■「和」が招いたタコツボ化
中日新聞 2016/3/7
日本の家電メーカー、なぜ衰退 フィナンシャル・タイムズ紙のテット氏に聞く
台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業によるシャープ買収交渉が大詰めに入っている。日本の大手電機メーカーの外資傘下入りは初。東芝も不正会計問題からの再建に苦しむ。世界を席巻した日本の家電産業の衰退がなぜ止まらないのか。文化人類学者の経歴も生かし、近著「サイロ・エフェクト」で大組織の失敗の原因を分析した英フィナンシャル・タイムズ(FT)紙米国版編集長のジリアン・テット氏に聞いた。
■「和」が招いたタコツボ化
-日本の家電メーカー衰退の原因は。
部門ごとでは優秀な技術を持っているのに、会社全体として消費者の望みに応えられていないのです。こんな場面を覚えています。一九九九年、米ラスベガスの家電ショーで、ソニーの幹部が『メモリースティック ウォークマン』という製品を紹介。聴衆はデジタル時代のウォークマンの登場と歓迎し、大きな拍手が起きました。
しかし、次に別の幹部がペン型の音楽再生機を紹介しました。全く同じような製品を別部門も作ってしまっていたのです。その間にアップルはiPod(アイポッド)を開発していました(二〇〇一年に発売)。
-なぜそんなことに。
ソニーはハードも音楽ソフトも持ち、多部門の技術者が協力すればiPodのような製品は開発できたはず。ところが逆に各部門が競い合ってしまったのです。組織が大きくなると各部門が専門化し、窓のない貯蔵庫のサイロやタコツボみたいに他部門と壁をつくってしまう現象が起こるのです。
-日本ではチームプレーが重視されているが。
日本の組織では「和」が尊重されています。しかし、社員がいったんある部署に所属すると、そのチームの長や仲間のためには忠誠を尽くすけれど、それ以外の部門と協力しなくなる特徴がある。企業が小さいうちはうまくいったが、戦後成長で組織が大きくなるにつれ「和の文化」の負の面が目立ってきています。今後は家電や自動車は情報技術と一体化する。専門の垣根を越えて何が消費者の役に立つかアイデアを出さねばならず、タコツボ型組織では通用しません。
■部門の垣根越え、協力を
-防止の方法は。
例えば、フェイスブック社は意識的にタコツボを壊そうとしています。技術者を定期的に異動させたり、部門を超えて技術者を一堂に集めて課題を解かせるイベントを開催している。社員が集まりおしゃべりできる広場もあります。偶然の交流から新発想が生まれることも多いのです。
-日本経済自体も難局にあるが、どう考えるか。
リーマン・ショック後、各国は金融や財政で景気をテコ入れしましたが、その効果が切れてしまいました。一方で、各国は成長率を高める経済改革を怠ってきました。
日本ではアベノミクスの金融緩和は、本来は経済改革などの苦い薬を飲むためのシュガーコーティング(糖衣)の役割を果たすはずだった。ところが、改革は行われず金融緩和頼み。政治家たちは周りの甘い部分だけなめてしまって、薬自体は飲まなかったのです。金融・財政政策の担当者と、経済改革の担当者がタコツボに入り、連携していません。
-日銀のマイナス金利の効果は。
マイナス金利は円安・株高を起こして春闘の賃上げを狙っていますが、一方で日銀がデフレ懸念を認めたのと同じです。物価が下がる可能性が高いのに、経営者は賃上げをするでしょうか。これも矛盾に満ちた政策です。
◆2児育てるシングルマザー
テット氏はシングルマザーとして十二歳と十歳の娘を育て、編集長兼コラムニストの要職と両立する。子どもが生まれて数年は週三日の勤務に。ベビーシッターや家事手伝いの留学生の手も借りるが、「娘と食事し宿題を教えて過ごす時間が大切」と語り、会社でなく家で仕事をすることも多いという。「柔軟な働き方を認めてくれる会社に感謝しています」
少子高齢化が進む日本でも女性労働力活用が課題。「政府や企業は育児支援を大幅に充実させ、女性が家で仕事をすることも柔軟に認めてほしい。育児休業した女性は仕事をあきらめたわけではない。復職できるようにすることが大切」とアドバイスする。
一九六七年生まれで、ケンブリッジ大で文化人類学博士号を取得。記者になる前は中央アジア・タジキスタンに三年間滞在して研究。九七年から二〇〇三年までFT紙東京支局長。
(東京経済部・池尾伸一)