道統の句 英訳 (Kokushi's Haiku in English) 各務恵紅訳

2022年03月31日 | 俳句
 NHKの朝ドラ「カムカムエブリボディ」がまもなく終了しますが、三代目主人公ひなたは成人後の一念発起でラジオ英語会話を毎日聞き続け、約十年後、見事にネイティブとのよどみない会話と同時通訳の出来るレベルに達しました。各務恵紅さんはご自身も俳句を詠まれますが、月刊俳誌「獅子吼」の中に前月号の宗匠の句を英語の三行詩に翻訳し、日本語の鑑賞文を付け加えた形で15年近くも執筆されています。今回は2022年3月号の掲載分をご紹介します。


牡蛎鍋を食うやいよいよ饒舌に   鵠士
Eating oyster firepot,
and becoming more more
talkative


 冬のご馳走といえば何といっても鍋料理でしょう。家族や気のおけぬ友人と囲む鍋は、体も心も温めてくれます。心がほぐれれば、おしゃべりが弾み、饒舌になるのは人の常です。この句で面白いと感じたのは、いろいろな種類のある鍋の中でも、「牡蛎鍋」となっている点です。「牡蠣」は英語で”oyster”ですが、この語には「口の堅い人、無口な人」という意味があります。英語にしてみて”oyster”と「饒舌」の対比に、ユーモアを感じました。


虎伏すと見ゆる山々冬至けふ   鵠士
Mountains look like a tiger
lying face down--
today winter solstice


 冬の山のたたずまいは、「山眠る」と表現されますが、この山々は、「伏す虎」に見えています。伏しているので、眠っている姿とも取れますし、また何か獲物をじっと待っている態勢とも取れます。「冬至けふ」という下五は、これから本格的な冬の寒さが訪れることを表すと同時に、この日から一日一日太陽に力が戻り始めることも示しています。冬の寒さで眠る虎とも、太陽とともに少しずつ力を蓄え、獲物に跳びかかる時を狙っている虎とも考えられます。


声無くも目に確かなり初笑   鵠士
Even without a voice,
the year's first laugh can be surely read
in her eyes


 「笑う門には福来る」と言うように、「笑い」は福を招くので、新年の初笑は特にめでたいものです。昨今のコロナ禍で、マスク着用が日常になり、声もくぐもり笑っても口元を見ることができません。しかし目元から、確かに笑っているのを読み取っています。「声無く」というのは、声を出せない人、声を失った人とも取ることができますが、やはり現在の「マスク生活」を表していると読みました。初笑いの人は、男性・女性どちらとも考えられますが、英訳では女性として”her eyes”と訳しました。

2 コメント

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oyster (きりぎりす)
2022-04-01 07:21:51
の別の意味を教えて貰ってこの句の軽妙さを知りました。
牡蠣鍋はやはり味噌でしょうか。
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高校時代の思い出 (健人)
2022-04-01 11:57:30
新々英文解釈研究(山崎貞・著)という参考書が高校三年間の必修の書でした。その中のかなり始めのページにこんな例文があったのを鮮明に覚えています。
He is an oyster of a man.
(彼はカキのように寡黙な人だ)
昨日ネット検索したら、すぐに引っ掛かりましたが、この文章をネイティブのビジネスマンや外交官に見せるとほとんどの人が意味を理解できなかったそうです。山崎貞という人は明治の生まれで、実はとても古臭い英語表現を使っており、実用英語には程遠い文章だったようです。
ジーニアス英和辞典で引いたら、as close as an oyster で「カキのようにとても口が堅い、秘密をもらさない」という表現が出てきました。寡黙な人とはちょっと違ったニュアンスですね。
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