったことも印象的だ。このようにジェンダー研究がますます広がりをもって進展することを期待したい。