月岡芳年 月百姿
『かしかまし 野もせにすたく虫の音よ
我たになかく ものをこそおもへ』
「かしかまし 野も狭にすだく虫の音よ 我だになかく 物をこそ思へ」
明治二十三年印刷
平忠度(たいらのただのり)は平安時代末期の武将、歌人
平忠盛の六男で清盛の腹違いの末弟にあたる。
天養元年(1144年)~元暦元年2月7日(1184年3月20日)
国立国会図書館デジタルコレクション 018
<平家物語・巻第五 富士川>
『薩摩守忠度は・・・』
頼朝討伐軍の副将である薩摩守忠度は
ある宮腹の女房の許へ通っていましたが
ある夜女房の許にいた時、この女房の部屋に
身分の高い女房が訪ねてきて、夜が更けるまで帰りませんでした
忠度は軒端にたたずんで 扇をぱたぱたと荒く使ったので
女房は「野で虫が鳴いておりますわ」と優しく口ずさむと
忠度はすぐに扇を使うのを止めて帰ってしまいました。
身分の高い来客を追い返すわけにもいかず
恋人の忠度をさりげなく帰らせようとした女房と
和歌の知識からその意を汲んだ忠度の恋物語です
「源平盛衰記」では 身分の高い女房は
高倉院となっており(こちらが正解かも知れませんが)
源氏物語 夕顔の巻に
『かしかまし 野も狭にすだく虫の音よ 我だに物は言はでこそ思へ』
と出ている歌を 忠度は心得ていた。
忠度が扇を鳴らすのを 女房は虫の音に例えながら
下の句に忠度への思いも託した。
それも忠度はきちんと汲み取った。 とある。
『 野原も狭いとばかりに 騒がしく鳴く虫たちです
私さえも 黙って物思いにふけっているのに』