Everybody Likes Hampton Hawes, Vol.3 The Trio (Contemporary)・HAMPTON HAWES
「ねえみんな、ジャケット・デザインのベスト・ワンはどれ」
いきなりスミちゃんが切り出した。
「いつか聞きたいと思ってたんだけど、今日は珍しく全員集合だから」
「ああ、いいね。面白そう」
ヒゲ村が真っ先に反応した。
「じゃ、まず最初はヒゲ村君ね」
その顔には、イの一番に指名された嬉しさが溢れていた。
「ボクはリード・マイルスのデザインが好きだから、ソニー・クラークの『クール・ストラッティン』にとどめをさすね。写真を見てるだけであの曲が聴こえてきそうだよ。文字の組み方も動きを感じて抜群にいいし。これは違うけど、モノクロ写真に色ベタ処理のブルーノート独自のパターンをつくったのが凄いよ」
「なかなかのもんだね」
夏原が口を挟んだ。
「次はマジ村君」
「ボクはタイポグラフィーのものが好きだから、プレスティッジの『ムーズビル・シリーズ』が好きです。アルバムごとに色替えで見せるセンスは素晴らしいし、このシリーズを並べると実にきれいなんで、どんどん集めたくなりますよ。なかでも8番の『フランク・ウェス・カルテット』の色使いが気に入っていますね」
「あれはとてもきれいよね。カラヤンはどう」
スミちゃんは司会者のように仕切っていた。
「やはり『カフェ・ボヘミアのジョージ・ウォーリントン』が一番かな。メンバーがワシントン・スクエアに集合した写真が雰囲気があってとても好きなんだ。リーダーだけの写真は多いけど、一同に揃ったこの手のジャケットは意外とないよね。ウォーリントンの顔アップの別バージョンのはだめ」
「なるほどね。じゃわたしのベスト・ワンを発表します」
「待ってました」
誰かが合いの手を入れた。
「わたしスタイリストやってるでしょ。だからどうしてもそういう観点から入っちゃうのよね」
少しもったいをつけてスミちゃんが言った。
「あくまでもジャケットとして一番好きなのは、ブランズウィック・レーベルの『バード・イン・パリ』ね。写真がとてもいいと思うわ。バードにフィガロの新聞を読ませる感覚がいいわね。パリのエスプリがあるのよ」
「さすがスミちゃん、目のつけどころが違うよ」
ヒゲ村が横の席で、せいいっぱいもちあげた。そして言った。
「しんがりはいよいよマスターの番だよ」
夏原は、一枚のレコードを引き出して皆に見せた。
「ハンプトン・ホーズの『ザ・トリオ 3』のジャケットが一番好きだね。このワニのイラストレーションがジャズ感に溢れているじゃないか。ホーズの持ち味であるスウィング感もよく表していると思うんだ。ボクは何といってもこれだよ」
「まさにマスター好みの感覚ね」
「じゃ、これからジャケット・ベスト・ワン大会という事にしよう。最初に、えっとヒゲ村の推薦は何だったっけ」
「マスター、ついさっきなのにもう忘れたの。歳はとりたくないよな。『クール・ストラッティン』」
決めゼリフがほしかったのに、ヒゲ村はがっくりときた。
「この野郎大きく出やがったな。ジャズのジも知らなかったくせに」
珍しく夏原もはしゃいでいた。
ハイヒールの脚もとだけを切り取ったかの有名なジャケットを額に収め、ターンテーブルにレコードを置き、ゆっくりと針を置いた。何十年来と続けて来た同じ動作を、今また事もなげに始めるのだった。
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