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(震災の被災地訪問記の続きです。上の写真は女川町中心部)
宮城県は牡鹿半島の前網浜を後にして、女川町の中心部に向かう。途中の小さな浜では、そうと思って見れば家の基盤が残っているものの、草が茂って自然に帰りかけている様子の所もあった。
女川町は、震災の被害が最も過酷だったところのひとつで、家屋の流出は7~8割に及び、震災前の人口1万1000人ほどのうち約千人が亡くなり、その後よそへ移った人もあって、現在の人口は5,6千人になっている。
街の中心部は太平洋側の牡鹿半島の付け根の扇状地にあるが、一面波にのまれて何もなくなっていた。右側の海岸段丘の上にある病院の一階まで水が来たが、小高い丘の上でちょっと信じ難い高さだ。私たちは病院の丘から市街を眺めたが、更地になった中に、三階建てのビルが横倒しになったままで残っている。いったいどのような力が加わったらこのようなことが起きるのか、専門家も首をひねったという。山側を見ると、遙かに向こうの上の方にいくらかの家が残っていて、どこまで水が来たかわかる。
震災後、地盤沈下も起こっており、町の再建のためには、まず中心部をかさ上げしてから建物を建てるというが、ここまでかさ上げするという印は身長よりずっと上の三メートルほどの所に見えた。谷の奥の山を削ってダンプが盛り土を運んでいたが、復興の大変さが実感された。
その後、この日同行した若い友人のCさんが働く女川向学館を訪れる。移転した女川第一小学校の場所を借りて、放課後の子供たちの学習スクールを開設しているNPOだ。子供たちの多くは、家を流され親しい人を失って気持ちも安定せず、仮設住まいで落ち着いて勉強する場所もなかった。彼ら彼女らが、放課後、適度な距離の大人の見守りの中で勉強できる場所を作ろうと作られた場所で、多くの企業からの協賛金やボランティアの協力を得て、地元の失業した塾教師などの雇用の場にもなるようにと運営されている。昨年の春、大学院を修了してここのボランティアに入ったCさんとは一年ぶりの再会で、当時はボランティアだった彼女は、その後向学館の職員となって、子供たちと過ごす毎日だ。
前網浜を出る前、漁師の奥さんの一人がCさんと立ち話を始め、話し込んでしまっていた。聞けば、小学校入学直前だった彼女のお孫さんは石巻の大街道で震災に遭い、津波で流されて孤立し、お友達には助からなかった子もいた。まだ小さいのにそのような経験をしたので、入学後も不安定で、当初はお母さんと一緒でなければ登校できなかった(たぶん仮設から仮校舎への、津波の痕をとどめる通学路だったろう)。しかし松山大学(と言われたと記憶する)の学生たちが継続してボランティアで面倒を見に来てくれて、いろいろ遊んだり話したりする中で落ち着いてきて、今では一人で学校へ通えるようになった、という。Cさんが京都から女川まで来て子供の世話をしている、と聞いた奥さんは、いろいろな想いの一端が溢れ出したようだ。
私にとっては被災地を訪れたのは、昨年の5月の連休以来だった。予想はしていたが、復興への歩みはまだまだ時間がかかることを目の当たりにし、現地のいろいろな方と話して、震災前とはすっかり変わった毎日を、ともかく前を向いて暮らしておられることを実感した。オリンピック開催が決まって、ただでさえ復興に必要な人員もコンクリートも不足している中で、東北の復興が後回しになるのではないかという懸念を聞いていたが、現場を見るとその情況がいくらかは理解できる。東京で暮らしていると、放射能問題はともかく、津波の被災地がまだまだ復興途上にあることを意識させられることは少ないのが実情だが、被災地で笑顔で語りながら日々の生活を闘っている方たちへの共感と敬意を持ち続けたい。
写真下:段丘の上の病院の一階まで水が来た。写真中央の電信柱の奥の赤い印まで盛り土をする予定。
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病院の丘から山側を望む。遠くに無事だった家と、山を削って土を運んでいる様子↓
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女川向学館にて↓
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復興市場。目下、女川町最大の商店街↓
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