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山崎入門 vol.5 “樽熟成の神秘。”

2017-03-20 21:50:28 | 日記
 
 
  
 

ニュース

ブランド2016年9月27日
  • 山崎入門 vol.5 
    “樽熟成の神秘。”

人間が熟成の神秘に出会うまで。

熟成の時を重ねる貯蔵樽熟成の時を重ねる貯蔵樽

シングルモルトウイスキー山崎に関する基礎知識をご紹介する「山崎入門」。5回目の今回は、「樽熟成の神秘」について解説します。

前回の山崎入門では、発酵・蒸溜工程での原酒のつくり分けについてご紹介しました。蒸溜されたニューポットは、そののち樽に詰められ貯蔵庫で長い眠りにつき、熟成の時を過ごします。

ウイスキーの歴史上、人々ははじめから現在のように熟成したウイスキーを飲んでいたわけではありませんでした。諸説ありますが、ウイスキーの起源は、12世紀から15世紀頃に、アイルランドやスコットランドで蒸溜酒が飲まれていたことに始まると言われています。この頃のウイスキーは、まだ蒸溜したままの無色透明の酒であったと考えられています。

18世紀に入ると当時の英国政府は、スコットランドの蒸溜業者に重い税金をかけ始め、スコットランドの人々は重税を逃れるため、役人が入り込めない山奥でウイスキーを樽に入れて隠したと言われています。何年も放置されていた樽の中の酒を飲んでみると、美しい琥珀色を帯びた液体は、深い円熟した味わいに変わっていたといいます。

この出来事が、人間が熟成の神秘と出会ったきっかけであると考えられています。

熟成の神秘。

樽の中で熟成を重ねることでウイスキー特有の琥珀色と奥深い香味を纏う樽の中で熟成を重ねることでウイスキー特有の琥珀色と奥深い香味を纏う熟成による原酒の色づき
熟成による原酒の色づき

蒸溜して出来たニューポットを、樽の中で長い時間をかけて寝かせる。5年、10年、20年…と時を経るにつれ、ウイスキーはあの琥珀色と奥深い香味をゆっくりと纏っていきます。

熟成のメカニズムは、いまだに科学的に解明されていないことが多くあります。したがって、科学の力で早めることもできず、長い長い時間をかけて丁寧に手をかけていくことしか、人間は良いウイスキーを手に入れる方法はないのです。あらゆることに性急さを求められる現代において、ゆっくり時間をかけることによって生まれたウイスキーの味わいは、とても貴重な存在と言えるかもしれません。

ウイスキーは、長年樽で寝かせている間に、樽材のわずかな隙間から少しずつ蒸散します。その割合は年間2〜4%と言われ、半分以上が蒸散してしまうこともあります。

昔の人たちは「天使に分け前を取らせているからこそ、我々は美味しいウイスキーを手に入れることができるのだ」と、樽から減った分のウイスキーのことを「Angels' share(天使の分け前)」と呼んできました。

そうした熟成を経て、製品として皆さんのお手もとに届くウイスキーのラベルに表記されている年数は、樽の中での熟成年数を示しています。例えば「山崎12年」は、使われている原酒のうち、一番熟成年数の短い原酒が12年であることを表しています。実際「山崎12年」には、12年以上の様々な熟成年数の原酒が、バランスよくヴァッティングされています。

山崎蒸溜所の貯蔵工程。

山崎蒸溜所の貯蔵庫山崎蒸溜所の貯蔵庫さまざまな樽による原酒のつくり分けさまざまな樽による原酒のつくり分け

整然と積まれた樽が静かに熟成の時を重ねる、山崎蒸溜所の貯蔵庫。一歩足を踏みいれた途端、濃厚なウイスキーの香りに包まれます。

山崎蒸溜所の特長のひとつは、いくつものウイスキーづくりの工程で、さまざまに原酒のつくり分けをおこなっている点。貯蔵工程においても、寝かせる樽の種類を変えることによって、多彩な原酒を生み出しています。

バーボンの貯蔵に一度だけ使用された容積約180ℓの樽「バーレル」。そのバーレルを容積約230ℓに組みなおした「ホッグスヘッド」。これらは容量が比較的小さいので、熟成が早く、バニラのような甘い芳香を放つ原酒が生まれます。

大容量の北米産ホワイトオークの新樽「パンチョン」は穏やかに熟成。スパニッシュオーク製の「シェリー樽」は果実やチョコレート風味の原酒を育みます。また、日本特有の「ミズナラ樽」は、白檀や伽羅を思わせるオリエンタルな香味を生みます。

同じ樽に詰めても、同じように熟成が進むわけではないのが、熟成が神秘的と言われる所以のひとつ。貯蔵庫内でも、樽の置かれる位置が数メートル違うだけで、原酒の特徴が変わることもあります。この“神秘性”が、ウイスキーづくりをとても手間のかかるものにしている一因でもあります。年月を経るにつれ、人間の想像を超えて育っていく原酒たちの状態を、つねに把握しておく必要があるのです。

どの樽がどのように熟成しているかを把握するために、ブレンダーと貯蔵工程の職人が緊密に連携して、つねにチェックしています。約100万樽の樽ひとつひとつの状態を、自分たちの五感をつかって確かめていき、熟成のピークを見極めます。

樽を見守り育てる、貯蔵工程の職人樽を見守り育てる、貯蔵工程の職人

また、貯蔵工程の職人は、広大な貯蔵庫の中を歩き回り、ひとつずつ樽を叩いて、その音で中の原酒の様子を推し測ったり、樽から原酒が漏れていないかなどを点検し、原酒が順調に成長していける環境を整えています。

貯蔵工程の責任者、野田頭氏が語ります。「熟成が進むにつれて、それぞれに異なる個性を持ちはじめる原酒たちは、子供のように愛おしく感じます。仕込み、発酵、蒸溜と多くの人の手を経てつくられた大切な原酒を預かるわけですから、“天使の分け前”以外は、一滴も漏らすことなくお客様の手に届けたい。そんな気持ちで仕事をしています。」

次回の山崎入門は、「ブレンダーの仕事とは。」です。お愉しみに。

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