強い父系制だとされる中国の家族への、母系の影響力は時代によって如何に変わったのかを議論しようと、第二回中国前近代ジェンダー史ワークショップを開催した。(東洋文庫現代中国研究資料室ジェンダー資料研究班等主催)
第一報告は、下倉渉先生(東北学院大学)の「父系化する社会」。前漢には異父同母兄弟姉妹を同父のそれと同じように扱っている例があるなど、母系のつながりも含めて同族だと意識されていたが、六朝期には父系の同宗観念が以前より強くなっていた、という。家族を、面識のある「記憶」上の血縁者を主とする外姻と、「記録」上の血縁者も含めた同宗(父系宗族)とに区別して捉えるなど、斬新な研究は、中国の父系家族(観念)の形成についての新境地を拓くものと思われた。
第二報告は、荒川正晴先生(大阪大学)による「敦煌文書に見る妻の離婚、娘の財産相続」の史料紹介。敦煌出土の漢文史料には、夫妻が平等の立場で離婚することを示す「夫婦相別書」や、娘に息子と同様に財産分与させる書式などがあるという。いずれも従来の中国家族史の「常識」ではない。「常識」的な中国家族像(離婚は夫が妻に言い渡すもの、財産は息子のみが相続)は、どの時代と地域の「常識」なのかを、問い直す必要がありそうだ。
第三報告は、倉橋圭子先生(立教大学研究員)の「明清期の「科挙家族」と姻戚」。熾烈な科挙受験の競争の中で多くの合格者を排出する家族には、やはり科挙合格者を排出している姻戚がいることが多く、女性による生家から婚家への文化資本の伝播が科挙の合格のための大きな資源となっている。がっちりと父系の宗族組織が形成された社会で、母系ネットワークの果たす機能を考察する。
中国の家族については、儒教の影響の下で非常に発達した父系観念と制度が如何なるものか、詳細な研究は多い。しかしそれを万古不変のものと見ずに歴史的な形成・発展・変容を捉えようとする研究は、じつはそんなに進んではいない。それには史料の限界もあるが、研究者の視点の制約も大きかったのではないか。このワークショップは、そのような限界を突破して、中国ジェンダー史の新しい地点を拓くことはまだまだ可能だと感じさせる非常にエキサイティングなものだった。日本史、朝鮮史やアフリカ史の専門家の参加もあって、他分野からの「素朴」な質問は、中国の家族について改めてわかっていたつもりのことを様々な角度から分析的な言葉で説明する機会を与えてくれた。
第一回のワークショップの報告者が三人ともまた参加してくれたのも嬉しく、ワクワクする議論をこれからも盛り上げてゆきたい。早速第三回の企画にかかろう。
第一報告は、下倉渉先生(東北学院大学)の「父系化する社会」。前漢には異父同母兄弟姉妹を同父のそれと同じように扱っている例があるなど、母系のつながりも含めて同族だと意識されていたが、六朝期には父系の同宗観念が以前より強くなっていた、という。家族を、面識のある「記憶」上の血縁者を主とする外姻と、「記録」上の血縁者も含めた同宗(父系宗族)とに区別して捉えるなど、斬新な研究は、中国の父系家族(観念)の形成についての新境地を拓くものと思われた。
第二報告は、荒川正晴先生(大阪大学)による「敦煌文書に見る妻の離婚、娘の財産相続」の史料紹介。敦煌出土の漢文史料には、夫妻が平等の立場で離婚することを示す「夫婦相別書」や、娘に息子と同様に財産分与させる書式などがあるという。いずれも従来の中国家族史の「常識」ではない。「常識」的な中国家族像(離婚は夫が妻に言い渡すもの、財産は息子のみが相続)は、どの時代と地域の「常識」なのかを、問い直す必要がありそうだ。
第三報告は、倉橋圭子先生(立教大学研究員)の「明清期の「科挙家族」と姻戚」。熾烈な科挙受験の競争の中で多くの合格者を排出する家族には、やはり科挙合格者を排出している姻戚がいることが多く、女性による生家から婚家への文化資本の伝播が科挙の合格のための大きな資源となっている。がっちりと父系の宗族組織が形成された社会で、母系ネットワークの果たす機能を考察する。
中国の家族については、儒教の影響の下で非常に発達した父系観念と制度が如何なるものか、詳細な研究は多い。しかしそれを万古不変のものと見ずに歴史的な形成・発展・変容を捉えようとする研究は、じつはそんなに進んではいない。それには史料の限界もあるが、研究者の視点の制約も大きかったのではないか。このワークショップは、そのような限界を突破して、中国ジェンダー史の新しい地点を拓くことはまだまだ可能だと感じさせる非常にエキサイティングなものだった。日本史、朝鮮史やアフリカ史の専門家の参加もあって、他分野からの「素朴」な質問は、中国の家族について改めてわかっていたつもりのことを様々な角度から分析的な言葉で説明する機会を与えてくれた。
第一回のワークショップの報告者が三人ともまた参加してくれたのも嬉しく、ワクワクする議論をこれからも盛り上げてゆきたい。早速第三回の企画にかかろう。