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Nさんより新国立劇場バレエ団の今シーズン最終日の寄稿頂きました。
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新国立劇場バレエ団 マクミランの『ロメオとジュリエット』
2011年7月3日(日)
ジュリエット:酒井はな
ロメオ:山本隆之
マキューシオ:福田圭吾
ティボルト:古川和則
ベンヴォーリオ:厚地康雄
パリス:輪島拓也
キャピュレット卿:マイレン・トレウバエフ
キャピュレット夫人:西川貴子
乳母:遠藤睦子
ロザライン:川村真樹
大公:森田健太郎
ロレンス神父:石井四郎
モンタギュー卿:小笠原一真
モンタギュー夫人:千歳美香子
3人の娼婦:寺田亜沙子 堀口純 北原亜希
ジュリエットの友人:大和雅美 井倉真未 細田千晶
川口藍 加藤朋子 盆子原美奈
ロザラインの友人:酒井麻子
マンドリン・ソリスト:グリゴリー・バリノフ
マンドリンの踊り:アンダーシュ・ハンマル 小口邦明
清水裕三郎 田中俊太郎 原健太
楽日の酒井さん、山本さんペアを鑑賞した。
酒井さんのジュリエットは光り輝く宝石のような煌きがあり、
どこにいても圧倒するオーラがあった。
登場して人形と遊び、乳母と戯れているときは子供そのもので、
ころころと表情を変えながら椅子の陰から飛び出し、
乳母をからかっている姿が何とも愛らしい。
しかしながら舞踏会に現れると、大人になりつつある令嬢らしい
華やかさ、艶やかさを備えていた。
また持ち前の身体能力を駆使して感情一つ一つを身体全体を使って雄弁に表現し、
ジュリエットの心情が舞台一杯に広がり客席に届いていた。
3幕ではロメオへの思い、親への反抗心、薬を飲むまでの葛藤が全身から溢れ、
1人舞台でも観客の心を捉えて離さない。
内側から込み上げている感情がそのまま客席まで伝わり、
舞台の世界に引き込んでいた。
登録ダンサーになって以降新国立劇場への登場機会が減っていることが勿体ないほど
今まさに脂がのっているダンサーである。
これからも新国立劇場の舞台に立ち続けてほしい。
山本さんのロメオは様々な要素を持ち合わせた
奥深い魅力のある人物であった。
1幕冒頭で登場したときは、
絵本から抜け出したかのような息を呑む美しさがあり、
良家の息子らしい穏やかな気品が漂っていた。
同時に幼い頃からキャピュレット家との争いの荒波に揉まれてきたであろう
力強さもあり、剣を手にする姿も違和感が無い。
まさにその時代を生きている人物に見えた。
しかしながらマキューシオやベンヴォーリオと一緒にいるときは
3人の兄貴分にあたるしっかり者のようでいながらもお茶目な面も垣間見られた。
ジュリエットの乳母から貰った結婚承諾の手紙を受け取った際の
子供のように喜ぶ姿は屈託のない可愛らしさがあり、
ジュリエットの婚約者が敵対する家の息子であるにも関わらず
乳母が思わず笑顔になることも大いに納得がいった。
舞踏会でジュリエットのマンドリン演奏に乗って踊る場面では
仮面越しでもジュリエットへの愛が伝わり、
心のこもった柔らかな踊りで魅せてくれた。
ジュリエットの友人達が心ときめかせたのは無理もない。
バルコニーのパ・ド・ドゥでの連続する回転は
こなすだけでも精一杯になりそうな振付だが、
満面の笑みを浮かべて危なげなくこなしていて
幸せの絶頂にいるロメオの表情を崩していないのは見事であった。
ジュリエットと密かに結婚した後
ティボルトとマキューシオが争う場に居合わせたときは、
友情と結婚との狭間で苦悩する複雑な心情が伝わってきた。
マキューシオがティボルトに刺殺された直後
最初は悲しみに暮れながらマキューシオを抱きかかえ、
その後じわじわと怒りが露になっていく。
ジュリエットと過ごしているときや、結婚したことにより
ティボルトに対して和解を示していた際の温厚さは一切消え、
あたかも別人のように殺気立ってティボルトに挑みかかる姿は凄みがあった。
ティボルトが息絶え、悲しみのあまり狂乱するキャピュレット夫人と、
我に返って後悔し、彼女に泣きすがりつくロメオの2人の混乱ぶりは凄まじく、
2幕の最後はより悲壮さを感じさせた。
酒井さん、山本さんそれぞれが別々の場面で踊る箇所は勿論素敵であったが、
2人で踊る場面では極上のパートナーシップを再確認した。
例えば出会いの場面、ただ見つめ合っているだけでも迫るものがあった。
徐々に魅かれ合ってロメオが深い愛でジュリエットを包み、
ジュリエットもまた彼の愛に応えて、
初めてのときめきに心を弾ませていることが心の奥まで伝わってきた。
舞踏会が一段落し、入れ替わり立ち替わり入ってくるキャピュレット家の人々の目を盗んで
密かに思いを打ち明ける場面ではその時点で既にこぼれんばかりの愛情を注ぎ合っていて、
誰かに見つからないかと一層そわそわとさせられた一幕であった。
バルコニーのパ・ド・ドゥでは難易度が高く危険なリフトが多々あるが、
酒井さんは水の中ですいすいと泳ぐ魚のように気持ち良さそうで
天にも昇る幸福感に満ちていた。
山本さんによる盤石のサポートと、お互いの信頼関係があってこそ生まれたのであろう。
2人の間で交わされる愛の深さは計り知れないものがある。
3幕での別れのパ・ド・ドゥ、そして生きて再会できず死を選ぶ姿からは
溢れ返る悲しみや切ない思いが観る者の胸を響かせた。
共演舞台は何度も観てきたが、
いかに強固なパートナーシップを築き上げてきたかを改めて感じさせた。
現時点では来シーズンの共演は未定だが、実現を切に願うばかりである。
願わくば、是非マノンで共演してほしい。
濃密で深い愛の物語を紡ぎ出してくれることであろう。
今回マクミラン版『ロメオとジュリエット』は7年ぶりの上演で、
首を長くして待っていた人が多いことは想像に難くない。
非常にドラマティックな作品で、踊る人によって全く解釈が異なり
毎回新鮮な心で鑑賞できた。
プロコフィエフの重厚で起伏に富んだ音楽もまた、作品を大いに盛り立ている。
ビントレー体制になった利点を活かし、版権を守り続けてほしい作品だ。
また近いうちに上演される日が今から楽しみである。
2010/2011シーズンはこれにて終わり、来シーズンは10月のガラで幕を開ける。
東京で新国立劇場バレエ団のガラが開催されるのは久々のことだ。
ダンサー達の華やかな舞台に期待したい。
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