オオカミになりたい(遺言)

ずっとそばにいるよ

月百姿 はかなしや波の下にも・・・

2017-06-01 | 月百姿

月岡芳年 月百姿

『はかなしや 波の下にも入ぬべし つきの都の人や 見るとて 有子』 

明治十九年届

有子(ありこ)は平安時代後期の女性 

厳島(いつくしま)神社の内侍(ないし) 生没年不詳

 

安芸の宮島へ出かけた徳大寺実定に仕えた内待の中に

有子という16、7歳の初心な少女がいた

国立国会図書館デジタルコレクション 049

 

本朝貞女物語 第四

有子内侍の事  

ありこはあきの国いつくしまのないし也。とくだいじの大なごん実定卿

ある時いつくしま。さんろうの時。ないし参りて今やうらうゑいしてなくさみ奉る。

是の中にありこのないしは十六七はかりにもやなりぬらん。

みめかたちはるの山にわけ出る。おぼろの月にもたとふへし。

とを山のみとりの色をまゆにうつし。やなきのかみたをやかに。

花のくちびるあさやか也。

心さしゆうになさけふかく。しかもびばの上手也。

しつていも思ひ入給へる御けしきにて。たたうかみにてすさみありて。

ありこかまへになけ給ふ山のはにちきりていでん

よはの月めくりあふへきおりをしらねと

ありこはたへす思ひしめたるけしきにて。是をとりてたちかへる
じつていは
たゝかりそめの御てすさひとおほしけるを。

ありこはしのひかたく思ひしつみかくてとくだいじとの都にのほり給ふ。
人/\御をくり申けれは
ありこはなきしほれ引かつきてふしたり。

すでに一日二日をすきしか共。ありこは思ひのいやまさりなり。

あてやかにものいとをしき女なれは。人/\よはひわたりむかへんといふものも

有しか共。めぐりあふへきおりをといへる。
その
ことのはのわすられす。あまりのこひしさに。ふねにとりのり

都ちかき所まてとなみのうへにたゝよひ。せめてふなぢのなくさみに。

ひはのきよくをたんじけれは。まつのあらしにかよひくかなみのをともやそへぬらん。

しんやうのえのほとりに。せいさんをぬらせしいにしへのためしも。いまはあはれなり。

つゐにつの国すみよしのおきにて。ふなはたに立あがり。かいしやうを見わたして


『はかなしや波のそこにも入ぬへし月のみやこの人や見るとそ』 

 

とうちなかめ。しのびやかにねんふつ申てやがて海にそ入にける。
かの哥みやこにひろう有けれは。きく人あはれをもよほしぬ

とく大じとのは。あめしづくとなきつゝ。あととふらひ給ひしと也

 

同様な内容は 源平盛衰記 巻三(波巻)

有子入水事(ありこじゅすいのこと)にも書かれていますが

本ブログでは 奈良女子大学翻刻 より転載させていただきました。