月岡芳年 月百姿
『から衣 うつ音きけは 月きよみ
またねぬ人を そらに知るかな』 経信
明治十九年届
源経信(みなもとのつねのぶ) は平安時代後期の公家・歌人。
宇多源氏、権中納言・源道方の六男。
長和五年(1016年) ~ 永長二年(1097年)閏一月六日
国立国会図書館デジタルコレクション 034
経信の帥大納言(源経信のこと)、八条わたりに住み給ひけるころ
九月ばかりに、月のあかかりけるに、ながめしておはしけり。
砧(きぬた)の音のほのかに聞こえ侍れば、四条大納言(藤原公任)の歌
「からころも打つ声聞けば月清みまた寝ぬ人をそらに知るかな」
と詠ふ給ふに、前栽の方に、 北斗星前横旅鴈 南楼月下擣寒衣
といふ詩を、まことに恐しき声して、高らかに詠ずる者あり。
「誰ばかり、かくめでたき声したらん」と思えて、驚きて、見やり給ふに、
長(たけ) 一丈五六尺(5m)侍らんと思えて、髪の逆様に生ひたる者にて侍り。
「こはいかに、八幡大菩薩、助けさせ給へ」と祈念し給へるに、
この者、「何かは祟りをなすべき」とて、かき消ち失せ侍りぬ。
「さだかに、いかなる者の姿とは、よくも思えず」と語り給へりけり。
朱雀門の鬼なんどにや侍りけん。それこそ、このころ、
さやうの数寄者(すきもの)にては侍りしか。
撰集抄 巻8第27話(102) 四条大納言(歌)
出典先:やたがらすナビ
「唐衣 うつ声聞けば 月きよみ まだ寝ぬ人を そらに知るかな」
(新勅撰和歌集 三二三) 実際の作者は紀貫之です。
澄んだ夜空の下に衣を打つ音が響く。
まだ寝ていない人がいる。
その人もこの月を見ているだろうか。