夕方、大分空港の手荷物検査所の列に並んでいた。
ゲートが1つだけなので列はなかなか進まない。
私の前にいる女性を見送りに来ていたのだろう。
もうオジーサンに差しかかった年配の父親らしき人が
ロープの外からしきりに彼女に話しかけている。
列が進まないことに気を取られていたから
話しの内容は聞いていなかったが、
「しっかりやるんだぞ!」と言いながら
握手をしようと手を伸ばしたのが見えた。。
しかし私の前の彼女は列の先の方に視線をやっていて、
そのことに気づかなかったようだ。
行き場がなくなった手を引っ込めたオトーサンは、
照れて顔を赤くしながら
「お前の乗る飛行機はさっきの名古屋行きより大きいのか?」
などとまた話しかけている。
列がゲートの奥に進み始めた時、
思わず前の女性に声をかけていた。
お父さんが差し伸べていた手に気がつかなかったのなら
教えてあげなきゃ、と思ったから…。
彼女は気づいていた、と言った。
見ないふりをして拒否したのだ。
「そうだったの、ゴメンナサイネ。」
「いいえ…」
彼女の横顔を見ながら、これは私だ!と思った。
10代の頃から、ついこの間まで、父を嫌っていた私だ。
彼女と見送りに来ていた父親の間に何があったか知らない。
多分、悪いのは父親だろうと勝手に私は決めつける。
でも、手を差し伸べた時のお父さんが
ブキッチョで一生懸命だったのを私は見てしまった。
とても握手に慣れている人には見えなかった。
いろいろあるもんな…仕方ないな…
胸の中で呟きながら私は悲しかった。