仕事から帰った父は
ネクタイを外して着替えながら
世間話をするように言った。
「オレなあ、この年になっても
自分がどういう人間か
全然わかってない」
「アンタ、どうや?
自分がどういう人間か
わかってるか?」
ワカッテナイ…
「そうやろう。そんなもんや」
???
「いや、今日な、長いこと会わんかった
中学の同級生に、たまたま会うたんや」
「で、立ち話してたら、そいつが
『そういえば、昔っから○○(父の旧姓)は
ようそんなこと言うとったなあ』って言うんや」
「そんなことって、大したことやないけど
そ~んな昔から、自分が言うてたとは
思わんかったから、もうびっくりした」
「ほんとかあ?って聞いたら
『だってお前、そういう奴やったやないか。
自分で覚えとらんがか?』って」
「覚えとらんのやなあ、それが」
「相手は何でもなさそうに言うんやけど
自分がいつも、そんなこと言うとったとは
どうしても思えん」
「要するに、や」
「自分で自分のことが
今でも全然わかっとらんのやわ。
この年になっても
自分がどんな人間なんか」
イツカワカルモンナン?
ワカランママ??
「あんなあ、自分より上のヤツがおるやろ。
ウエノヤツ?
「親とか兄弟、兄貴とか」
「それが一人ずつおらんようんなると
少~しずつわかってくるんやわ」
「全部わからんでも。少しずつでも」
オトウチャン、マダワカッテナイッテ…
「そういえばそうやった(爆笑)」
「でも、そうなんやぞ」
父がガンで亡くなる、何ヵ月前だったか…
書斎の大きな姿見の前で
何気なく交わした会話を、今も時々思い出す。
もう30年以上前のこと。
でも、70歳目前の今も
わたしは自分がどういう人間か
ヨクワカラナイままだ。
今思うと、当時の父は60そこそこ。
妙なところが似た
父娘だったんだな~と
ちょっと呆れている。
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